法律コラム

システム開発をめぐるトラブル?委託社にも問題が?【東京高裁令和6年1月31日判決】

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社内のシステム開発などを外部委託するケースは増えてきているのではないでしょうか。
外部委託にあたって、相手方との間できちんと契約書は作成していますか?
最近では、フリーランス保護法の成立、取適法の施行(下請法の改正)なども続いており、外部委託をする場合における契約書の重要性がより一層高まっています。
公正取引委員会も関係法令違反に対して目を光らせています。
フリーランス保護法や下請法に関してお悩みがある場合や業務委託契約の締結をご検討の場合には、ぜひ弁護士法人ASKにご相談ください。

裁判例のご紹介(契約解除に基づく原状回復等、委託料反訴請求控訴事件・東京高裁令和6年1月31日判決)

さて、今回は、システム開発業務の納期遅延をめぐり、委託者と受託者いずれにも責任があるという判断が示された裁判例をご紹介します。

*判例時報No,2635号5ページ以下参照*

どんな事案?

X社とY社について

X社は、求人情報の編集、発行、WEB上での掲載等の事業等を会社です。
Y社は、出版物等のデザイン、各種WEBアプリケーション開発等を行とする会社です。

契約の締結

X社とY社は、Y社が販売・提供しているソフトを使用して、X社が発行する求人情報誌の求人の募集要項である文字情報をX社が運営するWEBサイトに自動的に反映させるシステム(本件システム)の開発をY社において行うことを内容とする業務委託基本契約を締結しました。
その後、X社とY社は、本件システムの仕様を確定するために要件定義に関するやり取りを行い、必要な修正を行なった上で、要件定義書を交わして要件定義業務個別契約及び本件システム開発のための開発業務個別契約を締結しました。

X社
X社

求人情報を自社サイトに自動反映するシステムの開発をY社にお願いしています!

要件定義に関するやりとりをした上で、「要件定義書」を交わして開発業務委託個別契約を締結しました!

Y社
Y社

本件システムの作業

Y社は、要件定義書に基づいて、本件システムで求められる機能のフェーズ分けを行い、X社にフェーズ分類表を交付しました。
その後も、X社は、Y社に対して追加の要望事項を伝え、Y社もこれに応じて作業を進めました。

フェーズ分類表を交付して作業しています!

Y社
Y社

改修作業の実施

そして、本件システムはWEB公開されたものの、X社は、本件システムに、システムダウンの発生、特定文字列入力時のエラー、通知メールが送信されないエラーなどのバグがあるとして、Y社が改修作業を進めました。

X社
X社

公開したんだけど、システムダウンやエラーがあるな。Y社さん、改修をおねがいします!

X社の訴え(本訴)提起

X社は、本件各バグは解消されず、納期までに本件システムが納品されなかったとして、Y社に対し、業務委託基本契約の約定解除規定により、本件各契約を約定解除する旨の通知を行なった上、支払い済みの報酬等の返還を求める訴え(本訴)を提起しました。

X社
X社

エラーが解消されないので、納期までにシステムが納品されなかったとして、これまでの報酬を返してください!

Y社の訴え(反訴)提起

これに対して、Y社は、本件各バグは存在していないか、または存在していたとしても改修済みであるなどとして、X社による約定解除について争いました。
また、Y社は、本件システムの開発業務のうち、未完成部分はごく僅かにすぎない上、未完成の原因は専らX社の協力義務違反によるものであるから、信義則上本件システムは完成したものと解するべきであると主張して、未払報酬の支払いなどを求める訴え(反訴)を提起しました。

いやいや、バグはないか、既に改修済みですし、未完成部分はX社さんが協力してくれないからなので、報酬は全額払ってください!

Y社
Y社

問題になったこと(争点)

この裁判では、

① 本件システムに瑕疵があったのか?
② Y社が本件システムを完成し、X 社に納品したといえるか?
③ 本件各契約について約定解除原因が認められるか?
④ Y社がX社に対して未払報酬を請求できるか?

などが問題(争点)になりました。

裁判所の判断

これらの争点について、裁判所は、次のように判断しました。

争点裁判所の判断
① 本件システムに瑕疵があったのか?×(本件システムに重大な瑕疵があるとは認められない)
② Y社が本件システムを完成し、X 社に納品したといえるか?×(要件定義書等で定められた全体の開発は完了しておらず、本件システムをY社が完成し、納品したとはいえない)
③ 本件各契約について約定解除原因が認められるか?×(約定解除原因は認められない)
④ Y社がX社に対して未払報酬を請求できるか?◯(本件システムの開発は可分であるから、少なくともX社が利益を有する範囲で一部の請求は認められる)

本判決の要旨

以下、それぞれの争点について、本判決の要旨をご紹介します。

争点①本件システムに瑕疵があったのか?

まず、裁判所は、本件システムについて、次のように示し、重大な瑕疵があるとはいえないと判断しました。

「(…)本件システムについて、X社が主張するバグのうち、「特定文字列」のバグのうち「、」や「。」等の特定の文字を入力すると保存ができない点及び「通知メール」のバグについては、事象自体が存在せず、その余のバグについては、バグとはいえないか、過去には事象が発生していたがX社による本件各契約の解除時までに改修されたことが認められる。仮に、(…)エラー表示をしないことがバグであると評価できるとしても、エラー表示をするかリダイレクトをするかは仕様の定めによることからすると、本件各契約上納品すべき本件システムに重大な瑕疵があるとまでは認められない。」

争点②Y社が本件システムを完成し、X 社に納品したといえるか?

次に、裁判所は、本件において、X社とY社との間の要件定義書等で定められた全体の開発は完了しておらず、Y社が本件システムを完成し、納品したとはいえない、と判断しました。

「本件開発業務は××の求人の募集要項である文字情報を自動組版で××WEBに自動的に反映させるシステム(本件システム)の開発であって、WEB機能の開発と第3フェーズの誌面関連機能及び第4フェーズの経理関連機能の開発は一体のシステムとして開発することが合意されていたのであるから、その一部のWEB機能の開発をもって本件開発業務の全体について納品がされたものと評価することはできない。」

他方で、裁判所は、本件開発業務が完成しなかった原因として、X社とY社双方の責任を指摘しています。

「(…)本件開発業務が完成しなかった原因は、要件等の確定に関する協力を怠り、要件定義書に記載されていない要件及び仕様に関する多数の要望を行っていたX社と、X社の様々な要望事項について、要件定義との関係を十分に整理しないままに任意の対応を続けたY社の双方にあるということができる(…)。」

争点③本件各契約について約定解除原因が認められるか?

そして、X社は本件各契約について、諸々の約定解除原因があると主張していましたが、裁判所は、そのようなX社の主張も退けています。

「(…)X社は、同年10月までの間は本件システムが納期に納入されていないことを認識しつつも、システムの要件の再定義や改修等に向けてY社と協力して対応していたものであって、納期の延期について黙示的に承諾していたものといえるから、Y社が上記(イ)の各納期に本件システムの各機能を納品しなかったことをもって、直ちに開発業務個別契約書4条1項及び業務委託基本契約書16条に違反したものということはできない(…)。
そうすると、X社の主張する本件各契約の解除事由はいずれも認められないから、Y社に債務不履行による約定解除原因があるということはできない(…)。」

争点④Y社がX社に対して未払報酬を請求できるか?

最後に、裁判所は、X社は本件システムの開発により一部の利益を得ており、Y社がかかる部分に対応する未払報酬請求権を有する、と判断しました。

「(…)X社がY社から提供された本件システムの機能を使用して××WEBを公開し、約1年間にわたって使用していたこと、Y社による既履行部分について、X社による本件各契約の解除時において、バグがあったとは認められず、これがあったとしても契約の目的を達成できないようなバグを生じていたとは認められないこと、Y社は本件開発業務の完成割合を81.8%であると主張し、証拠(…)を提出していること、その他、本件で認められる(‥)事実関係を総合すれば、X社は、少なくとも6割の範囲で利益を有するものと認めるのが相当である(…)。
そうすると、(…)Y社のX社に対する反訴請求は、198万0450円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由がある(…)。」

弁護士法人ASKにご相談ください

さて、今回は、システム開発に関するトラブルをめぐる裁判を取り上げました。
システム開発では、仕様書の確定や開発の遅延、バグの発生、改修など発注者と受注者との間でトラブルになることが多々あります。

今回の裁判でも、裁判所は、本件開発業務が完成しなかった原因として、委託者であるX社と受託者であるY社双方の責任を指摘しており、この点は要注目ポイントです。

特に、Y社が「X社の様々な要望事項について、要件定義との関係を十分に整理しないままに任意の対応を続けた」点をY社の責任と判断している点に注意が必要です。よかれとおもって対応したことが徒になり得るところです。

また、冒頭でも述べたとおり、最近ではフリーランス保護法の成立や下請法の改正などもあり、公正取引委員会が法律違反がないかどうかなどに目を光らせています。
業務委託契約を締結する場合には、事前に弁護士にリーガルチェックを依頼しておくことがおすすめです。ぜひ弁護士法人ASKにご相談下さい。

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