フリーランス保護法に注意!【初の行政勧告】
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昨年(令和6年)11月1日、いわゆるフリーランス保護法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)が施行されました。
この法律は、フリーランスが企業から圧倒的に不利な条件で業務をさせられたり、なかなか報酬を支払ってもらえなかったりするなど、弱い立場に置かれている状況を踏まえ、フリーランスが安心して業務を遂行できるような環境を整えるべく制定されたものです。
フリーランス保護法は、このような法律制定の背景を踏まえ、行政機関が、同法に違反した業務委託事業者等に対して、違反行為についての助言、指導や報告の徴収・立入検査、勧告、勧告に従わない場合の命令・公表を行うことができることを定めています(法8条、9条、11条、18条~20条、22条)。
さらに、業務委託事業者が命令に違反したり、検査拒否したりする場合には、50万円以下の罰金が課されることになります(法24条、25条)。
さて、令和7(2025)年6月17日、フリーランス保護法の施行後、初めての「勧告」が行われました。
今回は、事案の概要を含め、勧告の具体的な内容をご紹介したいと思います。

フリーランス保護法とは?
フリーランス保護法について、詳しくはこちらのページでご紹介しております。
また偽装フリーランスについては、こちらをご覧ください。
公正取引委員会による勧告に至る経緯
公正取引委員会は、小学館(株式会社小学館)や光文社(株式会社光文社)に対する調査を行なっていました。
その調査の結果、小学館と光文社が、それぞれフリーのライターやカメラマンなどとの間で締結した業務委託契約の内容に、フリーランス保護法に違反する事実が認められました。
そこで、公正取引委員会は、小学館、光文社に対して、フリーランス保護法に基づく「勧告」を行うに至りました。
指摘されたフリーランス保護法違反の事実
今回、公正取引委員会が両社について認定したフリーランス保護法違反の事実は、【取引条件の明示義務】(フリーランス保護法3条)と【期日における報酬支払義務】(フリーランス保護法4条)に関するものです。
具体的な違反事実の概要
以下、小学館に対する勧告をもとに解説します。
小学館とフリーランスとの間の業務委託契約
小学館は、特定受託事業者(個人であり、事業者を使用しないもの又は法人であって、一の代表者以外に他の役員がなく、かつ、従業員を使用しないもの)に対して、自らが出版する月刊誌および週刊誌に関する原稿、写真データ、イラスト等の作成、ヘアメイクの実施等を委託していました。
小学館は取引条件を明示しなかった
フリーランス保護法3条1項では、業務委託事業者は、特定受託事業者に対して業務委託をした場合には、原則として、特定受託事業者の給付の内容、報酬の額、支払期日その他の事項を書面又は電磁的方法により明示しなければならないとされています。
取引条件の内容を定められないことについて正当な理由がある場合には、明示を要しないとされていますが、その場合でも、取引条件の内容が定まった後は直ちにこれを明示することが必要です(フリーランス保護法3条1項ただし書)。
ところが、小学館は、令和6年12月1日から同月31日までの間、特定受託事業者191名に対して、本件業務委託を行った際、直ちに、特定受託事業者の給付の内容、報酬の額、支払期日その他の事項を、書面または電磁的方法により、当該事業者に明示していませんでした。
期日における報酬支払義務を怠った
また、フリーランス保護法4条1項、2項、5項では、特定業務委託事業者が、特定受託事業者に対して業務委託をした場合には、給付の内容の検査の有無にかかわらず、特定業務委託事業者が特定受託事業者の給付を受領した日から60日以内で、できる限り短い期間内に報酬の支払期日を定め、その報酬を支払わなければならないとされています。なお、再委託の場合には、発注元から支払いを受ける期日から30日以内とされています(フリーランス保護法4条3項)。
もっとも、小学館は、令和6年12月1日から同年3月31日までの間、特定受託事業者191名に対して、本件業務委託を行った際、直ちに、報酬の支払期日を当該事業者に明示しておらず、当該事業者に対して、当該事業者の給付を受領した日又は当該事業者から役務の提供を受けた日までに報酬を支払いませんでした。

公正取引委員会による勧告の内容
そこで、公正取引委員会は、小学館において行われている上記のフリーランス保護法違反の事実を踏まえて、小学館に対して、
①取締役会の決議(今後、取引条件を明示すること、支払期日までに報酬を支払うことなどを確認)を行うこと
②特定受託事業者との取引について、取引条件の明示及び期日までの報酬の支払の観点から問題が生じていなかったのかを調査し、問題が認められた場合には必要な措置を講ずること
③研修を行うなど、社内体制を整備すること
などを内容とする「勧告」を行いました。
詳しくは公正取引委員会ウェブサイト「(令和7年6月17日)株式会社小学館に対する勧告について」「
(令和7年6月17日)株式会社光文社に対する勧告について」をご覧ください。
今後の展望
近年、公正取引委員会は、フリーランス保護法に違反する疑いのある行為を行なっている事業者やその業種に関する情報収集を積極的に行なっています。
そして、情報収集を踏まえて、集中的な調査を進め、具体的な指導を行うがなされた事案などもあるところであり、今回は、まさにその流れの中で「勧告」というところまでなされた案件であったといえるでしょう。
特に公正取引委員会が、ここ最近よく指摘しているのは、【取引条件の明示義務】(フリーランス保護法3条)違反と【期日における報酬支払義務】(フリーランス保護法4条)違反の点です。まずは、これら2点に問題がないかどうか?改めて契約書の内容などを確認しておくことが大切です。
相談窓口にも注意してください
公正取引委員会によれば、「今後もフリーランス・事業者間取引適正化等法に違反する疑いのある行為を行っている事業者やその業種について、積極的に情報収集を行い、違反があった場合には、迅速かつ適切に対処する。」としています。
公正取引委員会では、小企業庁・厚労省と共同してフリーランス・事業者間取引適正化等法に違反する行為を受けたフリーランスからの申出を受け付けるためのオンライン相談窓口を設置しているところ、「引き続き、フリーランスからの積極的な申出を促すために、申出窓口の周知広報を行っていく」としています。
従って、これからもいつ公正取引委員会に指摘を受けることになるか、わかりません。
今回の事例を踏まえて、改めてフリーランス保護法の内容を確認するとともに、業務委託契約書の内容を確認し、必要な修正等を行うことが重要です。
弁護士法人ASKにご相談ください
フリーランスの方との間の業務委託契約書については、フリーランス保護法の施行前から使用しているフォーマットをそのまま利用していると、同法に対応できていないままとなってしまうことがあります。
また、近年では、実態は労働者(従業員)と同じ働き方をしているにもかかわらず、見せかけだけフリーランス(業務委託)の外形を整え、労働関係法令の潜脱を図ろうとする「偽装フリーランス」も問題となっています。
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このようにフリーランスと事業者間の取引にはさまざまな注意点があります。
業務委託契約についてお悩みがある場合には、弁護士法人ASKにご相談ください。