違法行為を命じられた!不法行為にあたるのか?【大津市(市教委員職員)事件】
- 当社は、川崎市内で建設会社を営んでいます。外注先の従業員がミスをしたため、当社の担当幹部職員に対して、外注先に指導するよう指示したところ、幹部職員は「そのような指導をすることは偽装請負になるので従えません」と業務指示に反論をしてきました。業務指示に違反したことで幹部職員に対して懲戒処分をしたところ、この幹部職員はハラスメントだといって当社を訴えてきました。業務指示は絶対ではないのですか?
- 使用者は労働者に対して雇用契約に基づく業務指示権があります。したがって、原則として雇用契約に基づく内容であれば労働者はこれに従う義務があります。もっとも、雇用契約の内容に含まれないことや違法な行為などには応じる義務はなく、使用者がこれを強制することは不法行為に当たる可能性があります。
お尋ねの件についても、会社の指示自体が違法であった可能性が否定できず、幹部職員に対する不法行為責任を負う可能性もありえます。
詳しくは企業側労働問題に詳しい弁護士法人ASKにご相談ください。
弁護士法人ASKの弁護士相談・顧問契約をご希望の方はこちらまで
近年、会社による業務指示(命令)の内容が違法行為にあたるのではないか?ということが労使間のトラブル・紛争になるケースが増えています。
使用者には雇用契約に基づく業務指示権があります。
もっとも、使用者だからといって、会社が従業員に対し、何でも命ずることができるわけではありません。
たとえば、そもそも雇用契約の内容に含まれていないことを、従業員に対して命じることはできません。
また、法律や定款などに違反すること、著しい危険が予見されること、ハラスメントに該当することなどについても、従業員に対して命じることはできません。
もし、会社が違法・不当な業務命令を行った場合、従業員は業務命令を拒否することができます。
また、従業員が正当な理由に基づいて業務命令を拒絶しているにも関わらず、会社が従業員に対して懲戒処分などの不利益な取り扱いをした場合には、会社が従業員に対して損害賠償義務を負うことにもつながるため、注意が必要です。
会社の業務指示や業務命令の可否などについてお悩みがある場合には、ぜひ弁護士法人ASKにご相談ください。
裁判例のご紹介(大津市(市教委員職員)事件・大阪高裁令和6年12月12日判決)
さて、今回は、地方公共団体による偽装請負を指摘した公務員に対する言動などについて、国家賠償法上の違法性が認められるか?が争われた裁判例をご紹介します。

*労働判例2025.11.15(No.1338号)23ページ以下参照*
どんな事案?
この事案は、Y市の職員であるXさんが、Y市の偽装請負について指摘したところ、Y市からパワハラや低い人事評価、異動命令を受けたなどと主張して、Y市に対し、国家賠償法に基づく損害賠償を求めた事案です。
何が起きた?
Xさんについて
Xさんは、Y市の職員であり、平成30年4月1日から同年9月30日まで、Y市教育委員会の生涯学習課で副参事の役職者として勤務していました。
Y市の本件事業について
Y市は、人権・生涯学習推進事業(本件事業)を民間団体であるY市「人権・生涯」学習推進協議会連合会(連合会)に対して、平成26年以降、委託をしていました。
Y市教育委員会は、平成28年度まで、本件事業を担う臨時職員を直接雇用していました。
しかし、平成29年度は、連合会が、本件事業を担う臨時職員を雇用し、Y市がその人件費相当額を補助金として連合会に支出していました。
また、平成30年度は、Y市が臨時職員の雇用も含めて連合会へ委託し、その人件費相当額を委託料として支出していました。
平成30年の臨時職員の採用
平成30年の臨時職員の採用については、採用試験、面接、雇用契約書の締結を、すべてXさんを含むY市職員が行なっていました。
また、実際の勤務についても、臨時職員の具体的な職務の内容をXさんが指導していたほか、出退勤・休暇の管理をY市職員が行なっていました。
Y市による本件各行為
平成30年3月末の引継以降、Xさんは上司に当たる生涯学習課課長のAさん(A課長)と教育委員会の事務局政策監のBさん(B政策監)から、偽装請負に従事することを命じられる行為などを受けました。
ハラスメントの報告
この間、同年4月24日、Xさんは体調悪化に伴い心療内科を受診し、同月25日、診断書を提出しました。
また、同月26日、B政策監に対し、A課長のハラスメントを報告しました。
異動命令
その後、Xさんは、平成30年9月26日に生涯学習課からの異動を内示され、同年10月1日付で生涯学習センターへ異動となりました(本件異動)。
Xさんの人事評価
また、Xさんは、平成30年度の人事評価において、能力評価について、評価点53点・C評価と、業績評価について、評価点68点・B評価と査定されました。
平成26年度1期から平成30年度2期までの期間において、能力評価でCとされたことはなく、業績評価でBとされたことも一度だけでした。
本件訴えの提起
そこで、Xさんは、Y市から偽装請負の実行を強要されたこと、異動を命じられたこと、低い人事評価を受けたことが国家賠償法上の「違法」であるとして、Y市に対し、損害賠償を求める訴えを提起しました。

裁判で問題になったこと(争点)
この裁判では、Y市がXさんに対して行なった、偽装請負に従事することを命じる行為等や人事評価、異動命令について、国家賠償法上の違法性が認められるか否か、が問題(争点)になりました。
以下では、これらの争点の中で、Y市がXさんに対して、偽装請負に従事することを命じた行為が、国家賠償法上の「違法」に当たるのかどうか?という点を解説します。
裁判所の判断
この点について、裁判所は、Y市がXさんに対して行なった行為のうち、以下の2つの行為について、国家賠償法上の「違法」性が認められると判断しました。
| ①平成30年4月上旬頃 | A課長、Xさんに対して、連合会の職員に仕事を指示すること、公務として連合会の仕事に従事することを指示したこと。 |
| ②平成30年5月23日 | Xさん、A課長及びB政策監と面談し、Xさん自身が連合会の仕事を行うことが公務に当たるのか話し合いを持った際、A課長退席後に、B政策監がXさんに対して、「辞める覚悟やったら何でもできるわな」などと発言したこと。 |
(上告・上告受理申立て)
判決の要旨
裁判所はなぜこのような判断をしたのでしょうか?
本判決は、第一審判決を支持しているので、以下では、第一審判決(大津地裁令和6年2月2日判決)の要旨をご紹介します。
①の行為(A課長、Xさんに対して、連合会の職員に仕事を指示すること、公務として連合会の仕事に従事することを指示したこと)について
▶︎職務命令が違法な場合とは
まず、裁判所は、地方公務員法32条の立法趣旨に照らして、仮に職務命令に瑕疵があったとしても、「何人が見ても違法であることが明白であり、それに服従すれば違法な行為を行う結果となるといったような場合」を除いて、職務命令が違法になることはない、という判断枠組みを示しました。
「地方公務員法32条は、職員はその職務を遂行するにあたっては上司の職務上の命令に誠実に従わなければならない旨規定しており、その立法趣旨は、一般に上司の職務上の命令があった場合に、職員が個々に違法性を判断し、違法と判断した場合にはそれに従う義務がないとすると、行政組織的一体性が損なわれ行政の運用が阻害されることとなるので、このようなことの内容にするために設けられたものと解され、従って、当該職務命令に瑕疵がある場合でも、何人が見ても違法であることが明白であり、それに服従すれば違法な行為を行う結果となるといったような場合を除き、職務命令は違法でないと解するのが相当である。」
▶︎職務命令が違法な場合とは
その上で、裁判所は、Y市から連合会への委託は、労働者派遣法に違反する偽装請負の状態(違法行為)にあったところ、①の行為(A課長、Xさんに対して、連合会の職員に仕事を指示すること、公務として連合会の仕事に従事することを指示したこと)の「瑕疵は明白と言え、それに服従すればY市職員に同法違反を助長させる結果となるほどに重大」であったとして、職務命令の「違法」性を認めました。
「Y市職員は、連合会事務局職員に対し、支援や助言を超えて、直接の指揮命令を行っていると評価できるから、本件業務委託にかかる連合会事務局職員の業務は、Xさんが着任した平成30年4月から同年9月にわたって偽装請負の状態にあり、この間Y市職員が連合会事務局職員へ直接の指揮命令を行ったことは、偽装請負の実行行為そのものであるゆえ、労働者派遣法に反する違法行為に当たるものであった。
そして、連合会側から業務内容につき何ら指示を受けていない連合会事務局職員に対し、Y市職員が業務内容の不明点を教えることは、実質的にみて委託の業務につき直接指揮命令を行うよう求めたものと言わざるを得ず、違法行為を行うよう命じるものである点で瑕疵がある。そして、このような職務命令は、Y市における研修(‥)に反するものである上、労働者派遣法違反行為を遂行するように命じる点で、瑕疵は明白と言え、それに服従すればY市職員に同法違反を助長させる結果となるほどに重大であるから、当該職務命令自体も違法であるといわざるを得ない。
さらに、連合会事務局職員へ指揮命令を行うという違法行為の実行を職務上の優位性を背景に命令するものであり、ハラスメントとして国賠法上違法であ(…)る。」
②の行為(Xさん、A課長及びB政策監と面談し、Xさん自身が連合会の仕事を行うことが公務に当たるのか話し合いを持った際、A課長退席後に、B政策監がXさんに対して、「辞める覚悟やったら何でもできるわな」などと発言したこと)について
また、裁判所は、XさんとA課長らとの面談時におけるB政策監の発言についても、「業務上の必要」性を超えたものとして、その「違法」性を認めました。
「前記(…)のとおり、5月23日、XさんとA課長らが面談をした際、A課長の退席後、B政策監が本件行為(…)をした事実は争いがなく、同事実に加え、(…)B政策監の発言は、Xさんがやめる覚悟をしていると発言したことを受けてなされた発言であることが認められる。本件行為自体は、Xさんの身分に関する発言を発端にしてなされたことを前提としても、職務上の上下関係を背景として、業務上の必要を超えた発言をしたものとして国賠法上も違法といわざるをえない。」
弁護士法人ASKにご相談ください
さて、今回は、地方公共団体による偽装請負を指摘した公務員に対する言動などについて、国家賠償法上の違法性が認められるか?が争われた裁判例をご紹介しました。
この事案は、地方公共団体から公務員に対して行われた職務命令であるという点で、少し会社における業務指示や業務命令と異なると感じるかもしれません。
しかし、冒頭でもご説明したとおり、会社が違法な業務指示や業務命令をしてしまうと、会社は場合によっては、従業員に対して損害賠償義務を負うことにつながりかねません。
また取引先や顧客からの信頼を失うことにもなるため、要注意です。
従業員の方に対する業務指示や業務命令などについてお悩みがある場合には、ぜひ弁護士法人ASKにご相談ください。
弁護士法人ASKの弁護士相談・顧問契約をご希望の方はこちらまで

.png)

事件アイキャッチ-150x150.png)

