フリーランス保護法に注意!【行政勧告が続いています】
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フリーランス保護法とは?
フリーランス保護法の施行について
昨年(令和6年)11月1日、いわゆるフリーランス保護法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)が施行されました。
この法律は、フリーランスが企業から圧倒的に不利な条件で業務をさせられたり、なかなか報酬を支払ってもらえなかったりするなど、弱い立場に置かれている状況を踏まえ、フリーランスが安心して業務を遂行できるような環境を整えるべく制定されたものです。
フリーランス保護法について、詳しくはこちらのページでご紹介しております。また偽装フリーランスについては、こちらをご覧ください。
フリーランス保護法に違反したとき
フリーランス保護法は、このような法律制定の背景を踏まえ、行政機関が、同法に違反した業務委託事業者等に対して、違反行為についての助言、指導や報告の徴収・立入検査、勧告、勧告に従わない場合の命令・公表を行うことができることを定めています(法8条、9条、11条、18条~20条、22条)。
さらに、業務委託事業者が命令に違反したり、検査拒否したりする場合には、50万円以下の罰金が課されることになります(法24条、25条)。
公正取引委員会の指導や勧告などが続いています
さて、このようなフリーランス保護法の施行に伴って、先日から、公正取引委員会による事業者への指導や勧告が続いています。
令和7(2025)年3月28には、45名の事業者に対して、契約書や発注書の記載、発注方法、支払期日の定め方等の是正を求める指導が行われました(詳しくはこちら)。また、令和7(2025)年6月17日には、フリーランス保護法の施行後、初めての「勧告」が行われています(詳しくはこちら)。
弁護士にもご相談ください
いまやフリーランス保護法違反は他人事では済まされません。
改めて他社の事例に学び契約書などを確認しておくことが大切です。
フリーランス保護法の施行やフリーランスとの関わり方についてお悩みがある場合には、まずは弁護士に相談してみることもおすすめです。お悩みの場合には、弁護士法人ASKにご相談ください。
再び公正取引委員会による勧告が行われました
さて、令和7(2025)年6月25日、公正取引委員会から次なる勧告がなされました(公正取引委員会ウェブサイト:「(令和7年6月25日)島村楽器株式会社に対する勧告について)」参照)。
今回の対象事業者は島村楽器です。以下では、事案の概要を含め、勧告の具体的な内容をご紹介したいと思います。

公正取引委員会による勧告に至る経緯
公正取引委員会は、島村楽器(島村楽器株式会社)に対する調査を行なっていました。
その調査の結果、小学館がフリーのライターやカメラマンなどとの間で締結した業務委託契約の内容に、フリーランス保護法に違反する事実が認められました。
そこで、公正取引委員会は、島村楽器に対して、フリーランス保護法に基づく「勧告」を行うに至りました。
指摘されたフリーランス保護法違反の事実
今回、公正取引委員会が島村楽器について認定したフリーランス保護法違反の事実は、【取引条件の明示義務】(フリーランス保護法3条1項)、【期日における報酬支払義務】(フリーランス保護法4条5項)、そして【不当な経済上の利益の提供要請の禁止】(フリーランス保護法5条2項1号)に関するものです。
具体的な違反事実の概要
島村楽器とフリーランスとの間の業務委託契約
島村楽器は、特定受託事業者(個人であり、事業者を使用しないもの又は法人であって、一の代表者以外に他の役員がなく、かつ、従業員を使用しないもの)に対して、自らが運営する音楽教室のうち、ミュージックスクールで行う消費者向けレッスン、体験レッスン、スクール短期レッスン等の実施、音楽教室が主催する発表会や音楽イベントでの演奏、運営の実施などを委託していました。
島村楽器は取引条件を明示しなかった
【取引条件の明示義務】
フリーランス保護法3条1項では、業務委託事業者は、特定受託事業者に対して業務委託をした場合には、原則として、特定受託事業者の給付の内容、報酬の額、支払期日その他の事項を書面又は電磁的方法により明示しなければならないとされています。
取引条件の内容を定められないことについて正当な理由がある場合には、明示を要しないとされていますが、その場合でも、取引条件の内容が定まった後は直ちにこれを明示することが必要です(フリーランス保護法3条1項ただし書)。
【取引条件の明示義務に違反する行為】
ところが、島村楽器は、令和6年11月1日から令和7年2月6日までの間、特定受託事業者97名に対して、本件業務委託を行った際、直ちに、特定受託事業者の給付の内容、報酬の額、支払期日その他の事項を、書面または電磁的方法により、当該事業者に明示していませんでした。
島村楽器は期日における報酬支払義務に違反した
【期日における報酬支払義務】
また、フリーランス保護法4条1項、2項、5項では、特定業務委託事業者が、特定受託事業者に対して業務委託をした場合には、給付の内容の検査の有無にかかわらず、特定業務委託事業者が特定受託事業者の給付を受領した日から60日以内で、できる限り短い期間内に報酬の支払期日を定め、その報酬を支払わなければならないとされています。なお、再委託の場合には、発注元から支払いを受ける期日から30日以内とされています(フリーランス保護法4条3項)。
【期日における報酬支払義務に違反する行為】
もっとも、島村楽器は、令和6年11月12日から行った本件業務委託について、特定受託事業者1名に対する報酬の支払期日を「毎月末日締切、翌々月10日払」として、実際にその期日に報酬を支払っていました(=当該事業者から役務の提供を受けた日から起算して60日を超える期日に定めてこれを明示し、報酬を支払った)。
また、島村楽器は、令和6年11月1日から令和7年2月6日までの間に行った本件業務委託について、特定事業者85名に対する報酬の支払期日を明示せず、当該事業者の給付を受領した日または役務の提供を受けた日までに報酬を支払いませんでした。
島村楽器は不当な経済上の利益の提供要請の禁止にも違反した
【不当な経済上の利益の提供要請の禁止】
さらに、フリーランス保護法5条2項では、特定業務委託事業者が、
・自己のために金銭役務その他の経済上の利益を提供させること(1号)
・特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、特定事業者の給付の内容を変更させ、または特定受託事業者の給付を受領した後に給付をやり直させること(2号)
によって特定受託事業者の利益を不当に害することが禁止されています。
【不当な経済上の利益の提供要請の禁止に違反する行為】
島村楽器は、令和6年11月1日から令和7年2月6日までの間、特定受託事業者11名に対して、1か月以上の期間、本件業務委託を行っていたにもかかわらず、合計19回の体験レッスンを無償で行わせていました。

公正取引委員会による勧告の内容
そこで、公正取引委員会は、島村楽器において行われている上記のフリーランス保護法違反の事実を踏まえて、島村楽器に対して、
①体験レッスンの対価に相当する額を、公正取引委員会の確認を得た上で、速やかに支払うこと
②取締役会の決議において、今後、取引条件を明示すること、支払期日までに報酬を支払うことなどを確認すること
③特定受託事業者との取引について、取引条件の明示、期日までの報酬の支払、不当な経済上の利益の提供要請の禁止の観点から問題が生じていなかったのかを調査し、問題が認められた場合には必要な措置を講ずること
④研修を行うなど、社内体制を整備すること
などを内容とする「勧告」を行いました。
詳しくは、公正取引委員会ウェブサイト「(令和7年6月25日)島村楽器株式会社に対する勧告について)」をご覧ください。
今後の展望
近年、公正取引委員会は、フリーランス保護法に違反する疑いのある行為を行なっている事業者やその業種に関する情報収集を積極的に行なっています。
そして、情報収集を踏まえて、集中的な調査を進め、具体的な指導や勧告が行われるに至っています。
特に公正取引委員会が、ここ最近よく指摘しているのは、【取引条件の明示義務】(フリーランス保護法3条)違反と【期日における報酬支払義務】(フリーランス保護法4条)違反の点でしたが、今回は初めて【不当な経済上の利益の提供要請の禁止】も勧告の対象となっています。
これらの義務や遵守事項については、公正取引委員会が注視し、指導や勧告などを続けていくものと考えられます。
相談窓口にも注意してください
公正取引委員会によれば、「今後もフリーランス・事業者間取引適正化等法に違反する疑いのある行為を行っている事業者やその業種について、積極的に情報収集を行い、違反があった場合には、迅速かつ適切に対処する。」としています。
公正取引委員会では、小企業庁・厚労省と共同してフリーランス・事業者間取引適正化等法に違反する行為を受けたフリーランスからの申出を受け付けるためのオンライン相談窓口を設置しているところ、「引き続き、フリーランスからの積極的な申出を促すために、申出窓口の周知広報を行っていく」としています。
従って、これからもいつ公正取引委員会に指摘を受けることになるか、わかりません。
今回の事例を踏まえて、改めてフリーランス保護法の内容を確認するとともに、業務委託契約書の内容を確認し、必要な修正等を行うことが重要です。
弁護士法人ASKにご相談ください
フリーランスの方との間の業務委託契約書については、フリーランス保護法の施行前から使用しているフォーマットをそのまま利用していると、同法に対応できていないままとなってしまうことがあります。
また、近年では、実態は労働者(従業員)と同じ働き方をしているにもかかわらず、見せかけだけフリーランス(業務委託)の外形を整え、労働関係法令の潜脱を図ろうとする「偽装フリーランス」も問題となっています。
弁護士法人ASKの弁護士相談・顧問契約をご希望の方はこちらまで
このようにフリーランスと事業者間の取引にはさまざまな注意点があります。
業務委託契約についてお悩みがある場合には、弁護士法人ASKにご相談ください。