【弁護士のコラム】罹災証明問題を考えるシンポジウムに参加して感じたこと
先日、日本弁護士連合会主催・金沢弁護士会共催によるシンポジウム「能登半島地震 二人三脚の復興を目指す 〜罹災証明問題を考える〜」にオンラインで参加しました。
本年(令和6年)1月1日に発生した能登半島地震からすでに10か月以上が経過した今でも、復興への道のりはまだまだ途上ともいえる状況にあります。
それにもかかわらず、本年9月には追い討ちをかけるように、奥能登豪雨が発生しています。
表記のシンポジウムでは、特定非営利活動法人YNF代表の江﨑太郎氏による「復興支援『ミツバチ隊士業派遣プロジェクト』で見えてきた現状」に関する報告があったほか、罹災証明問題を考えるパネルディスカッションが行われました。
今回は、シンポジウムに参加して感じたことを書き記したいと思います。
ミツバチ隊士業派遣プロジェクトについて
シンポジウムの冒頭では、特定非営利活動法人YNF代表の江﨑太郎氏による「復興支援『ミツバチ隊士業派遣プロジェクト』で見えてきた現状」に関する報告がありました。
ミツバチ隊士業派遣プロジェクトとは
『ミツバチ隊士業派遣プロジェクト』とは、弁護士と建築士がタッグを組む形で行われた派遣型の被災者支援活動。
これまで士業の相談会や被災者の支援活動はそれぞれのフィールドで行われているのに対して、
・「弁護士×建築士」というタッグを組んで行われた
・「派遣型」で行われた
という点に大きな特徴があるそうです。
なぜこの取り組みが行われたのか
今回、なぜミツバチ隊士業派遣プロジェクトが行われたのか。
江﨑氏によると、
・災害ケースマネジメントにおける個別訪問などは、さまざまなセクターで行われており、例えば、厚労省では、被災者支援事業として被災高齢者事業等把握事業と被災者見守り相談支援事業が行われているが、被災者見守り相談支援事業の際に、被災者の住まいの再建ノウハウを持った機関がなく「つなぎ先がない」という点が常に課題となっている。
・すなわち、住まいの再建について、専門的に相談できる機関が存在していない。
・被災者の住まいの再建と一言で表しても、ノウハウが必要であり、誰でもいきなり始められることではない。
という課題を背景に、
弁護士と建築士がタッグを組んで、住まいの再建に悩む被災者の方々を訪問することにより、①建物に関すること(例えば、家を解体をする必要があるのかどうか、修理をすれば引き続き住むことができる状況なのかどうかなど)と、②制度に関すること(例えば、家を再建するために実際にどのような制度が利用できるのか、法律上どのようなことが問題となり得るのかなど)を一連の流れとして相談することができるような取り組みが必要であろうと考えられたことにあるとのことでした。
この活動で目指したいこと
そして、江﨑氏は、この活動で目指したいこととして、
・被災者の住まいの再建に関する支援の重要性の認知向上
・一人ひとり+1軒1軒に合った再建方法の提案
・専門性の壁を超えた総合的な支援の提供
・アウトリーチ型相談支援の重要性の認知向上
・相談後の伴走型支援の必要性に対する認知向上
という点が挙げられていました。
支援現場における問題
もっとも、支援の現場においては、例えば、今回の能登半島地震と奥能登豪雨などのように、わずかな期間に何度も被災した場合、被災者は一体「どの災害を基準にすべきなのか?」という問題や、支援の公平性の問題、調査の妥当性の問題など、さまざまな課題が存在するということがあるといいます。
江﨑氏の講演を拝聴して
災害時における支援活動は、さまざまな団体・個人により行われています。
被災地を応援したい、1日でも早く復興してほしい、という想いは誰しも同じであると思います。
他方で、江﨑氏の講演を拝聴し、実は支援活動がバラバラに行われていることで、真の支援が行き届かないという現実があることも実感しました。
士業という専門家の強みは、「その専門分野に長けている」ということであり、同時に、その専門性が弱みでもあります。
ミツバチ隊士業派遣プロジェクトは、まさに法律のプロである弁護士と建築のプロである建築士がタッグを組むことにより、それぞれの専門性(強み)を活かし、住まいの再建という被災者の方々にとってもっとも大きな問題に取り組んでいくことであったと考えられます。
被災地の支援は、一通りではなく、それぞれの災害における課題も異なっているからこその難しさがありますが、今回、ミツバチ隊士業派遣プロジェクトについて知り、新しい専門家の働き方、あるべき姿を知ることができました。
また、改めて、弁護士として、被災地支援にどのような形で携わることができるのかを考える貴重な機会となりました。
罹災証明問題を考えるパネルディスカッションについて
その後、シンポジウムでは、「二人三脚の復興を目指す 〜罹災証明問題を考える〜」をテーマとするパネルディスカッションが行われました。
パネリストとしては、江﨑氏に加えて、林正人氏(一級建築士、能登復興建築人会議)、永野海弁護士(日弁連災害復興支援委員会副委員長)、堀井秀知弁護士(日弁連災害復興支援委員会副委員長)が登壇され、津久井進弁護士(日弁連災害復興支援委員会元委員長)がコーディネーターを務めておられました。
罹災証明について知られていないという実態
実は、罹災証明については、「そもそも何のこと?」という被災者の方も多いそうです。
しかし、罹災証明書は、災害対策基本法上、市町村長は、当該市町村の地域に係る災害が発生した場合、被災者から申請があったときは、遅滞なく、住家の被害その他当該市町村長が定める種類の被害の状況を調査し、罹災証明書を交付しなければならないと定められているものです。
罹災証明書は、さまざまな被災者支援策の適用の判断材料となる非常に重要な書類であり、この存在自体が知られていないという実態は非常に大きな問題であるように感じます。
なぜ自治体の判定をめぐり行政と市民が対立することが多いのか
また、罹災証明書における各自治体の判定をめぐっては、行政側と市民側とが「対立」してしまうという構造に陥りやすいといいます。
この背景には、市民からの「判定をもう一度見直してほしい」「家をもう一回見てほしい」という声が、自治体にとっては、クレームや批判のように見えてしまうという実態があるようです。
しかし、罹災証明書は、災害救助法に基づく応急仮設住宅や住宅の応急修理、被災者生活再建支援金などの支援に直結するものであり、判定の見直しにより支援が相対的に増えることは、すなわち当該自治体に対する国からの補助も増えることにつながるものです。
パネリストからは、自治体と住民とが「復興」という同じベクトルに向かって、いかに実態に沿った罹災証明を得られるか、という点を日頃から考えていくことが大切である、との声も聞かれましたが、まさに自治体と住民とが一体となってこそ、復興は成し遂げられるものであることを実感しました。
二重の被害には二重の支援を
石川県では、能登半島地震の直後に奥能登豪雨が発生しました。
本年(令和6年)10月7日、石川県は事務連絡により、二重被災の罹災証明の判定方法について、
・地震と豪雨の被害点数を合算する方法
・豪雨被害を別個の被害として判定する方法
という2つの方法のうち、被災者にとって有利な方法を選択できる旨の考えを示しました。
従来、他の被災地においても、被害点数を合算するという加算方式が採られたり、被災者にとって有利な方法を選択できるような運用がなされたりするケースはあるようですが、結局のところ、ケースバイケース。
パネリストからは、「二重の被害には二重の支援を」ということは何ら不合理な考え方ではなく、やはりこの点について明確な指針を示すべきであるとの見解が示されました。
「二重の被害には二重の支援を」。当たり前のことであるにもかかわらず、当たり前になっていないという現実に驚かされましたが、この点は弁護士としても声を大にしていかなければならないと感じました。
おわりに
このほかにも罹災証明に関するさまざまな問題提起がなされ、全てを書き切ることは難しいため割愛しますが、シンポジウムの最後にパネリストからあった「住民のための罹災証明であってほしい」という一言は、とても印象に残りました。
また、シンポジウムを通じて、大学時代、岡本正先生の災害復興法学の講義に出会い、災害ADRや法律相談などを通じて被災者のニーズを収集し、その中で明らかになった課題や問題点を分析すること、既存の法制度上の課題に向き合い、必要な法改正などの政策提言をしていくこと、次の災害に向けた準備をしていくことなどの重要性について学び、感銘を受けたことを思い出しました。
自分自身の力は微々たるものですが、これからも被災地支援について、さまざまな情報収集を続け、法律家として何ができるのか、考え続けていきたいと思います。(弁護士菊池帆花)