法律コラム

一話完結型の小説に登場するキャラは著作物か?【東京地裁令和5年12月7日判決】

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著作物とは?

著作権法では、「著作物」について
①思想又は感情を
②創作的に
③表現したものであって
④文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの
と定義しています(著作権法第2条第1項第1号

簡単にいえば、“⼈間の考えや気持ちを創作的に表現したもの”です。
抽象的なアイデアは含まれません。
ですから、⼩説や絵画、⾳楽、イラストといったように具体的に表現されたものであることが求められます。

では、どのようなものが「著作物」に該当するのでしょうか?
著作権法では、その具体的な種類として、以下のようなものを示しています(著作権法第10条第1項各号)。

著作物の例
  • 小説、脚本、論文、講演その他の言語の著作物
  • 音楽の著作物
  • 舞踊又は無言劇の著作物
  • 絵画、版画、彫刻その他の美術の著作物
  • 建築の著作物
  • 地図又は学術的な性質を有する図面、図表、模型その他の図形の著作物
  • 映画の著作物
  • 写真の著作物
  • プログラムの著作物

ただし、これらはあくまでも例示にすぎませんので、先ほど述べた定義に該当するものであれば「著作物」に該当することになります。

著作権などの知的財産権と契約書のポイントについてはこちらの記事で詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。

裁判例のご紹介(著作権侵害差止等請求事件・東京地裁令和5年12月7日判決)

さて、今回は、映画にもなった連載小説に登場するキャラが「著作物」に該当するのかどうか?が争われた裁判例をご紹介します。

どんな事案?

この事案は、Xさんらが、Y社に対して、Y社が「Y図柄」及び「紋次郎」という語をY社商品に付して製造販売し、その画像を公衆送信することは、Xさんらの作品に係る著作権を侵害すると主張して、Y商品の製造販売等の差止めや廃棄、損害賠償などを求めた事案です。

何が起きた?

Xさんらについて

X1さんは、本件書籍を含む「木枯し紋次郎」シリーズの小説を創作した故Bさんの妻であり、故Bさんから、本件書籍を含む同人の全ての著作物に係る著作権を相続していました。
また、X2社は、広告代理店業、キャラクター商品の企画等を目的とする会社であり、本件書籍を含む故Bさんの全ての著作物に係る著作権について、X1さんから独占的な利用許諾を受けていました。

Bさん
Bさん

「木枯らし紋次郎」の作者です。X2社にキャラクター商品の利用許諾を与えています

X2社
X2社

「木枯らし紋次郎」はうちが管理しています!

Y社について

他方で、Y社は、食品の製造販売等を業とする会社でした。

食品を販売しています!

Y社
Y社

本件書籍とその漫画化・映画化

本件書籍は、故Bさんが、「紋次郎」を主人公として創作した時代小説であり、言語の「著作物」に当たるものでした。
本件書籍は、昭和47年に、Cさんの作画により漫画化され、本件漫画作品が発行されました。
また、本件書籍は、同年1月に、Dさんの主演によりテレビ化され、本件テレビ作品は放映されていました。
さらに、本件書籍は、Eさんの主演により映画化され、本件映画作品は全国公開されていました。

Bさん
Bさん

「紋次郎」のキャラクターはテレビ化、映画化しています!

Y社商品の製造販売

Y社は、昭和47年6月25日から、「紋次郎いか」という商品名でパッケージにY図柄を付して、甘辛く煮たするめいかの足を竹の串に刺した食品を製造販売しました。
また、Y社は、その後、「げんこつ紋次郎」その他のY社商品にも、Y図柄を付して、製造販売していました。

「紋次郎いか」「げんこつ紋次郎」を販売します!

Y社
Y社

訴えの提起

そこで、Xさんらは、Y社に対して、Y社が「Y図柄」及び「紋次郎」という語をY社商品に付して製造販売し、その画像を公衆送信することは、Xさんらの作品に係る著作権を侵害すると主張して、Y商品の製造販売等の差止めや廃棄、損害賠償などを求める訴えを提起しました。


問題になったこと(争点)

Xさんらの主張

Xさんらは、次のように主張し、Y社側がXさんらの作品に係る著作権を侵害するとしていました。

Y社の反論

これに対して、Y社側は、次のように反論し、Y社はXさんらの作品に係る著作権を侵害していないとしていました。

争点

上記のようなXさんらとY社側の反論を踏まえて、本件では、Y社が「Y図柄」及び「紋次郎」という語をY社商品に付して製造販売し、その画像を公衆送信することが、Xさんらの作品に係る著作権を侵害するのかどうか?が問題になりました。
※なお、その余の争点については本解説記事では省略します。

裁判所の判断

裁判所は、Xさんらは、本件書籍において著作権が侵害されたという「著作物」を具体的に特定しておらず、また、渡世人についても同様であるから、そもそもXさんらの主張は主張自体失当であり、認められないと判断しました。


本判決の要旨

なぜ裁判所はこのような判断に至ったのでしょうか?
以下では本判決の要旨をご紹介します。

一話完結型の連載小説のキャラは「著作物」には該当しない

まず、本判決は、従来の判例を参照し、一話完結型の連載小説のキャラは「著作物」には該当せず、著作権侵害を主張するためには、その連載小説の中のどの回の文章表現に係る著作権が侵害されたのか?という点を具体的に特定しなければならない、という判断基準を示しました。

「著作権法上の著作物は、「思想又は感情を創作的に表現したもの」(同法2条1項1号)とされており、一定の名称、容貌、役割等の特徴を有する登場人物が反復して描かれている一話完結形式の連載小説においては、当該登場人物が描かれた各回の文章表現それぞれが著作物に当たり、上記登場人物のいわゆるキャラクターといわれるものは、小説の具体的表現から昇華した登場人物の人格ともいうべき抽象的概念であって、具体的表現そのものではなく、それ自体が思想又は感情を創作的に表現したものということができない。そうすると、一話完結形式の連載小説に登場するキャラクターは、著作権法2条1項1号にいう著作物ということはできない(連載漫画についての最高裁平成4年(オ)第1443号同9年7月17日第一小法廷判決・民集51巻6号2714頁参照)。
したがって、著作権者は、一話完結形式の連載小説に係る著作権侵害を主張する場合、その連載小説中のどの回の文章表現に係る著作権が侵害されたのかを具体的に特定する必要があるものと解するのが相当である。」

Xさんらの主張は具体的な特定がなされていない

その上で、本判決は、上記の判断基準に照らしてみると、Xさんらは、著作権が侵害されたと主張する「著作物」について具体的に特定していない、としました。

「これを本件についてみると、Xさんらは、特定論において、著作権が侵害されたと主張する著作物につき、〈1〉通常より大きい三度笠を目深にかぶり、〈2〉通常よりも長い引き回しの道中合羽で身を包み、〈3〉口に長い竹の楊枝をくわえ、〈4〉長脇差を携えた渡世人という記述(以下「本件渡世人」という。別紙本件紋次郎表示目録参照)であると特定するにとどまり、本件渡世人を個別の写真や図柄等として特定するものではなく、その他に主張する予定もないと陳述している(第1回口頭弁論調書参照)。
そうすると、Xさんらは、一話完結形式の連載小説に係る著作権侵害を主張する場合、その連載小説中のどの回の文章表現に係る著作権が侵害されたのかを具体的に特定するものではない。」

結論

そのため、本判決は、Xさんらの著作権侵害に係る主張は認められない、と結論付けました。

「したがって、Xさんらの特定論に係る主張を前提とすれば、Xさんらは、本件書籍において著作権が侵害されたという著作物を具体的に特定しないものとして、その主張自体失当というほかなく、この理は、本件漫画作品、本件テレビ作品及び本件映画作品の一貫した中心人物として主張される本件渡世人についても、異なるところはない。」

弁護士法人ASKにご相談ください

今回ご紹介した裁判例では、一話完結型の連載小説に登場するキャラクターは著作権法2条1項1号にいう「著作物」に該当するか否かが問題になっていました。
本判決は、これまでの判例も踏まえて、一話完結型の連載小説に登場するキャラそれ自体は保護されることはなく、著作権侵害をする場合には、連載小説の中の“どの回の文章表現にかかる著作権が侵害されたのか”を“具体的に特定”しなければならないことを示しています。
このように知的財産権の侵害や保護をめぐる主張は複雑で難しい点が多々あります。
著作権をはじめとする知的財産権の侵害などについてお悩みがある場合には、ぜひ弁護士法人ASKにご相談ください。

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