保証会社が滞納賃料を立て替えても賃料不払いを理由に賃貸借契約を解除できる?
近年、賃貸借契約を締結するにあたり、個人の連帯保証人ではなく、保証会社が利用されるケースが増えています。
保証会社を利用すると、仮に賃借人が賃料を支払わなかった場合でも、賃貸人としては、保証会社から代わりに賃料の支払いを受けることができます。
そのため、賃貸人は、保証会社を利用することで、万が一、賃借人が賃料の支払いを怠った場合に備えられるのです。
他方で、この場合、仮に賃借人による賃料の滞納が常態化していたとしても、賃貸人は保証会社から賃料を代わりに支払ってもらえるため、実質的にみると、賃料の不払いはないことになります。
しかし、いつまでも賃料を支払わない賃借人に不動産を貸し続けているわけにもいきません。
では、保証会社が賃借人が滞納した賃料を立て替えて支払っていたとしても、賃貸人は、賃借人の債務不履行(賃料滞納)を理由として賃貸借契約を解除することが許されるのでしょうか?
(なお、賃貸借契約に関するコラムは他にもございますのでご覧ください)
建物明渡等請求事件・大阪高裁平成25年11月22日判決
事案の概要
本件は、X1さんが、Yさんとの間で締結した本件建物の賃貸借契約について、Yさんの賃料等の不払いを理由として契約を解除したと主張して、Yさんに対し、本件建物の明渡しを求め、また、X2社は、Yさんとの間で締結した保証委託契約に基づき、Yさんに対して、Yさんが滞納した賃料等を代位弁済したと主張し、代位弁済金等の支払いを求めた事案です。
事実の経過
賃貸借契約の締結
Xさんさんは、Yさんの間で、平成23年12月15日、X1さんを賃貸人、Yさんを賃借人として、本件建物の賃貸借契約を締結しました。
そして、X1さんは、Yさんに対して、本件建物を引き渡しました。
保証委託契約の締結
また、保証会社であるX2社は、平成23年12月25日、Yさんとの間で、本件賃貸借契約に基づくYさんの債務について、YさんがX2社に訴訟を委託する旨の保証委託契約を締結しました。
保証契約の締結
X2社は、平成23年12月25日、X1さんとの間で、本件賃貸借契約に基づくYさんの債務について保証する旨の保証契約を締結しました。
賃料の不払いと保証会社の代位弁済
Yさんは、平成24年4月分から平成25年3月分までの賃料等を支払いませんでした。
X2社は、X1さんに対して、本件保証契約に基づき、平成24年2月から平成25年6月まで、毎月の賃料等に相当する金額をYさんに代わって支払いました(代位弁済)。
訴えの提起
そこで、X1さんは、Yさんの賃料不払い等を理由として、本件賃貸借契約を解除したと主張し、Yさんに対して本件建物の明渡しを求め、また、X2社は、本件保証委託契約に基づき、X1に対して賃料等を代位弁済したと主張して、Yさんに対し代位弁済金等の支払いを求める訴えを提起しました。
争点
本件では、保証会社が貸主に対して賃料を代位弁済しているにもかかわらず、貸主が借主の賃料不払いを理由として、賃貸借契約を解除することができるか否かが問題となりました。
本判決の要旨
Yさんは、平成24年4月分~平成25年1月分の賃料等については、X2社がこれを代位弁済しているから、Yさんに賃料等の不払はないと主張する。そして、(…)X2社は、X1さんに対し、平成24年2月~平成25年6月まで、毎月の賃料等7万8000円に相当する金額を代位弁済していることが認められる。
本件保証委託契約のような賃貸借保証委託契約は、保証会社が賃借人の賃貸人に対する賃料支払債務を保証し、賃借人が賃料の支払を怠った場合に、保証会社が保証限度額内で賃貸人にこれを支払うこととするものであり、これにより、賃貸人にとっては安定確実な賃料収受を可能とし、賃借人にとっても容易に賃借が可能になるという利益をもたらすものであると考えられる。しかし、賃貸借保証委託契約に基づく保証会社の支払は代位弁済であって、賃借人による賃料の支払ではないから、賃貸借契約の債務不履行の有無を判断するに当たり、保証会社による代位弁済の事実を考慮することは相当でない。なぜなら、保証会社の保証はあくまでも保証委託契約に基づく保証の履行であって、これにより、賃借人の賃料の不払という事実に消長を来すものではなく、ひいてはこれによる賃貸借契約の解除原因事実の発生という事態を妨げるものではないことは明らかである。
よって、Yさんの上記主張は理由がない。
ポイント
賃貸借契約とは
賃貸借契約は、賃貸人が賃借人に対して、目的物の使用収益をさせることを約束し、賃借人がこれに対して賃料を支払うこと及び引き渡しを受けた目的物を契約が終了したときに返還することを約束することによって成立します(民法601条)。
そのため、賃借人は、賃貸人に対して、約定された賃料を支払わなければなりません。
仮に、賃借人が賃料を支払わなかった場合、賃貸人は、賃借人による賃貸借契約の債務不履行を理由として、契約を解除することができます
(※ただし、一度きりの賃料支払の遅延など、債務不履行の内容や程度が、いまだ信頼関係を破壊するに至らない場合には、契約を解除することが許されない場合もあるため、その点には注意が必要です。)。
何が問題になったか
そして、賃貸借契約において、保証会社が賃料債務等を保証していた場合、仮に賃借人が賃料を支払わないと、保証会社が賃借人に代わって賃貸人に対して支払いをすることになります。
この場合、賃貸人としては、保証会社から支払いを受けられることから、実質的には賃料収入を確保することができます。
そのため、賃貸人との関係では、賃借人に賃貸借契約の債務不履行はなく、賃借人が引き続き賃料を支払わなかったとしても、賃貸人は賃貸借契約を解除できないのではないか?という疑問が生じます。
そこで、本件では、保証会社が賃借人が滞納した賃料を立て替えて支払っていたとしても、賃貸人は、賃借人の債務不履行(賃料滞納)を理由として賃貸借契約を解除することが許されるのか否か、が問題となりました。
裁判所の判断
本件において、賃借人であるYさんは、保証会社であるX2社が賃料を代位弁済しているから、Yさんに賃料等の不払はないと主張していました。
しかし、本判決は、保証会社による支払いはあくまでも代位弁済であって、賃料それ自体の支払いではないことから、賃借人自らの支払いがない限りは、なお債務不履行があるものと評価すべきであるとして、賃貸人X1さんによる賃貸借契約の解除を認めました。
弁護士にもご相談ください
本判決では、保証会社が賃借人が滞納した賃料を代位弁済した場合における賃貸人の契約解除の可否が問題となりました。
保証会社をめぐっては、保証契約において、保証会社による賃貸借契約の解除を可能とする条項(いわゆる「追い出し条項」)の有効性が争われた事案もあります(詳しくは、こちらをご覧ください。)
冒頭でもご紹介したとおり、近年では、不動産の賃貸借契約を締結するにあたり、保証会社が利用されるケースが増えています。
しかし、実際の運用の場面では、上記の各事案のように複雑な問題が潜んでいます。
また、賃貸借契約では、賃貸人と賃借人それぞれが履行しなければならない義務があり、契約に違反した場合には、債務不履行に基づく契約の解除や損害賠償の請求などに発展することがあり得ます。
そのため、賃貸借契約の締結にあたっては、事前に弁護士に相談し、契約内容や契約条項などに問題がないか否かなどについて確認しておくことがおすすめです。