同性パートナーは「配偶者」に当たるのか?【北海道・地方職員共済組合事件】
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- tags: 労働判例解説 同性パートナーの「配偶者」該当性
- 当社は川崎市で建設業を営んでいます。従業員の男性から『同性パートナーがいるので、就業規則にある配偶者手当を支給してほしい』と相談されました。当社の規則には『配偶者(事実婚を含む)』と書いてあるのですが、同性パートナーもこれに含まれるのでしょうか?
- 現在の法制度や一般的な解釈では、同性パートナーが当然に『配偶者』に含まれるとまでは言えません。しかし、近年成立した『LGBT理解増進法』の趣旨や、全国の自治体に広がるパートナーシップ制度の普及を考えると、企業として『一律に対象外』と切り捨てる対応には慎重さが求められます。今後、このような請求が増えてくることが予想されます。会社の方針として、同性パートナーも明示的に「配偶者」に含む、とされること自体は否定されませんし、人材難に悩む昨今においては、むしろ今後の採用の売りになるかも知れません。
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渋谷区が初めてパートナーシップ制度を導入してから早くも10年。
その後、日本全国各地に類似のパートナーシップ制度が広がっていきました。
渋谷区と認定NPO法人虹色ダイバーシティが行っている、全国の地方自治体の同性パートナーシップ証明制度の導入自治体数や制度利用(登録)件数の調査報告によると、令和7年(2025年)における導入自治体数は530にまで増加したとのことです(渋谷区ウェブサイト「全国パートナーシップ制度共同調査」参照)。
他方で、日本全体の(政府)制度という視点からみると、いまだに同性婚に関する議論は一進一退を繰り返しており、今後の法制化に向けた動きについても、引き続き注視していく必要があります。
裁判例のご紹介(北海道・地方職員共済組合事件・札幌地裁令和5年9月11日判決)
さて、今回は、扶養手当にかかる届出や寒冷地手当にかかる世帯等の区分の変更の届出をめぐり、同性パートナーの「配偶者」性が争われた裁判例をご紹介します。

*労働判例2025.11.01(No.1337号)91ページ以下参照*
どんな事案?
この事案は、Y1(北海道)の職員であったXさんが、
- ・同性パートナーであるAさんは、Y1の職員給与に関する条例9条2項1号に規定された「届出をしないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者」として「配偶者」(同号)にあたる
- ・同性パートナーであるAさんは、地方公務員等共済組合法2条4項に規定された「婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者」として「配偶者」(同条1項2号イ)にあたる
として、在職中に、各規定に基づいて、Y1に対し、Aさんを扶養親族とする扶養手当にかかる届出・寒冷地手当にかかる世帯等の区分の変更の届出を行うとともに、Y2(共済組合)に対し、Aさんを被扶養者とする届出を行なったにもかかわらず、
Y1及びY2が、XさんとAさんが同性であることを理由に、
「事実上婚姻関係と同様の事情にある者」とはいえず、「配偶者」に該当しない
として、Xさんの各届出にかかる扶養親族または被扶養者の認定を不可としたこと
がいずれも違法であると主張して、Y1及びY2に対し、損害賠償の支払いを求めた事案です。
何が起きた?(詳しく)
当事者について
Xさんは、平成7年4月1日付けでY1(地方公共団体)の職員に採用され、平成18年5月から、Y1のI支庁に勤務し、令和元年6月21日、Y1を依願退職しました。
また、Y2は、共済組合法により、道府県の職員及びその被扶養者等のための総合的社会保険事業を行うために設立された法人です。
XさんとAさんの関係
▶︎パートナーの宣誓
Xさんは、平成30年春ころからSNSを通じてAさんと連絡を取り合うようになり、同年5月5日に初めて会った後、交際を開始しました。
そして、同年6月6日、S市パートナーシップ宣誓制度(性的マイノリティの気持ちを受け止める取組として、互いを人生のパートナーとして、日常生活において相互に協力し合うことを約束した関係であることなどをS市長に対して宣誓する制度)の宣誓をし、このころにはXさん方で寝食を共にするようになりました。
▶︎パートナーシップ契約
また、XさんとAさんは、平成30年7月16日、Xさん方で同居を開始し、また、パートナーシップ契約(同性婚契約)を締結しました。
Aさんが受給していた生活保護は、Xさんの引き取りを理由に廃止となりました。
▶︎マンションの購入
さらに、XさんとAさんは、平成31年4月25日、共同名義で分譲マンションを購入して引っ越しました。
そして、同マンションの入居者名簿のAさんの欄に「同性パートナー、主婦」と記載し、同マンションの所在地を本籍地とする届出を行いました。
▶︎各種契約と支払い
このほか、Xさんは、Xさん名義のクレジットカードにつき、Aさん用の家族カードを作成し使用させる、Xさんの契約している携帯電話につき、Aさんを家族割引の対象とする、Xさんが保険料を支払っている生命保険につき、Aさんを死亡保険金の受取人とするなどした。
また、Xさんは、世帯主として、平成30年7月28日、Aさんの平成30年度分の国民健康保険料合計5万8280円を、令和元年6月17日、令和元年度分の国民健康保険料合計7万9840円をそれぞれ支払いました。
Xさんの届出
▶︎寒冷地手当に係る届出
Xさんは、平成30年7月19日、電子届出システムを使用し、「届出の理由」欄に「S市のパートナーシップ宣誓制度を利用。同性パートナーとの同居を開始したため。」と記載し、「変更後の世帯区分」欄を「世帯主(扶養親族あり)」に変更して、寒冷地手当に係る世帯等の区分の変更の届出(本件寒冷地手当に係る届出〈1〉)を行いました。
▶︎被扶養者に係る届出
Xさんは、平成30年7月20日、同日付の「職員手当等証明書等の送付について」と題する書面等を提出し、Aさんを被扶養者とする届出(本件被扶養者に係る届出)等を行いました。
また、Xさんは、平成30年7月23日、電子届出システムを使用し、扶養手当に係る扶養親族の届出(本件扶養手当に係る届出〈1〉)を行いました。
「配偶者」に当たらないとの判断
▶︎Y1からの回答
しかし、Y1の総務部人事局人事課の職員は、平成30年11月12日、Xさんと面談し、現時点では、Xさんから提出を受けた住民票、戸籍謄本及びS市のパートナーシップ宣誓書受領書をもって、同性のパートナーが給与条例9条2項1号の「配偶者(届出をしないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。)」に該当すると認定することはできない、と伝えました。
▶︎Y2からの回答
また、Y2の支部職員は、本件被扶養者に係る届出に対し、Xさんと同性であるAさんは共済組合法2条1項2号イの「配偶者」に当たらず、Xさんの被扶養者と認定することができないと判断し、平成30年7月27日、Xさんに対し、「同性のパートナーについては、扶養親族の範囲に含まれないため、被扶養者の認定をすることができません。」と回答しました。
▶︎Y1の判断
そして、Y1職員事務課は、任命権者であるY1知事の権限の行使として、平成30年11月14日、本件寒冷地手当に係る届出〈1〉及び本件扶養手当に係る届出〈1〉について、Xさんと同性であるAは給与条例9条2項1号の「配偶者」に当たらず、Xさんの扶養親族と認定することができないと判断しました。
回答の要求
これに対して、Xさんは、平成31年4月5日、Y1の総務部人事局長、Y2の支部長等に対し、「同性パートナーを被扶養者として認定し、内縁関係と同等の取扱いをする要望書の確認について」と題する書面を提出し、令和元年10月30日までに文書で回答するよう求めました。
しかし、人事課の給与服務担当課長は、令和元年10月30日、Xさんに対し、現時点においては、同性のパートナーを給与条例における配偶者として認定することはできないとの判断に至った旨の回答を行いました。また、Y2の支部事務長も、同日、Xさんに対し、現時点では、同性パートナーを被扶養者として認定することはできないとの判断に至った旨の回答を行いました。
再度の届出
また、Xさんは、平成31年4月18日、電子提出システムを使用し、
・「届出の理由」欄に「同性パートナーとパートナーシップ契約(同性婚契約)書を交わし同居を開始、共同名義の自宅に転居するため」と記載して、Aを扶養親族とする扶養手当に係る届出(本件扶養手当に係る届出〈2〉)を再度行うとともに、
・「届出の理由」欄に「同性パートナーと同居を開始、共同名義の自宅に転居する」と記載し「変更後の世帯区分」欄を「世帯主(扶養親族あり)」に変更して、Aを扶養親族とする寒冷地手当に係る世帯等の区分の変更の届出(本件寒冷地手当に係る届出〈2〉)を再度行いました。
扶養親族と認めない判断
しかし、Y1職員事務課は、任命権者であるY1知事の権限の行使として、令和元年5月20日、本件扶養手当に係る届出〈2〉及び本件寒冷地手当に係る届出〈2〉について、Xさんと同性であるAさんは給与条例9条2項1号の「配偶者」に当たらず、Xさんの扶養親族と認定することができないと判断しました。
訴えの提起
そこで、Xさんは、Y1及びY2が、XさんとAさんが同性であることを理由に、「事実上婚姻関係と同様の事情にある者」とはいえず、「配偶者」に該当しないとして、Xさんの各届出にかかる扶養親族または被扶養者の認定を不可としたことは、いずれも違法であると主張し、Y1及びY2に対し、損害賠償の支払いを求める訴えを提起しました。

問題になったこと(争点)
Xさんの主張
Xさんは、Y1及びY2に対して損害賠償を求める前提として、
・同性パートナーであるAさんは、Y1の職員給与に関する条例9条2項1号に規定された「届出をしないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者」として「配偶者」(同号)にあたる
・同性パートナーであるAさんは、地方公務員等共済組合法2条4項に規定された「婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者」として「配偶者」(同条1項2号イ)にあたる
(=すなわち、上記の本件各規定のいう「事実上婚姻関係と同様の事情にある者」に同性間の関係の相手方が含まれる)
と主張していました。
Y側の反論
これに対して、Y側は、
・上記の本件各規定のいう「事実上婚姻関係と同様の事情にある者」には、同性間の関係の相手方は含まれない
と反論していました。
裁判で問題になったこと(争点)
そこで、この裁判では、
上記の本件各規定における「事実上婚姻関係と同様の事情にある者」に、同性間の関係が含まれると解釈されるのかどうか?
(=すなわち、同性パートナーも「配偶者」といえるのかどうか?)が問題(争点)になりました。
裁判所の判断
この点について、裁判所は、
「本件各規定における「事実上婚姻関係と同様の事情にある者」には、民法上婚姻の届出をすること自体が想定されていない同性間の関係は含まれないと解することは、現行民法の定める婚姻法秩序と整合する一般的な解釈ということができる。」
として、Xさんの主張は認められないと判断しました。(確定)
本判決の要旨
裁判所はなぜこのような判断をしたのでしょうか?
以下では、本判決の要旨をご紹介します。
民法の定める婚姻法秩序に照らした解釈
「給与条例や共済組合法は、「配偶者」、「婚姻関係」等について別段の定めを置いていないことから、これらの規定は一般法である民法上の婚姻に関する概念を前提として定められているものと考えられるところ、民法上の婚姻に関する概念を前提とすると、本件各規定は、法律上の婚姻関係と同視し得る関係を有しながら婚姻の届出をしていない者を、「配偶者」と同視し得る者として「扶養親族」ないし「被扶養者」に該当することとするものであって、すなわち、婚姻の届出をできる関係であることが前提となっていると解するのが自然である。
そして、現行の民法において定められている「婚姻」は異性間に限られると解されるところ、給与条例や共済組合法において、民法とは異なって同性間の関係を含むとする明確な規定は見当たらない。
そうすると、本件各規定における「事実上婚姻関係と同様の事情にある者」には、民法上婚姻の届出をすること自体が想定されていない同性間の関係は含まれないと解することは、現行民法の定める婚姻法秩序と整合する一般的な解釈ということができる。」
現状の議論などを踏まえても同性間の関係性を含むとはされないこと
「(…)Xさんも指摘するとおり、昨今、同性間の関係に対する法的保障や性的指向・性自認に対する差別禁止に関する社会的な理解が広がってきており、これを踏まえ、婚姻制度や同性間の関係に対する権利保障の在り方等について、立法論を含めて様々な議論がされるに至っているのであって、これらの議論を踏まえ、特に給与条例のような地方公共団体による条例に関して、一部の地方公共団体において、本件各規定と同様の規定ぶりであっても同性間の関係を含み得るとして、柔軟な解釈や運用を試みる例があることが認められる。
しかしながら、本件各規定は、Xさん主張のような「内縁関係」を要件とするものではなく、婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を「配偶者」と同視し得る者として「扶養親族」ないし「被扶養者」に該当することとするものであって、前述のとおり、本件各規定における「事実上婚姻関係と同様の事情にある者」に同性間の関係も含まれないと解するのが現行民法の定める婚姻法秩序と整合する一般的な解釈であり、また、扶養手当の支給及び寒冷地手当の増額支給の目的や、共済組合法の被扶養者に適切な給付を保障する趣旨等が、同性間の関係であっても当てはまる場合があるとしても、扶養手当の支給や寒冷地手当の増額支給が公的財源によって賄われ、また、共済組合法の各種給付も同様に公的財源を基盤としていること(共済組合法113条、113条の2)からすると、婚姻制度や同性間の関係に対する権利保障の在り方等について様々な議論がされている状況であることや、一部の地方公共団体において、本件各規定と同様の規定ぶりであっても同性間の関係を含み得るとして、柔軟な解釈や運用を試みる例があることを踏まえても、本件各規定における「事実上婚姻関係と同様の事情にある者」に同性間の関係を含むと解釈しなければならないという職務上の注意義務を個別の公務員に課すことはできない(…)。」
おわりに〜弁護士法人ASKにご相談ください〜
さて、今回は、扶養手当にかかる届出や寒冷地手当にかかる世帯等の区分の変更の届出をめぐり、同性パートナーの「配偶者」性が争われた事案をご紹介しました。
裁判所は、現状、婚姻制度や同性間の関係に対する権利保障の在り方等について様々な議論がされていることや、一部の地方公共団体において、配偶者性の該当性にあたり柔軟な解釈や運用を試みる例があることなどを指摘しつつも、やはり結論としては、同性パートナーの「配偶者」該当性に消極的な判断を示しています。
しかし、このような裁判所への訴えが世の中を大きく変えることは間違いありません。
今後も同様、類似の裁判は積み重なっていくことと考えられますので、引き続き注目していく必要があります。
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