労働問題

講師から事務職員への配転は許されるのか?【学校法人明徳学園事件】

川崎市内で学校法人を経営しています。講師として契約していた従業員を事務員に配置転換をしたいと考えていますが、可能でしょうか。
使用者側には社員に対する人事権があるため、配転命令権があります。しかしながら、就業規則や労働協約における定めや従業員との間で締結した労働契約における合意など、配転命令を行うための根拠が必要です。また、配転命令権がある場合であっても、一定の場合は配転命令が権利の濫用として無効となることがあります。
ご質問の件においては、講師として契約している従業員との契約等において配転命令権があるかどうか、配転命令権がある場合であっても権利濫用といえる事情がないかどうかが問題になります。
詳しくは、企業側労働問題に詳しい弁護士法人ASKにご相談ください。

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配転の際に気をつけたいポイント

配転とは?

“配転”とは、同一の会社内で従業員の職務内容や職務場所を相当の期間にわたって変更することをいいます。

一口に配転といっても、一般的には、同一事業所内で部署等を変更する場合を「配置転換」、配転の結果、従業員の転居を伴う場合を「転勤」と呼んでいます。

使用者には配転する権限がある

使用者は、個々の従業員の適正や人間関係の状態、社内の人員配置状況などを考慮しつつ、従業員に対して配転を命じることがあります。
使用者側には社員に対する人事権があるため、配転命令権があります。
ただし、使用者が従業員に対して配転を命ずるためには、就業規則や労働協約における定めや従業員との間で締結した労働契約における合意など、配転命令を行うための根拠が必要ですので注意してください。

配転が無効になることもある

また、仮に労働契約上の根拠があり、使用者側に配置転換命令権がある場合であっても、無制約に配置転換命令権の行使が認められるものではありません。

  • ・業務上の必要性がないにもかかわらず配転命令権を行使した場合
  • ・他の不当な動機・目的をもってなされたものであるとき
  • ・従業員に対して通常甘受すべき程度を超える著しい不利益を負わせるものであるとき

など、特段の事情が認められる場合には、その配転命令は権利の濫用として無効と判断される場合もあります。

最近では重要判例も出されています

昨年(令和6年)4月26日には、職種限定の合意がある場合の配置転換命令権の限界に関する判断を示した最高裁判決(最高裁令和6年4月26日 第二小法廷判決)も出され、配転命令はホットなトピックになっています(この最高裁判決についてはこちらのページで解説していますのでぜひご覧ください。)。
判例を踏まえつつ、改めて社内で配転命令をする場合の根拠や有効性などについて見直しておくことも大切です。
配転命令についてお悩みがある場合には弁護士法人ASKにご相談ください。


裁判例のご紹介(学校法人明徳学園事件・東京地裁令和7年2月13日判決)

さて、今回は、常勤講師としてY法人に雇用されていたXさんが、事務職員(常勤嘱託)への配置転換命令を受けたことから、配転の無効を主張して、Y法人を訴えた裁判例をご紹介します。

どんな事案?

この事案は、常勤講師としてY法人に雇用されていたXさんが、令和4年4月1日付で有期労働契約の事務職員(常勤嘱託)への配置転換命令を受けたことから、配転命令が無効であると主張して、Y法人に対し、常勤講師としての労働契約上の権利を有する地位の確認を求めるなどした事案です。

何が起きた?

XさんとY法人の労働契約の締結

Xさんは、平成22年4月1日、Y法人との間で、Y法人が運営するA高等学校(本件高校)の常勤講師として、同校の生徒への教育指導や試験・評価にかかる付帯業務(校務分掌・会議等を含む)を行うことを業務内容とする期間1年の労働契約を締結しました。

Xさん
Xさん

高等学校の常勤講師として1年契約をしています。

無期契約への転換

XさんとY法人は、令和3年4月1日まで毎年度、同じ内容での労働契約の更新を繰り返していましたが、Xさんは、同年11月1日(また、書式を修正の上で令和4年2月27日)、Y法人に対して、無期労働契約転換申込書を提出しました。
これによって、同年4月1日付でXさんとY法人との労働契約は、期間の定めのないものになりました。

Xさん
Xさん

無期転換申込みもしたので、期間の定めのない契約になりました。

Y法人による配置転換

ところが、Y法人は、Xさんに対して、令和4年4月1日付で、Xさんを有期労働契約の事務職員への配置転換命令をしました。

Xさん、令和4年4月から事務職員へ配置転換します!

Y法人
Y法人

訴えの提起

そこで、Xさんは、Y法人に対して、配転命令が無効であると主張して、Y法人に対し、常勤講師としての労働契約上の権利を有する地位の確認を求めるなどの訴えを提起しました。

何が問題になったか?

Xさんの主張

Xさんは、Y法人による本件配転命令は、業務上の必要性が全く認められない上、Xさんが無期労働契約への転換権を行使したことを理由とする違法・不当な目的に基づくものであるから、権利濫用として無効であると主張していました。

Y法人の反論

これに対して、Y法人は、本件配転命令は、Xさんが数々の問題行動を引き起こして、教職員としての適格性を著しく欠いていたためになされたものであり、業務上の必要性や相当性が認められるものであるから、権利濫用とはいえず有効であると反論していました。

争点

そこで、裁判では、本件配転命令が有効なのかどうか?が問題(争点)になりました。

※なお、その他の争点については、本解説記事では省略しています。

裁判所の判断

裁判所は、Y法人がXさんに対して行った本件配転命令は、業務上の必要性や相当性が認められるものであるから、権利濫用とはいえず有効であると判断しました。

本判決の要旨(ポイント)

裁判所はなぜこのような判断に至ったのでしょうか?
以下では、本判決の要旨をご紹介します。

配転命令の業務上の必要性が認められること

まず、裁判所は、以下のように述べて、本件配転命令には業務上の必要性があったものと認めました。

「(…)Xさんには、出勤すべき時刻に遅刻する、担当する授業を行わず、あるいは授業に遅刻する、授業進度に著しい遅れを生じさせる、担任クラスのホームルームを行わない、職員会議に遅刻する、外部から中学生を受け入れて行うはずだった部活動体験行事を失念した上、これを正直に上司に報告しなかったといった点で、令和3年度までの間に、Xさんの教育職員としての勤務態度には多大な問題があり、かつ、(…)継続的な指導によっても容易に改善しなかったものと認められるから、同年度末の時点で、生徒への教育指導への関わりが小さくなる常勤嘱託へ配転する必要性があるとY法人が判断したことには合理的な理由がある。」

配転命令の相当性も認められること

次に、裁判所は、以下のように述べて、本件配転命令には社会通念上の相当性も認められると判断しました。

「(…)Xさんの給与は本件配転命令の前後で変化していないから(…)本件配転命令により、Xさんに大きな経済的な不利益は生じていない。また、Y法人は、Xさんがバスケットボール部の指導を行いたい旨の希望を容れ、Xさんは、本件配転命令後においても引き続きその指導に当たっている(…)。
(…)このようにY法人は、Xさんに教育職員としての職務を維持しながら、その業務改善を試みたものと認められる。
以上の事実からすれば、本件配転命令は、社会通念上相当性を欠くものとはいえない。」

配転命令に不当な目的もないこと

加えて、裁判所は、以下のように述べて、本件配転命令が不当な目的によってなされたものとはいえないと判断しました。

「本件高校の(…)校長の発言中には、Xさんが無期労働契約への転換権を行使したことを撤回させる目的や、Xさんを退職させようとする目的をうかがわせるものはない。実際にも、Xさんは、令和4年4月1日付けで無期労働者となっている上、賃金(期末手当を除く。)は従前と変わらない一方で、与えられた業務の内容は、従前よりも軽減されていることからすれば、無期労働契約への転換権を行使した者に期末手当を支給しないことの当否はひとまず措くとしても、本件配転命令は、不当な目的によってなされたものとはいえない。」

本件配転命令は有効(結論)

よって、裁判所は以上の検討を踏まえて、

「本件配転命令は、Y法人の配置転換命令権を濫用したものとはいえず、有効である」

という結論を導きました。

弁護士法人ASKにご相談ください

今回ご紹介した裁判例では、常勤講師から有期労働契約の事務職員(常勤嘱託)への配置転換命令の有効性の有無が争われていました。

冒頭でも述べたとおり、配転命令権の行使は就業規則などに根拠があるからといって、何ら制限なく行使できるものではありません。

  • ・業務上の必要性がないにもかかわらず配転命令権を行使した場合
  • ・他の不当な動機・目的をもってなされたものであるとき
  • ・従業員に対して通常甘受すべき程度を超える著しい不利益を負わせるものであるとき
  • ・労働条件が大幅に悪化する場合

など、特段の事情が認められる場合には、その配転命令は権利の濫用として無効と判断されることになります。

人を雇用する中で、人事権の行使は、使用者が最も頭を悩ますポイントの一つかもしれません。特に配置転換は労働者に与える影響もあることから、慎重に判断をしなければ、後に労使紛争に発展するリスクもあります。

配置転換をめぐりお悩みがある場合には、ぜひ弁護士法人ASKにご相談ください。

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