法律コラム

被告が内容を了知せずに確定した外国判決は公序良俗に反するのか?【千葉地裁令和6年7月19日判決】

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外国判決の承認・執行制度とは

もしあなたが外国で受けた判決を日本で執行したいと考えた場合、どうしたらよいのでしょうか。
「せっかく外国で判決をもらったけど、また再び日本で裁判をやり直すことになるのか?」「でも外国判決と違う判断がされてしまったらどうしよう?」
などなど様々な不安が頭をよぎります。

実はこのような不都合を回避する観点から、民事訴訟法118条においては、外国判決の承認制度が定められています。

具体的には、

  1. 外国裁判所の確定判決であること(民訴法118条柱書)
  2. 判決裁判所に国際裁判管轄があったこと(同条1号)
  3. 適切な送達が敗訴の被告に対してなされていたこと(同条2号)
  4. 判決の内容と訴訟手続が日本の公序に反しないこと(同条3号)
  5. 判決国と日本との間に相互の保証があること(同条4号)

という各要件を充足する場合、当該外国判決は特別な手続きを要することなく、日本において承認されます。

また、外国判決の執行制度については、民事執行法24条5項において定められています。同項では、「外国裁判所の判決が、確定したことが証明されないとき、又は民事訴訟法第118条各号に掲げる要件を具備しないときは、却下しなければならない」とされており、先ほどの承認制度の場合と同様、5つの要件(①〜⑤)を充足する必要があります。
なお、執行の場合は、承認とは異なって自動的に認められるわけではないので、執行判決を求める訴えを提起し、日本の裁判所で認めてもらうという手続を要することには注意が必要です。


裁判例のご紹介(執行判決請求事件・千葉地裁令和6年7月19日判決)

さて、今回は、被告が内容を了知せずに確定した外国判決の承認・執行をめぐり、民事訴訟法118条3号に定める「判決の内容と訴訟手続が日本の公序に反しないこと」という要件を充足するのかどうか?が問題になった裁判例をご紹介します。

どんな事案?

XさんとYさんの関係

XさんとYさんは、平成3年に日本において婚姻をしました。
Yさんは、平成9年に、XさんはC1(長男)・C2(二男)を連れて平成10年に、シンガポール共和国に移住し、平成12年にはC3(長女)が誕生しました。

離婚の申立てと審理

ところが、Xさんは、平成19年にシンガポールの家庭裁判所に、Yとの離婚を求める申立てをしました。
そして、平成20年10月、シンガポールの家庭裁判所では、XさんとYさんとの婚姻を解消する旨の仮の判決(中間判決)がされました。
また、その後、離婚に伴う付随事項(子らの親権や監護に関する事項、子らの生活費財産分与など)に関する審理がなされましたが、Yさんは平成22年6月頃、日本に帰国し、以降、シンガポールには戻りませんでした。

本件外国判決

このような中、平成22年11月、上記の付随事項に関する判決(本件外国判決)がなされました。

執行判決を求める申立て

そこで、Xさんは、シンガポールの家庭裁判所が言い渡した本件外国判決のうち、YがXさんに対してC2及びC3の生活費として月額合計5000シンガポールドルを支払うよう命ずる部分について、民事執行法24条に規定する執行判決を求める裁判を申し立てました。

裁判で問題になったこと(争点)

冒頭でもご説明したとおり、外国判決を日本で承認・執行する場合について、民事訴訟法118条3号では、「④判決の内容と訴訟手続が日本の公序に反しないこと」という要件が定められています。

しかし、Yさんは、本件外国判決より前に日本に帰国してしまい、以降、シンガポールには戻っていなかったため、本件外国判決の送達を受けていませんでした。

そこで、この裁判では、“Yさんが本件外国判決の送達を受けていないこと(本件外国判決の訴訟手続)が公の秩序に反しないといえるかどうか?”が問題(争点)になりました。

*なお、この他にも争点がありますが、本解説記事では省略しています*


裁判所の判断

裁判所は、Yさんについて、本件外国判決が言い渡されるまでの手続保障があり、かつ、本件外国判決の判決書の内容を了知する機会も実質的には与えられていたことから、「本件外国判決がYさんに送達されることなく確定したとしても、その訴訟手続が、我が国の法秩序の基本原則ないし基本理念と相いれないものとして民事訴訟法118条3号にいう公序良俗に反するということはできない。」と判断しました。


判決の要旨

以下では、上記判断に至った本判決の要旨をご紹介します。

公序良俗に反する場合とは?

「外国判決に係る訴訟手続において、当該外国判決の内容を了知させることが可能であったにもかかわらず、実際には訴訟当事者にこれが了知されず又は了知する機会も実質的に与えられなかったことにより、不服申立ての機会が与えられないまま当該外国判決が確定した場合、その訴訟手続は、我が国の法秩序の基本原則ないし基本理念と相いれないものとして、民事訴訟法118条3号にいう公序良俗に反するものと解するのが相当である(前掲平成31年最判)。」

Yさんは本件外国判決の内容を了知していない

「本件についてみると、本件外国判決は、被告に対して送達されておらず(…)、また、原告が被告に対して判決書のデータをメールで送信したのは、本件外国判決の確定後である平成23年1月12日である(…)から、被告において不服申立てが可能な時期に、Yさんが現実に本件外国判決の判決書の内容を了知したということはできない。」

Yさんには実質的に本件外国判決の内容を了知する機会が与えられていた

「もっとも、以下の事情に照らせば、被告は、本件外国判決の判決書の内容を了知する機会を自ら放棄したにすぎない。
すなわち、(…)被告は、付随事項の審理の途中でシンガポールを出国し、(…)また、被告がシンガポールを出国した後も、本件住所地には、本件会社の従業員や被告が雇用していた住み込みのメイドが居住していた(…)から、被告は、これらの者と連絡を取るなどして、審問期日の日時を了知し又は了知することは十分可能であったし(…)、本件外国訴訟の当事者は、適切な手数料を支払うことで本件外国判決の判決書の交付を受けることができる(…)から、前示のとおり、ファクトアンドポジションシート提出後に実施される審問期日において、付随事項に関する判決が言い渡されるであろうことを認識していた被告は、審問期日後に所定の手続をとることによって、本件外国判決の判決書の交付を受け、その内容を了知することも容易であったということができる。にもかかわらず、被告は、被告事務弁護士の辞任後の審問期日に出頭せず、また、本件外国判決の判決書の交付を受けることもしなかっただけでなく、シンガポールを出国する際には、「もうシンガポールでの裁判を続けるつもりはなく、シンガポールに戻ってくるつもりもない」(…)、本件外国判決が言い渡された後には、「シンガポールでどんな判決が出ようと従うつもりはありません。」(…)などと述べ、本件外国訴訟の遂行の意思を喪失し、本件外国訴訟の判決の内容には従う意思すらないことを鮮明にしていたのである。
そうとすれば、被告は、本件外国判決の判決書の内容を不服申立期間内に了知したとまでは認められないが、本件外国判決が言い渡されるまでの手続保障はあり、被告には本件外国判決の判決書の内容を了知する機会が実質的には与えられていたものといえる。」

結論

「以上によれば、被告には、本件外国判決の内容を了知する機会が実質的に与えられていたということができるから、本件外国判決が被告に送達されることなく確定したとしても、その訴訟手続が、我が国の法秩序の基本原則ないし基本理念と相いれないものとして民事訴訟法118条3号にいう公序良俗に反するということはできない。
したがって、本件外国判決の訴訟手続は、我が国における公の秩序又は善良の風俗に反しないものというべきである。」

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さて、今回は、外国判決の日本における執行が問題になった事案をご紹介しました。

家族関係を含めて、グローバルな関係が築かれるいま、裁判であっても、日本国内だけでなく、国外と関連をもつ可能性があります。
特に何かの取引をする場合、契約書をよく読んでいないと、相手に有利な裁判管轄が定められていたり、相手に有利な準拠法が定められたりしていることもあります。
誰かとのトラブルを想定することは、あまり気持ちの良いものではないかもしれませんが、時に裁判になったときは、どこの裁判所を使うのだろうか?どこの国の法律が適用されるのだろうか?といったことも考えてみるとよいでしょう。

また裁判の手続についてお悩みがある場合には、ぜひ弁護士法人ASKにご相談ください。

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