法律コラム

夫婦の称する氏を定めずに婚姻届出をしたところ不受理に?【東京家裁令和7年1月10日審判】

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婚姻をしようとする場合、当事者は婚姻届書を作成して、本籍地または所在地の市役所、区役所または町村役場に届け出ることが求められます。
これは、民法第739条戸籍法第74条に基づいて定められているためです。

婚姻届書には、成年の証人2名の署名(押印は任意)が必要とされています。
また、添付書類が必要となる場合もあるので、詳しくは届出先の市区町村に事前に問い合わせておくことが良いでしょう。

裁判例のご紹介(市町村長処分不服申立事件・東京家裁令和7年1月10日審判)

さて、今回は、外国の方式により婚姻した日本人夫婦が、夫婦が称する氏を定めずに婚姻の届出をしたところ、その届出が不受理とされてしまったことから、不受理処分は不当であると主張して争った事案をご紹介します。

*判例時報2025.10.15(No.2630号)121ページ以下参照*

どんな事案?

この事案は、日本国籍のXさんらが、アメリカ合衆国B州法で同州の方式によって婚姻を挙行し、戸籍事務管掌者であるA区長に対して、夫婦が称する氏を定める記載のない婚姻届を提出したところ、本件届出が不受理とされてしまったことから、不服申立てを行った事案です。

何が起きた?

Xさんらについて

X1さんは、日本国籍を有する男性です。
また、X2さんは、日本国籍を有する女性です。

アメリカ合衆国ニューヨーク州法での婚姻の挙行

Xさんらは、平成9年(1997年)当時、アメリカ合衆国B州に居住していました。
そして、Xさんらは、B州において、B州法所定の婚姻の方式に従って婚姻許可証を得て、B州B市の市庁舎において、記録官の下で婚姻を挙行しました(本件婚姻)。
本件婚姻の際、Xさんらは、夫婦が称する氏を定めず、現在までそれぞれ生来の氏を使用しています。

A区長への婚姻の届出

Xさんらは、令和4年6月13日、A区長に対し、婚姻届並びにB州で発行された婚姻証書謄本と訳文を提出して、婚姻の届出をしました。
この婚姻届の「婚姻後の夫婦の氏」欄には、「夫の氏」と「妻の氏」のいずれにもレ点が付されていました。

不受理の処分

しかし、A区長は、Xさんらの本件届出について、民法750条及び戸籍法74条1号に違反しているとして、不受理とする処分をしました。

不服申立て

そこで、Xさんらは、令和4年7月4日、家庭裁判所に対し、A区長による本件不受理処分に不服があるとして、市町村長処分不服申立てを行いました。

問題になったこと

この事案では、A区長が、民法750条及び戸籍法74条1号違反を理由として、Xさんらの本件届出を不受理とした処分が不当かどうか?が問題になりました。

*また、この事案では、本件婚姻が有効に成立したかどうか?も問題になりましたが、裁判所は、「本件婚姻は、民法の定める実質的成立要件及びB州家族法の定める形式的成立要件のいずれをも充足している」として、本件婚姻の有効性を認めています。


なぜこの点が問題になった?

日本人夫婦が日本国内で婚姻する場合は、夫又は妻の氏のいずれかを「夫婦が称する氏」として届け出ることが、婚姻の有効な成立要件となっています。
他方で、日本人夫婦が国外で外国の方式によって婚姻する場合には、外国の方式に従い、夫婦が称する氏を定めずに婚姻の手続ができる場合があります。

本件において、XさんらはB州においてB州法所定の婚姻の方式に従って婚姻を挙行していたところ、A区長に対する本件届出(報告的届出)の際、いずれかの「夫婦が称する氏」の選択をしていませんでした。

そこで、Xさんらによる本件届出を不受理としたA区長による処分が不当といえるのかどうか?が問題になりました。


裁判所の判断

裁判所は、本件届出について、Xさんらは「夫又は妻のいずれか一方の氏を選択」していないため、「本件不受理処分は不当とはいえない」として、Xさんらの申立てを却下しました。


本審判の要旨

戸籍実務上の取り扱い

まず、裁判所は、在外日本人が外国の方式に従って婚姻し、婚姻証書を作成した場合、3か月以内に、その旨を届け出る必要があるところ、この届出の際には、戸籍実務上、必要に応じて夫婦が称する氏などの必要事項を申し出させることができることを指摘しました。

「外国に在る日本人が外国の方式に従って婚姻し、その旨の証書(婚姻証書)を作らせた場合には、3か月以内にその国に駐在する日本の大使、公使又は領事を通じて、又は直接に、当該証書の謄本を本籍地の市区町村長に提出し、届け出なければならないものとされている(戸籍法41条、42条、甲6。なお、この場合の届出は報告的届出である。)ところ、これは、婚姻が成立した旨を自身の戸籍に記載し、公証する必要があるためである。そして、この届出に際しては、戸籍実務上、必要に応じて夫婦が称する氏等の戸籍の届出に必要な事項について申出させることとされている(昭和25年1月23日付民事甲第145号(二)36号民事局長回答、令和4年11月2日付けA区長意見書添付資料3)。」

外国の方式に従って婚姻した日本人夫婦も同様

次に、裁判所は、Xさんらの婚姻の効力については、通則法25条により日本法が適用されるところ、民法750条や戸籍法74条1号の解釈によれば、外国の方式に従って婚姻した日本人夫婦についても、婚姻の届出の際に、夫又は妻の氏のいずれかを「夫婦が称する氏」として届け出る義務があると判断しました。

「ところで、通則法によれば、婚姻の効力は、夫婦の本国法が同一であるときはその法によるものとされている(同法25条)ところ、Xさんらはいずれも日本国籍を有する者であるから、婚姻の効力は民法によることとなる。
そして、民法は、婚姻の効力として、夫又は妻の氏を称するという効力(同氏の効力)が発生するものとしており(同法750条)、同規定に基づき、戸籍法により、夫婦が称する氏の届出をし(同法74条1号)、一の夫婦及びこれと氏を同じくする子ごとに戸籍が編成される(同法6条)ことが予定されている。
そうすると、外国の方式に従って婚姻した日本人夫婦においても、婚姻の効力として同氏の効力が生じることから、婚姻の届出に際しては、夫又は妻の氏のいずれかを「夫婦が称する氏」として届け出なければならないと解するべきであり、上記アのとおり、戸籍法が、外国の方式に従って婚姻した日本人夫婦に対して婚姻の届出義務を課しているのも、そのような解釈を前提にしているものと解される。」

本件不受理処分は不当とはいえない

そして、裁判所は、Xさんらは、婚姻届の「夫の氏」と「妻の氏」のいずれにもレ点をつけており、夫または妻の氏を選択して届出ていないため、A区長による不受理処分は不当とはいえないとの結論を導きました。

「Xさんらは、(‥)本件婚姻届の「婚姻後の夫婦の氏」欄につき、「夫の氏」と「妻の氏」のいずれにもレ点を付しており、未だ夫又は妻のいずれか一方の氏を選択して届け出ていない。
以上のように、Xさんらは、夫又は妻のいずれか一方の氏を選択して本件婚姻を届け出ていないから、本件不受理処分は不当とはいえない(…)。
よって、本件申立てには理由がないからこれを却下する(…)。」

弁護士法人ASKにご相談ください

さて、今回は、外国の方式により婚姻した日本人夫婦が、夫婦が称する氏を定めずに婚姻の届出をしたところ、その届出が不受理とされてしまったことから、不受理処分は不当であると主張して争った事案をご紹介しました。

この点、裁判所は、外国の方式に従って婚姻した日本人夫婦についても、婚姻の届出の際に、夫又は妻の氏のいずれかを「夫婦が称する氏」として届け出る義務があるとして、Xさんらの申立てを却下しています。

今回は、婚姻をめぐる問題でしたが、日本人が国外に住んでいる場合や外国の方と結婚をしている場合などにおいては、この他にも離婚、相続、養育費などをめぐる争いが生じることもあります。

お悩みのことがある場合には、ぜひ弁護士法人ASKにご相談ください。

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