多重請負関係会社の不法行為責任とは?【一光ほか事件】
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- 当社は、川崎市内で建設業を営んでおります。当社は元請けから来た仕事を自分たちだけでさばくことができず、協力会社に下請(孫請)に出しています。今回、現場で労災事故が起こったとのことで、孫請先の従業員が大きな怪我を負ってしまいました。
- 建設業において、多重下請構造になりやすいとされています。安全面においては、法律上、元請事業者の下請事業者や現場労働者に対する管理義務が規定されており、また、建設業等における災害補償の場面では、元請け事業者が「使用者」とみなされる規定があります。そのため、自社の従業員でなくとも、下請の従業員の労災事故については責任を負う可能性があります。
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建設業などにおいては多重下請構造になりやすい
建設業界やIT業界、運送業界などでは、特に多重下請け構造ができあがりやすいとされています。
多重下請け構造とは、要するに、注文主から発注を受けた元請事業者が、さらに二次下請けへ、三次下請けへと下位の事業者に、その仕事を流していく仕組みです。
このような多重下請け構造では、潜在的に労働環境が悪化しやすく、各種法令に抵触する危険性も極めて高いといわれています。
最近では下請法が改正され、令和8年1月1日から取適法に生まれ変わることになり、社会的な関心も寄せられているところです。
多重下請構造下における労働災害の責任について
建設業等における多重下請(重層下請)構造の現場では、複数の事業者の労働者が混在して作業を行うため、責任体制の不明確さや連絡調整の不備による労働災害を防ぐための特別な責任と管理体制が規定されています。
(1)元方事業者(特定元方事業者)の責任
一の場所における事業の一部を請負人に請け負わせる「元方事業者」(最も先次の注文者。労働安全衛生法(労安法)15条1項)は、下請(関係請負人)とその労働者が法令に違反しないよう指導し、違反がある場合には是正のための必要な指示を行う義務を負います(労安法29条)。特に建設業の特定元方事業者は、現場の統括管理のため、統括安全衛生責任者や元方安全衛生管理者、店社安全衛生管理者を選任し、協議組織の設置運営、作業間の連絡調整、作業場所の巡視、安全衛生教育への指導援助、工程計画の作成などの措置を講じなければなりません(労安法30条等)。
(2)下請事業者(関係請負人)の責任
元方事業者が統括安全衛生責任者を選任すべき現場において、自ら仕事を行う下請事業者は、元請との連絡調整役として「安全衛生責任者」を選任する義務があります(労安法16条)。安全衛生責任者は、元請との連絡、作業計画の整合性の確保、労働災害の危険の有無の確認などを行います。また、関係請負人とその労働者は、元方事業者からの是正指示に従わなければなりません。
(3)注文者の責任
特定事業(建設業等)を自ら行う注文者は、建設物や設備を下請労働者に使用させる場合、その建設物等に関する労働災害防止の必要措置を講じる義務があります(労安法29条)。また、請負人に対し、法令違反となるような指示を行うことは禁止されています。
(4)労働者の義務
労働者個人も、事業者が講じた安全衛生措置に基づき、定められた必要事項を守る遵守義務を負います(労安法26条)。
(5)災害補償上の特例(労働基準法)
建設業等が数次の請負で行われる場合、労働基準法上の災害補償については元請負人が「使用者」とみなされ、補償責任を負う主体となります(労基法87条)。
裁判例のご紹介(一光ほか事件・名古屋高裁令和6年11月6日判決)
さて、今回は、業務に従事していた労働者の死亡事故をめぐり、多重請負関係会社の不法行為責任が問題になった裁判例をご紹介します。

*労働判例2025/12/01(No.1339号)29ページ以下参照*
どんな事案?
この事案は、三重県企業庁が発注した工事の現場で、本件工事の作業員として水管橋の足場資材の搬出作業に従事していたKさんが、地上12.9mに位置する歩廊またはその横桁から用水路内に転落して死亡した事故について、Kさんの遺族が、元請業者、一次下請業者、二次下請業者をはじめとする関係各社に対して、損害賠償を求めた事案です。
何が起きた?
当事者
Xさんらは、Kさんの父母と妹です。
他方、Y1社、Y2社、Y3社は、いずれも塗装工事業等を目的とする会社です。また、B4は、足場の組立て・解体業を営んでおり、B5は、建設事業を営んでいます。
本件工事について
▶︎1次下請
本件工事は、Y1社が元請として、三重県企業庁から発注を受けた工事でした。
そして、Y1社は、本件工事のうち、足場工事と塗装工事をY2社に請け負わせていました。
▶︎2次下請
Y2社は、さらに足場工事(組立て・解体=本件解体作業)を、Y3社に請け負わせました。
▶︎労働者派遣
Y3社は、B4に対して、本件工事の足場の組立て・解体にかかる作業員の応援(労働者派遣)を依頼しました。
この結果、B5およびKさんが、作業員として本件解体作業に従事することになりました。
▶︎Eさんの従事
Y3社は、建設業などを営むEに対して、本件工事の足場の組立て・解体の応援を依頼していました。
そして、Eは、この作業についてFを雇用し、EおよびFが、本件解体作業に従事していました。なお、Eは、本件解体作業について、現場の作業主任者を務めていました。
現場の状況
令和2年3月18日、本件解体作業のうち、仮設の吊足場を解体する作業が終了した後、Kさんを含む作業員らは、解体された同吊足場の資材を水管橋から搬出する作業に移行しました。
Kさんは、資材搬出用の一輪車に資材(木材)を積んで、幅91cmの歩廊上で、同様に一輪車を押していたEの背後を同一方向に移動していました。
本件歩廊は、地上から12.9cmの高さに位置しており、本件歩廊の両側には、高さ90cmの手すりが設置されていました。
本件事故の発生
Kさんは、自らの前方を歩いていたEが橋台の前で停止したことから、Eとその一輪車を追い越して、さらに前方に移動しようとして、本件手すりを向かって右側から乗り越えて、本件歩廊の外にある横桁の上に乗ったところ、バランスを崩し、本件横桁上から、深さ90cmの用水路に転落しました。
なお、Kさんは胴ベルトを装着していませんでした。
Kさんの死亡
Kさんは、医療機関に緊急搬送されましたが、令和2年3月18日午後6時52分頃、右肺挫傷および肝挫傷を原因とする大量出血により亡くなりました。
訴えの提起
このような経過を踏まえ、Kさんの遺族であるXさんらは、元請業者、一次下請業者、二次下請業者等であるY1社らに対して、損害賠償を求める訴えを提起しました。

裁判で問題になったこと(争点)
この裁判では、本件事故の発生について、Y1社らに安全配慮義務違反が認められるのかどうか?が問題(争点)になりました。
*なお、このほかにも争点がありますが、本解説記事では省略しています*
裁判所の判断
裁判所は、Y1社らには、本件事故の発生について、Kさんの生命身体の安全に配慮すべき注意義務(安全注意義務)違反が認められるとして、Y1社らは、Kさんに対して、共同不法行為責任を負うと判断しました。(確定)
判決の要旨
以下では、裁判所がこのような判断に至った判決の要旨をご紹介します。
B5について
「(…)B5は、亡Kさんとの間で令和2年2月1日には正式に雇用契約を締結し、亡Kさんを雇用していたものと認められ、亡Kさんに対し、その生命身体の安全に配慮する義務を負っていたというべきである(労働契約法5条)。
(…)そうすると、雇用主であるB5社は、被雇用者である亡Kさんを仕事に従事させるに当たっては、その年齢や経験等から適当な仕事であるか、実際の現場の指揮監督が適正に行われているかを確認し、従事させる仕事を選択し、仕事内容に応じた適切な指導をするなどして、亡Kさんの生命身体の安全に配慮すべき注意義務を負っていたと認められる。
そうであるにもかかわらず、上記認定事実によれば、B5は、亡Kさんを本件工事の作業に従事させるに当たり、「送り出し教育」を含めた安全衛生教育を実践したことは全くうかがわれない上、本件解体作業につき、その年齢や経験等から適当な仕事であるか、実際の現場の指揮監督が適正に行われているかなどの確認等をしたこともうかがわれない。
したがって、B5には、上記安全に配慮すべき注意義務違反があったというべきである。」
B4について
「(…)B4は、Y3社から、本件工事の足場工事(組立・解体)の作業員の派遣を依頼され、Y1社及び亡Kさんを作業員としてY3社に派遣したものであるところ、建設業務についての労働者派遣事業は禁止されていること(労働者派遣法4条1項2号)に照らしても、B4は、亡Kさんを派遣する者として、亡Kさんの従事する作業の内容を把握し、危険な業務等が行われるおそれがあるときにはその差止めあるいは是正を受役務者に求め、また、必要に応じて派遣を停止するなどして、亡Kさんが危険な業務に従事することなどにより生命身体の安全を損なうことのないよう予防すべき注意義務を負っていたものというべきである。
しかしながら、上記認定事実によれば、B4は、亡Kさんが17歳であるにもかかわらず高所作業を伴う本件解体作業に作業員として派遣し、亡KさんにBのヘルメットを貸与し着用させた以外に亡Kさんの安全に配慮した形跡は全くうかがわれないのであり、上記注意義務を怠ったものと認められる(‥)。」
Y3社について
「(…)Y3社は、本件工事の足場工事の二次下請業者であり、従業員であるEを同工事の安全衛生責任者及び非専任の主任技術者として、また、手間請けで雇ったFを同工事に係る作業主任者兼職長として、それぞれ職務を行わせ、亡Kさんを直接指揮監督下において本件解体作業に従事させていたものと認められるから、亡Kさんの生命身体の安全に配慮すべき注意義務を負っていたというべきである。
そうであるにもかかわらず、上記認定事実によれば、E及びFが亡Kさんに対し、安全衛生教育を実施したり、実施するよう他者に指示するなどした形跡はない上、Fにおいては、本件歩廊上での搬出作業に墜落の危険はないとの認識から、亡Kさんら作業員をして墜落制止用器具の胴ベルトを装着させずに足場資材の搬出作業を行わせ、亡Kさんが本件手すりを乗り越えて本件横桁上へと移動する場にいながらもそれに気付かずあるいは気付きつつこれを制止しなかったのであるから、Y3社は、亡Kさんの生命身体の安全に配慮すべき注意義務を怠ったことが明らかである(…)。」
Y2社について
「(…)Y2社は、本件工事の足場工事及び塗装工事の一次下請業者であって、二次下請業者であるY3社に足場工事を下請させたほか、Y2社の代表者において上記工事の安全衛生責任者及び専任主任技術者を務めていたものであって、安全衛生責任者は、当該請負人の労働者が行う作業のみでなく、当該労働者以外の者の行う作業によって生じる労働災害に係る危険の有無の確認等の安全対策を行うとされていること(労安衛法16条、労安衛規則19条5号)も踏まえれば、亡Kさんとの間で雇用主に準ずる特別な社会的接触の関係に入っていたものとして、本件解体作業に従事する亡Kさんの生命身体の安全に配慮すべき注意義務を負っていたものと認められる(‥)。
そして、Y2社は、上記注意義務の具体的内容として、亡Kさんの年齢等を確認、把握し、亡Kさんを高所での本件解体作業に従事させることの当否を検討すべきであったほか、本件解体作業の作業場所、内容、亡Kさんの経験年数等に照らし、安全衛生の確保に係る活動として危険予知活動を徹底させるべき義務を負っていたにもかかわらず、これを怠ったものであり、上記注意義務違反が認められる(…)。」
Y1社について
「(…)Y1社は、本件工事の一部を被控訴人Y2社らに下請けさせ、自らも仕事の一部を行う者のうち最先次のものとして、労安衛法15条1項の特定元方事業者に当たるということができる(…)。
そして、特定元方事業者は、労安衛法29条及び30条の規定により、関係請負人の労働者を対象として、必要な指導、是正のため必要な指示等を行う義務を課されているほか、作業場所の巡視、労働者の安全衛生教育等について必要な措置を講ずるものとされている。これらの法令上の定めに加え、現にHは、本件工事の現場を巡視し、関係請負人の労働者等の実態を把握する契機を有していたことに照らせば、Y1社は、亡Kさんとの間で、雇用主に準ずる特別な社会的接触の関係に入っていたものと評価することができ、亡Kさんの生命身体の安全に配慮すべき注意義務を負うものと認められる(…)
そして、Y1社は、安全配慮義務の具体的履行として、特定元方事業者として、毎作業日に少なくとも一回、巡視を行い、亡Kさんの年齢等を確認、把握するよう努め、亡Kさんを派遣労働者として高所での本件解体作業に従事させることの可否を検討すべきであったほか、自ら及び下請業者をして、本件解体作業の作業場所、内容、亡Kさんの経験年数等に照らした安全衛生の確保に係る活動としての危険予知活動を徹底させるべき義務を負っていたものであり、それを怠ったものであるから、上記注意義務違反が認められる。」
結論
「Y1社らには、いずれも本件事故の発生につき亡Kさんの生命身体の安全に配慮すべき注意義務違反が認められ、Y1社らがこれらの注意義務を尽くすことによって、亡Kさんが胴ベルトを装着せずに本件手すりを乗り越えるという危険な行為により本件事故が発生することはなかったものと認められるから、Y1社らは、亡Kさんに対し、共同不法行為責任を負うというべきである。」
弁護士法人ASKにご相談ください
さて、今回は、業務に従事していた労働者の死亡事故をめぐり、多重請負関係会社の不法行為責任が問題になった裁判例をご紹介しました。
この事案では、一次請負、二次請負、労働者派遣、などさまざまな形を取りながら、作業員が工事に関わりあうことになり、その契約関係や内部関係もより複雑になっていました。
しかし、裁判所は、本件事故との関係において、全ての会社に対して安全配慮義務違反に基づく賠償義務を認めている点で大きく注目されます。
冒頭でもご説明したとおり、多重請負の関係性は、労働関係法令をはじめとするルールの潜脱につながりやすいだけでなく、このような痛ましい事故の発生にも直接的に影響を及ぼします。
業務の受発注の際には、あらためて契約関係に法的な問題点がないかどうか、詳しく精査することが大切です。
お悩みがある場合には、弁護士法人ASKにご相談ください。
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