法律コラム

フリーランス保護法に基づく指導が行われています【具体例あり】

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昨年(令和6年)11月1日、いわゆるフリーランス保護法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)が施行されました。
この法律は、フリーランスが企業から圧倒的に不利な条件で業務をさせられたり、なかなか報酬を支払ってもらえなかったりするなど、弱い立場に置かれている状況を踏まえ、フリーランスが安心して業務を遂行できるような環境を整えるべく制定されたものです。

フリーランス保護法は、このような法律制定の背景を踏まえ、第22条(指導及び助言)おいて、「公正取引委員会及び中小企業庁長官並びに厚生労働大臣は、この法律の施行に関し必要があると認めるときは、業務委託事業者に対し、指導及び助言をすることができる。」と定めています。

そして、今回、公正取引委員会から、45名の事業者に対して、契約書や発注書の記載、発注方法、支払期日の定め方等の是正を求める指導が行われたとのことです。
そこで、本ページでは、公正取引委員会によって行われた指導の具体的内容をご紹介したいと思います。

フリーランス保護法とは?

フリーランス保護法について、詳しくはこちらのページでご紹介しております。
また偽装フリーランスについては、こちらをご覧ください。

公正取引委員会による指導に至る経緯

積極的な情報収集

公正取引委員会は、フリーランス保護法の施行後、同法に違反する疑いのある行為を行なっている事業者やその業種に関する情報収集を積極的に行なっています。

なお、公正取引委員会は、フリーランス・事業者間取引適正化等法の違反被疑事実についての申出窓口を設けています。
詳しくは、公正取引委員会のこちらのページを参考にしてみてください。

情報収集を踏まえた調査

公正取引委員会は、令和7(2025)年3月28日、上記のような情報収集を踏まえて、フリーランスとの取引が多い
①ゲームソフトウェア業
②アニメーション制作業
③リラクゼーション業
④フィットネスクラブ

の事業者についてさらに集中的に調査を行いました。

調査の結果

そして、このような集中的な調査の結果、公正取引委員会は、45名の事業者に対して、“契約書や発注書の記載、発注方法、支払い期日の定め方等の是正“を求める指導を行うに至りました。

【公正取引委員会HP「フリーランス・事業者間取引適正化等法に基づく指導(概要)」より】

指導の対象事例

では、公正取引委員会からは、実際にどのような指導が行われたのでしょうか?
ここからは、指導の対象となった主な事例として公正取引委員会が公表している内容を確認していきましょう(公正取引委員会:「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律に基づく指導について」参照)。

①ゲームソフトウェア業に関する指導例

・ゲームソフトウェア業を営むA社は、特許関連の業務を特定受託事業者に委託しているが、 業務委託をした場合に直ちに明示が必要な事項のうち、 給付を受領する期日を明示していなかった

【取引条件の明示義務】に違反

・ゲームソフトウェア業を営むB社は、オンラインゲームのイラスト制作を特定受託事業者に委託しているが、既に給付を受領していたにもかかわらず、給付を受領する期日及び報酬の額を明示していなかった

【取引条件の明示義務】に違反

・ゲームソフトウェア業を営むC社は、ゲームソフトに関する企画制作を特定受託事業者に委託しているが、業務委託をした場合に直ちに明示が必要な事項のうち、報酬の支払期日を明示していなかった

【取引条件の明示義務】に違反

・ゲームソフトウェア業を営むD社は、ゲームイラストやテキスト等の制作を特定受託事業者に委託しているが、特定受託事業者が請求書を提出した日を基準に支払期日を設定しており、給付を受領した日から60日以内に報酬を支払わない場合、期日までの報酬支払義務違反となるおそれがあった。

【期日における報酬支払義務】に違反(する恐れ)

・ゲームソフトウェア業を営むE社は、同社が取り扱うゲームに関する漫画制作を特定受託事業者に委託しているが、検収日を基準に支払期日を設定しており、給付を受領した日から60日以内に報酬を支払わない場合、期日までの報酬支払義務違反となるおそれがあった。

【期日における報酬支払義務】に違反(する恐れ)

②アニメーション制作業に関する指導例

・アニメーション制作業を営むF社は、アニメーション作品の制作業務の全部又は原画の作成、音響演出等の業務を特定受託事業者に委託しているが、業務委託をした場合に直ちに明示が必要な事項のうち、検査完了日並びに報酬の額及び支払期日を明示していなかった

【取引条件の明示義務】に違反

③リラクゼーション業に関する指導例

・リラクゼーション業を営むG社は、整体施術の業務を特定受託事業者に委託しているが、業務委託をした場合に直ちに明示が必要な事項のうち、 役務の提供を受ける期日及び場所を明示していなかった。また、報酬の支払期日を「翌月10日まで」と記載しており具体的な期日を特定していなかった

【取引条件の明示義務】【期日における報酬支払義務】に違反

④フィットネスクラブに関する指導例

・フィットネスクラブを営むH社は、パーソナルトレーニング業務を特定受託事業者に委託しているが、業務委託をした場合に直ちに明示が必要な事項のうち、報酬の支払期日を明示していなかった。また、個々の業務委託の発注時において、共通事項(基本契約書)との関連性(参照元)を明示していなかった

【取引条件の明示義務】に違反

・フィットネスクラブを営むI社は、グループレッスン業務を特定受託事業者に委託しているが、業務委託が開始された後に取引条件の明示を行っており、業務委託をした場合の明示を直ちに行っていなかった

【取引条件の明示義務】に違反

・フィットネスクラブを営むJ社は、インストラクター業務を特定受託事業者に委託しているが、業務委託をした場合に直ちに明示が必要な事項のうち、役務の提供を受ける期日及び場所を明示していなかった。 また、 報酬の支払期日を「翌月末日まで」と記載しており具体的な期日を特定しておらず、かつ、特定受託事業者からの請求書の提出が遅れた場合に報酬の支払が遅れる旨の定めをしており、給付を受領した日から60日以内に報酬を支払わない場合、期日までの報酬支払義務違反となるおそれがあった。

【取引条件の明示義務】に違反
【期日における報酬支払義務】に違反(する恐れ)

・フィットネスクラブを営むK社は、SNSの動画等の投稿業務を特定受託事業者に委託しているが、報酬の支払期日を「請求書受領月の翌月末日」と設定しており、 給付を受領した日から60日以内に報酬を支払わない場合、期日までの報酬支払義務違反となるおそれがあった。

【期日における報酬支払義務】に違反(する恐れ)

解説

指導対象事項のおさらい

今回の公正取引委員会による指導の内容を見ると、業務委託をする場合に業務委託事業者が守らなければならないことの中でも、特に、【取引条件の明示義務】(フリーランス保護法3条)や【期日における報酬支払義務】(フリーランス保護法4条)に違反(または違反する恐れ)があることが指摘されています。

取引条件の明示義務とは

フリーランス保護法3条1項では、業務委託事業者は、特定受託事業者に対して業務委託をした場合には、原則として、特定受託事業者の給付の内容、報酬の額、支払期日その他の事項を書面又は電磁的方法により明示しなければならないとされています。
取引条件の内容を定められないことについて正当な理由がある場合には、明示を要しないとされていますが、その場合でも、取引条件の内容が定まった後は直ちにこれを明示することが必要です(フリーランス保護法3条1項ただし書)。

期日における報酬支払義務とは

フリーランス保護法4条1項、2項、5項では、特定業務委託事業者が、特定受託事業者に対して業務委託をした場合には、給付の内容の検査の有無にかかわらず、特定業務委託事業者が特定受託事業者の給付を受領した日から60日以内で、できる限り短い期間内に報酬の支払期日を定め、その報酬を支払わなければならないとされています。
なお、再委託の場合には、発注元から支払いを受ける期日から30日以内とされています(フリーランス保護法4条3項)。

今後に向けて

公正取引委員会によれば、「今後もフリーランス・事業者間取引適正化等法に違反する疑いのある行為を行っている事業者やその業種について、積極的に情報収集を行い、違反があった場合には、迅速かつ適切に対処する。」としています。

また、先ほども述べたとおり、公正取引委員会では、小企業庁・厚労省と共同してフリーランス・事業者間取引適正化等法に違反する行為を受けたフリーランスからの申出を受け付けるためのオンライン相談窓口を設置しているところ、「引き続き、フリーランスからの積極的な申出を促すために、申出窓口の周知広報を行っていく」としています。

今回の指導対象事例を踏まえて、改めてフリーランス保護法の内容を確認するとともに、業務委託契約書の内容を確認し、必要な修正等を行うことが重要です。

弁護士法人ASKにご相談ください

フリーランスの方との間の業務委託契約書については、フリーランス保護法の施行前から使用しているフォーマットをそのまま利用していると、同法に対応できていないままとなってしまうことがあります。

また、近年では、実態は労働者(従業員)と同じ働き方をしているにもかかわらず、見せかけだけフリーランス(業務委託)の外形を整え、労働関係法令の潜脱を図ろうとする「偽装フリーランス」も問題となっています。

このようにフリーランスと事業者間の取引にはさまざまな注意点があります。
業務委託契約についてお悩みがある場合には、弁護士法人ASKにご相談ください。

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