1年間の有期雇用契約は試用期間なのか?【TBWA HAKUHODO事件】
- 当社は、川崎市内で広告代理店を経営しています。当社では新規採用の際、全ての方と契約期間1年の契約社員として契約をし、契約期間満了時に適性のある方を期間の定めのない正社員に登用する運用をしています。ところがある従業員が、1年の契約期間を「試用期間である」と主張し、自分は期間の定めのない正社員の地位を有するとの主張を始めました。この従業員の言い分に理はあるのでしょうか。
- 試用期間とは、「入社後の社員の能力や勤務態度、健康状態などの適格性を見極めて適切に評価し、当該新入社員を本採用するか否かを決定するための期間」のことであり、その後の本採用拒否は解雇と性質は同じです。有期契約社員としていても、「試用期間中でない労働者と同じ職場で同じ職務に従事し、使用者の取扱いにも格段異なるところはなく、」有期雇用の期間も明確でないような場合には、「他に特段の事情が認められない限り」当該有期雇用は試用期間であると解するのが相当である。」と判断する最高裁の判例があります。このとおり、形式上有期労働契約としていても、試用期間である(期間の定めのない契約である)と判断されることがあることに注意が必要です。
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試用期間とは?
試用期間とは
試用期間とは、「入社後の社員の能力や勤務態度、健康状態などの適格性を見極めて適切に評価し、当該新入社員を本採用するか否かを決定するための期間」のことです。
少し難しい表現に言い換えると、試用期間は、会社側が新入社員を自社の従業員として不適格であると認めたときは、雇用契約を解約できる旨の特約上の解約権が留保された状態のことを意味します。
試用期間のかわりに有期雇用契約にすることは?
たまにご相談いただく中で、「有期雇用契約を試用期間代わりにしてはだめなの?有期雇用契約なら期間満了で終わるんでしょ?」というご質問をいただくことがあります。
たしかに、有期雇用契約の目的について法律上の規制はないので、労働者の適正判断のために有期雇用契約を用いることも可能(有効)ではあります。
しかし、これまでの裁判例では、
“試用期間中でない労働者と同じ職場で同じ職務に従事し、使用者の取扱いにも格段異なるところはなく、」有期雇用の期間も明確でないような場合には、「他に特段の事情が認められない限り」当該有期雇用は試用期間であると解するのが相当である。“(三菱樹脂本採用拒否事件・最大判昭和48年12月12日判決)
との判断もなされています。
すなわち、場合によっては、会社側は有期雇用契約のつもりであったとしても、裁判所において試用期間であるとの結論が導かれることがあるということです。
したがって、有期雇用契約を試用期間の代替手段とすることはおすすめできません。
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試用期間をめぐっては、このほかにも試用期間中の解雇が可能なのか?試用期間満了による解雇が許されるのか?中途採用の場合の試用期間については?など様々な問題が隠れています。
試用期間についてお悩みがある場合には、ぜひ弁護士法人ASKにご相談ください。
裁判例のご紹介(TBWA HAKUHODO事件・東京高裁令和7年4月10日判決)
さて、今回は、1年間の有期雇用契約を定める労働契約が試用期間にあたるのかどうか?が争われた裁判例をご紹介します。

*労働判例2025.11.15(No.1338号)5ページ以下参照*
どんな事案?
この事案は、Y社に雇用されていたXさんが、Y社に対して、期間の定めのない労働契約上の権利を有する地位にあることの確認などを求めた事案です。
何が起きた?
Y社について
Y社は、マスメディアを通じた広告・宣伝業務等を目的とする会社です。
Xさん求人への応募
Xさんは、人材紹介事業を営むT社を通じて転職活動を行っていたところ、令和3年12月、T社のBを通じてY社の翻訳・通訳チームの求人に応募しました。
オファー面談と面談時資料の記載
Y社は、書類審査と面接を経て、Xさんに対し契約社員としての内定を出すこととしました。
そして、令和4年2月16日に行われたオファー面談において、当時Y社の人事局長であったCが、Xさんに対し、内定を告知するとともに労働条件等について説明しました。
本件オファー面談の際にCがXさんに提示した資料には、Xさんの労働条件等について、以下の記載がなされていました。
ただし、この資料に試用期間に関する記述はありませんでした。

内定通知書の交付
Y社は、本件オファー面談の翌日の令和4年2月17日、Bを通じて、Xさんに対し、内定通知書兼労働条件通知書を交付しました。
本件内定通知書には、以下の記載がなされていた。
ただし、本件内定通知書に試用期間に関する記述はありませんでした。

Xさんの応諾
これに対して、令和4年2月18日、Xさんは、Bを通じて、Y社に対し、本件内定通知書に署名をしたものを返送し、内定を受諾する旨を回答しました。
雇用契約書の作成等
Xさんは、令和4年3月1日からY社での就業を開始しました。
また、XさんとY社は、同日、以下の内容が記載された雇用契約書を作成しました。

Y社の就業規則等の定め
ところで、Y社の契約社員就業規則11条には、試用期間について次のとおり定められていました。
①新たに採用された契約社員については、入社発令日より起算して3ヶ月の試用期間を設ける。ただし、会社が必要と認めた場合は、この限りではない。
②試用期間は勤続年数に算入する。
③試用期間中、本人の勤務成績、技能、適性等を考慮して、会社が当社契約社員として不適当と認めた場合は、契約を解除し、解雇する。
契約更新の申し入れ
Y社は、令和5年1月頃、Xさんに対し、本件労働契約について1年間の期間の定めのある労働契約として更新することを申し入れました。
しかし、Xさんは、正社員に登用されないのは不当であると主張し、これを受け入れませんでした。
その後もXさんとY社は本件労働契約の更新について交渉し、Y社は、同年3月1日以降に、Xさんに対し、契約期間を「期間の定めあり(2023年3月1日~2024年2月29日)」とする雇用契約書を交付しましたが、Xさんはこれに署名や押印をしませんでした。
なお、Xさんは、本件労働契約における1年間の雇用期間が満了した後である令和5年3月1日以降も、引き続きY社において就業しており、Y社は、Xさんに対し、毎月37万5000円の賃金を支払っていました。
調停の申立て
Xさんは、令和5年4月12日、東京簡易裁判所に対し、Y社を相手方として、Xさんが期間の定めのない労働契約上の権利を有する地位にあることの確認等を求める民事調停の申立てを行いました。
しかし、本件調停は、同年7月10日、調停不成立により終了しました。
Y社の対応
これを踏まえて、Y社は、同日、Xさんに対し、労働契約が存在しない以上は引き続き勤務していただくわけにはいかないとして、翌日以降の勤務を控えるよう告知しました。
そして、同月11日以降、XさんはY社において就業しておらず、Y社はXさんに対して同月分以降の賃金の支払をしていません。
本件の訴え提起
そこで、Xさんは、令和5年7月22日、Y社に対して、期間の定めのない労働契約上の権利を有する地位にあることの確認などを求める訴えを提起しました。

裁判で問題になったこと(争点)
Xさん側の主張
この裁判において、Xさんは、
「本件労働契約における期間の定めは試用期間を定めるものであるといえ、本件労働契約は、試用期間を1年とし、期間の定めのないものとして成立した。」
として、Y社との雇用契約が期間の定めのないものであると主張していました。
Y社の反論
これに対して、Y社側は、
「本件契約書の第6条には入社発令日から3か月間を試用期間とすることが明記されており、本件労働契約における1年間の期間の定めが試用期間を定めるものであるとすれば、試用期間中に更に試用期間が設けられることとなり、およそ不自然かつ不合理である。」
などとして、Xさんとの雇用契約は1年間の有期雇用契約であると反論していました。
裁判で問題になったこと(争点)
そこで、この裁判においては、Xさんが主張するように)“XさんとY社との間の本件労働契約における期間の定めが(試用期間を定めたものなのかどうか?”が問題(争点)になりました。
裁判所の判断
この点、裁判所は、
「本件労働契約における1年間の期間の定めについては、Xさんの適性を評価・判断する趣旨・目的で設けられたものと認められるから、上記期間は、契約の存続期間ではなく、試用期間であると解するのが相当である。」
として、本件労働契約が「1年間の試用期間中における解約権が留保された、期間の定めのない労働契約である」との判断を示しました。(上告・上告受理申立て)
判決の要旨
裁判所はなぜこのような判断をしたのでしょうか?
本判決は、第一審判決を基本的に支持し、引用しているので、以下では、第一審判決(東京地裁令和6年9月26日判決)の要旨をご紹介します。
本件労働契約の締結に至る経緯などに着目
まず、裁判所は、以下の点を指摘しました。
〈1〉Y社において、従前、正社員として採用する者に対しても、原則として最初の1年間は契約社員として期間の定めのある労働契約を締結し、この期間が経過した時点で適任と認められた者に限り、期間の定めのない労働契約を締結して正社員として雇用するという採用方法をとっており、これを変更した令和元年5月以降も、一定の場合には上記と同様の採用方法をとることが可能であったこと
〈2〉本件オファー面談の際、Y社の人事局長であったCが、Xさんに対し、本件労働契約における1年間の期間の定めが試用期間を設けるものであり、1年後には正社員となる旨の説明をしたこと
〈3〉Xさんは、これを踏まえて内定を受諾し、もって本件労働契約が成立したこと
上記事情に照らすと1年間の期間の定めは試用期間の趣旨といえる
そして、裁判所は、上記〈1〉〜〈3〉の事情に照らすと、
「本件労働契約における1年間の期間の定めについては、Xさんの適性を評価・判断する趣旨・目的で設けられたものと認められるから、上記期間は、契約の存続期間ではなく、試用期間であると解するのが相当である。」
として、本件労働契約において決められた1年間の期間の定めが“試用期間”であると判断しました。
結論
このような検討を踏まえて、裁判所は、
「本件労働契約については、1年間の試用期間中における解約権が留保された、期間の定めのない労働契約であるというべきである。(最高裁判所昭和43年(オ)第932号同48年12月12日大法廷判決・民集27巻11号1536頁、最高裁判所平成元年(オ)第854号同2年6月5日第三小法廷判決・民集44巻4号668頁参照)」
との結論を導いています。
弁護士法人ASKにご相談ください
さて、今回は、1年間の有期雇用契約を定める労働契約が試用期間にあたるのかどうか?が争われた裁判例をご紹介しました。
冒頭でもご説明したとおり、会社側は有期雇用契約のつもりであったとしても、裁判所において試用期間であるとの結論が導かれることがあります。まさに、本判決においても、労働契約における1年間の期間の定めが試用期間であるとの判断がなされています。
したがって、有期雇用契約を試用期間の代替手段とすることはおすすめできませんし、有期雇用契約を締結するのであれば、むしろ“試用期間である”と判断されないように会社内の運用・ルールを見直す必要があります。
試用期間についてお悩みがある場合には、ぜひ弁護士法人ASKにご相談ください。
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