文化功労者年金を受ける権利を差押さえることはできる?【最高裁令和6年10月23日決定】
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債権執行(強制執行)とは?
お金を貸したのに返してもらえない!
物を売ったのにお金を払ってもらえない!
などお金をめぐるトラブルはいつも身近に潜んでいます。
そんなお金の回収については、強制執行(債権執行)という手続がとられることがあります。
債権執行とは、債務者の有する債権を差し押さえるものです(民事執行法第143条以下)。
債権は、不動産のように目に見える形では存在していないものの、第三債務者の協力が得られれば、債権者としては債権回収の可能性が高まることから、債権執行は債権者が行う強制執行の手続のかなりの割合を占めています。
(※「第三債務者」=債権執行では、債務者の有する債権が執行の対象となることから、債務者の有する債権の債務者が手続の中で現れることになります。この債務者のことを第三債務者と呼びます。)
債務者の支払い能力に不安がある場合やお金の回収に困っているときは、まず弁護士に相談してみることがおすすめです。
また、強制執行について、詳しくはこちらのページで解説していますので、ぜひご参照ください。
裁判例のご紹介・最高裁令和6年10月23日決定
さて、今回はそんな強制執行をめぐり、文化功労者年金に基づく年金の支給を受ける権利について、強制執行をすることができるのかどうか?が争われた最高裁決定をご紹介します。

どんな事案?
この事案は、Xさんが、文化功労者年金法に基づく文化功労者であるYさんに対して、Yさんが第三債務者である国に対して持っている、この年金の支給を受ける権利について、仮差押え命令の申立てなどをした事案です。

何が問題になった?
差押禁止債権
債権の差押えについては、法律などに明文の規定がなかったとしても、判例や学説上、権利の性質に照らして差し押さえることができない債権(=強制執行の対象とならない)があると考えられています。
このような性質上の差押禁止債権の一例としては、「公的年金、生活保護法に基づく金銭給付や現物給付、労働基準法による災害補償としての休業補償金,自動車損害賠償保障法等に基づく損害賠償金等」が挙げられています(裁判所ウェブサイト:「差押禁止債権の範囲変更申立てQ&A」参照)。
原審の判断
文化功労者年金法その他の法令では、本件年金の支給を受ける権利の差押えを禁止する明文の規定はありませんでした。
しかし、原審の裁判所は、「文化功労者自身が現実に本件年金を受領しなければ本件年金の制度の目的は達せられないから、本件年金の支給を受ける権利は、その性質上、強制執行の対象にならないと解するのが相当であり、上記権利に対しては強制執行をすることができないというべきである」として、Xさんの申立てを却下していました。
問題になったこと
そこで、本件では、文化功労者年金に基づく年金の支給を受ける権利が、性質上の差押禁止債権にあたり、強制執行の対象とならないのかどうか?が問題になりました。
最高裁判所の判断
この点、最高裁判所は、文化功労者「年金の支給を受ける権利に対しては強制執行をすることができる」という判断を示しました。
「文化功労者年金法は、1条において、同法は文化の向上発達に関し特に功績顕著な者(文化功労者)に本件年金を支給し、これを顕彰することを目的とする旨を、3条1項において、文化功労者には、終身、本件年金を支給する旨を、同条2項において、本件年金の額は、文化の向上発達に関する功績に照らし、社会的経済的諸事情を勘案して、文化功労者を顕彰するのにふさわしいものとなるようにしなければならない旨をそれぞれ定めているところ、同法その他の法令において、本件年金の支給を受ける権利に対して強制執行をすることはできない旨を定めた規定は存しない。そして、文化功労者年金法の上記の各定めによれば、本件年金は、文化功労者の功績等を世間に知らせ、表彰することを目的として支給されるものと解される。そうすると、国が文化の向上発達に関し特に功績顕著な者を文化功労者として決定することにより、その者に本件年金の支給を受ける権利が認められることで、上記の表彰の目的は達せられるものといえ、その者が現実に本件年金を受領しなければ上記目的が達せられないとはいえない。したがって、本件年金の支給を受ける権利は、その性質上、強制執行の対象にならないと解することはできない。
以上によれば、本件年金の支給を受ける権利に対しては強制執行をすることができるというべきである。」
本決定のポイント
原審の裁判所は、「文化功労者自身が現実に本件年金を受領しなければ本件年金の制度の目的は達せられない」ことを理由として、文化功労者年金に基づく年金の支給を受ける権利が、性質上の差押禁止債権にあたると判断していました。
これに対して、最高裁判所は、「国が文化の向上発達に関し特に功績顕著な者を文化功労者として決定することにより、その者に本件年金の支給を受ける権利が認められることで(…)表彰の目的は達せられる」ため、仮に当該文化功労者が現実に年金を受領しなかったとしても、その目的が阻害されるものではないことから、本件年金の支給を受ける権利は、性質上の差押禁止債権には当たらないと判断しました。
性質上の差押禁止債権に当たるかどうかは、他人の給付受領によっては、その債権の目的を達し得ないものなのかどうか、という点が大きなポイントになるといえるでしょう。
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債権者にとって債権の回収は特に大きな問題です。
適時・適切に必要な手続きをとっておかないと、いつの間にか債権回収ができないまま泣き寝入りになってしまうこともあります。
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