不適切な言動をする社員に対するけん責や配転は有効か?【日本ノーベル事件】
- 当社は、東京都大田区で事務機器の製造を行っている会社を経営しています。当社の従業員に、協調性がなく、上司に対して非常に攻撃的に意見を言い続ける者がいます。説得をしても埒があかず、他の従業員の士気にも影響する状況でしたので、やむなくけん責の懲戒処分をしました。そうしたところ、同人から懲戒処分が無効であることの確認を求める訴訟が提起されました。当社の対応は誤っていたのでしょうか。
- 会社が従業員に対して懲戒処分をするためには、就業規則上の根拠が必要になります。また就業規則上の根拠があれば足りるわけではありません。労働契約法15条に、「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効となる」という規定があります。客観的に合理的な理由がなく相当でない場合には、権利が濫用されたものとして懲戒処分が無効となることがあります。
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社内で従業員の方の不適切な言動などが行われたとき。
すぐに頭に浮かぶのは「懲戒処分」という4文字ではないでしょうか。
しかし、懲戒処分は、手続関係を含めて、必要となるプロセスをしっかり踏んだ上で行わなければなりません。
どんな場合でも懲戒処分が相当と決めつけて対応を進めてしまうと、のちに当該処分が無効であるとして争われることにもなりかねません。
したがって、懲戒処分を検討する場合には、社内の就業規則の定めを見直すとともに、まず弁護士に相談してみることもおすすめです。
裁判例のご紹介(日本ノーベル事件・東京地裁令和6年4月17日判決)
さて、今回は、不適切な言動等を行った従業員に対するけん責処分及び配転命令の有効性が争われた裁判例をご紹介します。

*労働判例2026.10.15(No.1336号)96ページ以下参照*
どんな事案?
この事案は、Y社との間で雇用契約を締結しているXさんが、Y社から受けたけん責処分や配転命令はいずれも権利濫用であり、無効であると主張して、Y社に対し、けん責処分の無効確認や配転先において勤務する労働契約上の義務がないことの確認などを求めた事案です。
何が起きた?
Y社について
Y社は、電子計算機及びその用品の販売並びに各種情報システムの調査、研究、開発や提供等を業とする会社です。
令和4年6月時点における従業員数は154名でした。
Xさんについて
Xさんは、平成3年7月にY社に入社し、総務部(平成11年頃に「管理本部」に名称変更)に配属され、総務の業務に従事していました。
Xさんの上司は、A本部長であり、A本部長は、令和3年7月1日から、管理本部の本部長の職にありました。
Xさんに対するけん責処分
Y社は、令和4年9月29日、以下のような懲戒事由を理由として、賞罰委員会を開催し、Xさんに対し、けん責の懲戒処分(本件けん責処分)をしました。

Xさんに対する配転命令
また、Y社は、令和4年9月29日、Xさんに対し、同年11月1日付で、新設されるY社業務改善室への配転(本件配転命令)を命じました。
訴えの提起
そこで、Xさんは、本件けん責処分や本件配転命令はいずれも権利濫用であり、無効であると主張して、Y社に対し、けん責処分の無効確認や配転先において勤務する労働契約上の義務がないことの確認などを求める訴えを提起しました。

問題になったこと(争点)
この裁判において、Xさんは、本件けん責処分や本件配転命令がいずれも権利濫用であり、無効であると主張していました。
これに対して、Y社側は、本件けん責処分も本件配転命令も有効なものであり、Xさんの主張には理由がない、と反論していました。
そこで、この裁判では、
①本件けん責処分が権利濫用として無効となるか?
②本件配転命令が権利濫用として無効となるか?
が問題(争点)になりました。
※なお、その他の争点については、本解説記事では省略しています。
裁判所の判断
これらの争点について、裁判所(本判決)は、本件けん責処分も本件配転命令も有効なものであると判断しました。
本判決の要旨(ポイント)
なぜ裁判所はこのような判断をしたのでしょうか?
以下では本判決の要旨(ポイント)をご紹介します。
争点①本件けん責処分が権利濫用として無効となるか?
▶︎判断基準
まず、裁判所は、懲戒処分の有効性の判断について、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には、懲戒処分が無効になるとの基準を示しています。
「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効となる(労働契約法15条)。」
▶︎本件けん責処分の前提となった本件懲戒事由の有無
その上で、裁判所は、本件けん責処分の前提となった行為があったのかどうかを検討し、本件懲戒事由がいずれも認められると認定しました。
「(…)XさんのA本部長に対する言動について本件通報がなされたこと(…)、本件通報を踏まえて実施された9月9日ヒアリングにおいてXさんは、本件懲戒事由①の発言について概ね認めていたこと(…)、ヒアリングにおいて複数の従業員が本件懲戒事由(1)についてのXさんの発言を聞いた、頻度としてもほぼ毎日であるなどと述べていたこと(…)からすれば、Xさんが本件懲戒事由①を行ったことが認められる。また、Xさんは、本件懲戒事由②のメールを送信したことを認めている。
以上より、Xさんが本件懲戒事由に該当する行為を行ったことが認められる(…)。」
▶︎本件懲戒事由にかかる就業規則違反の有無
そして、裁判所は、本件懲戒事由にかかる行為は、Y社の就業規則に違反するものであると認定しました。
「(…)Xさんの上記の言動等について、コンプライアンス相談窓口に、業務に集中できず職場の雰囲気も悪いなどと通報がされていたこと(…)、通報者を含むXさんの周囲の従業員から、Xさんの言動に対し、Xさんの言動を見て激しい頭痛がした、私の能率にも影響している、職場環境が悪化している、管理本部アドレスで記載したり、こんな事まで言わなくてよいのではないかということを書いていた、言い方がきついと思うなどの意見があったこと(…)、からすれば、Xさんの本件懲戒事由に該当する各行為は、Y社就業規則29条(10)「職場の風紀、秩序を乱さないこと」に違反するものであるから、Y社就業規則62条1(3)の「諸規程を守らなかったとき」及び同条2(3)「服務規律を遵守しないとき」に該当する(…)。」
▶︎本件けん責処分の有効性
このような検討を経て、裁判所は、本件けん責処分が有効であると判断しました。
「(…)Xさんの言動は、「馬鹿じゃない」、「私が書いた、下記の質問についての回答にはなっていません。」、「社員への発信を、管理本部長が任されたのでしたら、国が決めようが、ボード会議で決まろうが、社員の事を第一に考え、適切に判断をお願いします。」、「こんなこと、いちいち言わせないでください。」などその表現も厳しく、攻撃的な内容を含むものであり、上司に対するものとしては不適切である上、同じフロアにいる複数の従業員に聞こえるような声で行われたり、管理本部の他の従業員も見ることのできる管理本部アドレスを宛先又はCCとして送信しており、その結果として、通報者のみならず、複数の周囲の従業員の職場環境を悪化させる程度のものであったこと、Xさんの言動が単発的なものではなく、相当程度長期間にわたるものであったこと、本件けん責処分は、Y社の懲戒処分の中では不利益の程度が一番小さいものであり、その不利益の程度も大きくはないことを踏まえると、本件けん責処分より以前に、Y社から、Xさんに対し、口頭によるものを含めて、Xさんの言動について注意、指導がされていなかったこと(…)を踏まえたとしても、本件けん責処分が客観的合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないとはいえない(…)。」
争点②本件配転命令が権利濫用として無効となるか?
▶︎判断基準
次に、裁判所は、配転命令にかかる有効性の判断について、過去の最高裁判例を参照し、使用者が配点命令権を濫用した場合には、配転命令が無効になるとの判断基準を示しています。
「(…)使用者は業務上の必要に応じ、その裁量により労働者の勤務場所を決定することができるものの、使用者の配転命令権の濫用が許されるものではなく、業務上の必要性が存しない場合又は業務上の必要性が存する場合であっても、他の不当な動機・目的をもってなされたものであるとき若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等、特段の事情がある場合でない限りは、当該配転命令は権利濫用の濫用になるものではないというべきである。また、業務上の必要性についても、当該配転先への異動が余人をもっては容易に替え難いといった高度の必要性に限定することは相当でなく、労働力の適正配置、業務の能率増進、労働者の能力開発、勤務意欲の高揚、業務運営の円滑化など企業の合理的運営に寄与する点が認められる限りは、業務上の必要性の存在を肯定すべきである(最高裁判所判決昭和61年7月14日第二小法廷判決・集民148号281頁参照)。」
▶︎業務上の必要性の有無
その上で、裁判所は、本件けん責処分が有効であることを前提として、本件配転命令にかかる業務上の必要性を認めました。
「(…)本件配転命令は、本件けん責処分を契機としているところ、(…)本件けん責処分は有効である。また(…)Y社のコンプライアンス相談窓口にXさんのA本部長に対する言動によって、気分が悪くなり、業務に影響を与えている旨の通報がされてこと(…)、通報者やその他同一フロアで勤務する複数の従業員が、ヒアリングにおいて、XさんのA本部長に対する言動により、頭痛して集中できない、能率に影響し在宅勤務のほうが捗る、職場環境が悪化しているなどと述べていたこと(…)からすれば、Xさんを異動させることにより、A本部長とXさんとの上司部下関係を解消し、業務上の接点を減らしたり、席を離すことによって、XさんのA本部長との物理的な接触を減らすことにより、A本部長のみならず、通報者を含む周囲の従業員の職場環境を改善する必要性があったといえる。
よって、本件配転命令には、業務上の必要性があったと認められる。」
▶︎不当な動機・目的の有無
そして、裁判所は、本件配転命令に不当な動機・目的があったかどうかを検討し、本件においては、そのような不当な動機・目的は認められないと判断しました。
「(…)通報者を含む周囲の従業員の職場環境を改善するために、Xさんを異動させる業務上の必要性があったこと、後記エで説示するとおり、同一フロア内での異動にとどまり不利益が大きくないことからすれば、本件配転命令が出された時点において業務改善室が設立されておらず、業務内容も具体的に定まっていたとはいえない状況であったことや業務改善室が設立された経緯を踏まえても、本件配転命令が不当な動機・目的でなされたものとまでは認めることはできない。」
▶︎本件配転命令の有効性
このような検討を経て、裁判所は、本件配転命令がXさんにとって、通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものでもないことを付言したうえ、本件配転命令が有効であるとの判断を示しました。
「(…)本件配転命令によってもXさんの就労先は、同一フロア内であり、席の位置が変わったにとどまり、通勤時間や、勤務時間、給与に変更はないことからすれば、通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものとは認められない。
以上によれば、本件配転命令は、権利を濫用したものとはいえず、有効である。」
結論
よって、裁判所は、本件けん責処分及び本件配転命令はいずれも有効であり、XさんのY社に対する請求は認められないとの結論を導きました。
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さて、今回は、不適切な言動等を行った従業員に対するけん責処分及び配転命令の有効性が争われた裁判例をご紹介しました。
本判決でも示されているとおり、懲戒処分は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には無効となってしまいます。
今回ご紹介した事案では、懲戒処分(けん責処分)が有効であるとの判断が示されていますが、労使間のトラブルに発展しているケースでは、裁判において懲戒処分が無効であるとされるものも散見されます。
したがって、従業員の方に対して懲戒処分を行う場合には、慎重に検討を重ね、必要な手続も怠ることがないように注意しなければなりません。
懲戒処分についてお悩みがある場合には、弁護士法人ASKにご相談ください。
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