法律コラム

内縁の成立及び効力の準拠法はどこの国の法律?【東京家裁令和7年1月31日審判】

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国際的な交流が活発化する中で、日本という国を超えて人と人が出会ったり、何かの取引が行われたり、契約が行われたりすることも増えてきました。
法律の面からみてみると、日本国内の人同士が当事者であれば、両者の間で何かトラブルなどがあったとしても、「日本法」が適用されることはいわば当然だと感じると思います。もはや何も考えず、知らず知らずのうちに日本法を使っているのかもしれません。

他方で、当事者の一方や双方が外国の方であった場合にはどうでしょうか。
この場合には、「準拠法」(=どの国の法律が適用されるのか)について、改めて考える必要が出てきます。どこの国の法律が適用されるか次第で、実は結論が大きく変わることもあるため、準拠法はとても大切なのです。

裁判例のご紹介(財産分与申立事件・東京家裁令和7年1月31日審判)

さて、今回は、内縁の成立及び効力について、いずれの国の法律が適用されるのか?が問題になった事案をご紹介します。

どんな事案?

この事案は、Xさんが、Yさんに対して、XさんとYさんが内縁関係にあったことを主張して、財産分与を求めた事案です。

何が起きた?

当事者について

Xさんは、オーストラリア国籍の女性です。
Yさんは、米国国籍(C州出身)の男性です。Yさんは、平成15年から日本に居住しています。

XさんとYさんの交際開始

Xさんは、オーストラリアにおいてA社のNオフィスで勤務していました。
そのような中、Xさんは、平成25年から、A社のBオフィスに出向し、その間に、同オフィスに勤務していたYさんと出会って、交際を開始しました。

XさんとYさんの同居の開始

その後、Xさんは、Bオフィスでの出向を終えてオーストラリアに帰国しましたが、XさんとYさんの交際関係は続いていました。
そして、Xさんは、平成26年1月、再び来日し、同月からYさんとの同居を開始しました。また、Xさんは、日本での就労ビザを取得し、A社のBオフィスで勤務するようになりました。

XさんとYさんの関係性

なお、XさんとYさんは、婚姻届や婚姻の登録など、法律婚を成立させるための手続を、いずれの国においても行っていませんでした。
また、XさんとYさんは、共同生活を継続しながら、平成26年末以降数年の間、毎年、米国の実家又はオーストラリアの実家を交互に訪問し、互いの親族とも交流していました。

財産などの管理状況

XさんとYさんは、平成29年に投資用マンションを共同して購入し、その住宅ローンの支払や賃貸借契約の管理のため、共同名義の銀行口座を開設し、管理していました。
このほか、XさんとYさんは、日常の生活費等について一方が他方の分も負担することはあったものの、それぞれ、銀行口座等を含め、単独名義で資産を保有し、単独で管理していました。

共同生活の解消

しかし、XさんとYさんは、令和4年10月頃、Yさんが他の女性のメールのやりとりを発見したことをきっかけに関係が悪化し、同年11月11日、Xさんが転居することにより共同生活を解消しました。
なお、Xさんは、Yさんとの共同生活中、度々、Yさんに対して、結婚に対する嫌悪感や、結婚する必要がないこと、結婚を回避すべきことなどを伝えていました。また、Xさんは、知人から結婚を勧められたり、Yさんと婚姻関係にあるかどうか聞かれることに対する嫌悪感を述べていたほか、知人や友人に対して、Yさんと結婚していないことを強調して伝えていました。

調停の申立てと審判への移行

このような経過を踏まえて、Xさんは、令和5年9月20日に、Yさんが内縁関係にあったことを主張して、財産分与を求める調停を申立てました。
しかし、この調停は令和6年5月20日に不成立となって、審判に移行しました。

問題になったこと

Xさんは財産分与を求めるにあたり、Yさんとの間で内縁関係にあったと主張していました。
しかし、本件では、Xさんがオーストラリア国籍、Yさんが米国国籍(C州出身)という背景事情がありました。
そこで、この事案では、内縁の成立及び効力を判断するにあたって、いずれの国の法律が適用されるのか?(準拠法)が問題になりました。


裁判所の判断

この点、裁判所は、
「内縁関係の成立及び効力の準拠法については、内縁(事実婚)の成立要件及び効力が国や地域によって様々であり、かつ、その成否及び効力が密接に結びついている」
ことを指摘し、法の適用に関する通則法33条を適用して、
「各当事者の本国法」が準拠法になる
と判断しました。

なお、裁判所は、準拠法に関する上記判断の後、Xさんの本国法であるオーストラリア法とYさんの本国法であるC州法についてそれぞれ検討し、本件においては、C州法上、YさんのXさんに対する財産分与義務が認められないことから、Xさんの申立てを却下するとの結論を導いています。

(2) 準拠法について

  ア 内縁関係の成立及び効力の準拠法については、内縁(事実婚)の成立要件及び効力が国や地域によって様々であり、かつ、その成否及び効力が密接に結びついていることからすれば、法の適用に関する通則法33条を適用し、各当事者の本国法と解するのが相当である。

  イ 本件についてみると、申立人の本国法については、オーストラリア法となるところ、オーストラリアの統一法である1975年連邦家族法は、事実婚関係の成立要件として、〈1〉互いに法的に婚姻していないこと、〈2〉家族関係にないこと、〈3〉二人の関係に関するあらゆる状況(関係の期間、共同生活の実体の程度、性的関係の有無、経済的な依存の程度、経済的支援の取決め、財産の所有・使用・取得、共同生活に対する相互の関与の程度、関係が法に基づき事実婚関係として登録されていたか否か、関係についての評判と公的な側面)を考慮した結果、真正な家庭的基盤の上に同居しているカップルの関係にあることを規定している(甲15)。また、同法は、事実婚関係の解消の効力の一つとして、財産分与を規定しており、事実婚関係の期間が2年以上など、一定の要件を満たす場合には、裁判所は、当財産分与について命令することができる。(甲18)

  ウ 次に、相手方については、相手方の本国である米国は、地域により法を異にする国であり、かつ、法を指定する規則がないことから、相手方に最も密接な関係がある地域の法が本国法となる(法の適用に関する通則法38条3項)ところ、相手方は、米国C州出身であり、同州が相手方に最も密接な関係があるといえるから、C州法が本国法となる。

  C州法においては、法律婚の方式によらない事実婚の類型として、〈1〉当事者双方を死亡あるいは離婚によってだけしか解消されない関係に結合する正式な儀式を経ることにより成立する儀式婚、〈2〉同棲当事者の一方が、彼らの間に存在する関係が、有効な婚姻を形成しているとの善意の信念を有している場合に成立する想像婚、〈3〉その同棲関係が、有効な婚姻を構成するものではないという当事者の認識の下に、選択的・意図的に形成される男女の結合関係である不法婚があるとされている。C州法上、儀式婚は有効な婚姻とされ、想像婚については法律婚と同様の効力が認められているが、不法婚については、法律婚の効力は原則として認められていない。そして、C州の判例法では、不法婚のカップルが別れる場合の財産関係について、夫婦共有財産制は適用されないものの、当事者間に明示の契約が存在し又は黙示の契約が認定できる場合は、それを裁判上実現することができ、さらに、個別の事案に応じて、不当利得や擬制信託などのエクイティ(衡平)上の救済を検討すべき旨のルールが採用されている。(甲17、19)

  (3) 本件について

  ア 申立人及び相手方は、婚姻関係になかったことから、上記(2)のとおり、本件について財産分与が認められるためには、オーストラリア法及びC州法それぞれにおける、内縁(事実婚)の成立及び効力の要件を満たす必要があるところ、まず、C州法の要件充足性について検討する。

  イ 認定事実及び手続の全趣旨によれば、申立人及び相手方は、C州法上の儀式婚の成立に必要な儀式をしたとは認められず、また、双方ともに、婚姻関係にないことを明確に認識していたものと認められるから、C法上の想像婚が成立していたとも認められない。申立人及び相手方は、長年にわたって交際・同居していたことから、C州法上の不法婚の関係にあったものと認められるものの、関係解消時の財産分与について明示の契約を締結していたとは認められない。また、申立人及び相手方は、投資用不動産を共同購入し、日常生活の費用を分担することなどはあったものの、当事者双方ともに独立した収入を得て、基本的に各自名義の資産を単独で管理していたことからすれば、関係解消時に各自の財産を包括的に分配することについて黙示の契約があったとも認め難い。さらに、当事者間の衡平の観点から検討しても、申立人は、単に、相手方との間で法律婚の手続をとらなかったというだけでなく、度々、相手方に対し、結婚についての嫌悪感等を伝えていたほか、周囲の知人や友人に対しても、相手方と婚姻関係にないことを強調して伝えるなどしていたところ、かかる事実関係の下、申立人及び相手方の共同生活関係について法律婚に準じた効力を認めることは、相手方の信頼に反するものといえ、申立人に対して衡平上の救済を与えるべき事情があるともいえない。

  以上によれば、C州法上、相手方に申立人に対する財産分与義務があるとは認められない。

  ウ 上記イのとおり、C州法上、相手方に申立人に対する財産分与義務があるとは認められないから、内縁(事実婚)の成立及び効力についてのオーストラリア法上の要件充足性について検討するまでもなく、本件申立ては却下すべきである。

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さて、今回は、当事者がいずれも外国籍の方であるという前提の下で、内縁の成立及び効力について、いずれの国の法律が適用されるか?が問題になった事案をご紹介しました。

いわゆる準拠法に関する問題は、本件のような内縁関係の解消や離婚、相続、養育費の請求などの場面だけでなく、契約の場面でも問題になります。
そのため、契約書でも準拠法に関する定めがおかれています。
実は読み飛ばしてしまいがちですが、準拠法の定めは契約書でもとても重要です。

準拠法に関してお悩みがある場合には、ぜひ弁護士法人ASKにご相談ください。

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