依頼者に対する報告を忘れずに【弁護士の報告義務】【東京地裁令和5年5月10日判決】
弁護士に訴訟など紛争の依頼をした場合、何度も弁護士から連絡が届いて鬱陶しいと思うこともあるかもしれません。
しかし、弁護士には依頼者に対して、十分に説明をしたり報告をしたりする義務を負っています。
仮に弁護士がこの義務に違反してしまうと、損害賠償義務を負うことになるほか、懲戒請求を受けることになる可能性もあるのです。
むしろ連絡がきちんと届く弁護士の方が安心で信頼がおけると言えるかもしれません。
さて、今回は、依頼者に対する判決結果などの報告を怠ったとして、依頼者が弁護士と弁護士法人に対して損害賠償を求めた事案をご紹介します。

裁判例のご紹介・東京地裁令和5年5月10日判決
どんな事案?
委任契約の締結
Xさんは、別件民事訴訟において被告となりました。
そこで、Xさんは、同訴訟の遂行にあたり、Y2弁護士が代表社員を務める弁護士法人Y1との間で委任契約(法人受任)を締結し、Y2弁護士を訴訟代理人として選任しました。
尋問期日と不出頭
実際の別件民事訴訟の訴訟追行を担当したのはA弁護士でした。
Xさんは、同訴訟の人証調べの段階において、A弁護士を通じてX本人尋問を申請し、これが採用されました。
ところが、Xさんは、この尋問を実施するために指定された口頭弁論期日に出頭せず、後に尋問の採用は取り消されました。
Xさんの敗訴判決
そして、Xさんが敗訴する内容の判決が言い渡されましたが、Xさんは控訴しませんでした。
訴え提起
その後、Xさんは、訴訟代理人であったY2弁護士が、依頼者であるXさんに対して訴訟の経過や判決の言渡しの事実を報告する義務を負っていたにもかかわらず、これを怠ったと主張し、Y2弁護士及び弁護士法人Y1に対して、損害賠償を求める訴えを提起しました。

争点
Xさんの主張
本件の訴えにおいて、Xさんは、
・Y2弁護士が、Xさんの訴訟代理人として、Xさんの権利が侵害されないよう注意して訴訟を遂行し、訴訟の結果を報告し、Xさん敗訴の判決が確定した後は強制執行を受けることを避ける等の善後策を検討すべき義務を負っていたにもかかわらず、Xさん本人尋問の申請等の訴訟の経過を報告しなかった上、実質的にXさんが敗訴する旨の判決の言渡しがあったことや同判決が確定したことについてもXさんに報告することなく、同判決確定後も何ら善後策の検討をせず、上記義務を怠ったこと
・Y2弁護士が、弁護士法人Y1の代表者として、同法人に所属していたA 弁護士が、訴訟代理人として負う義務を怠らないよう指揮又は監督すべき義務を負っていたにもかかわらず、同義務を怠ったこと
から、Y2弁護士には不法行為が成立する、などと主張していました。
問題になったこと
そこで、本件では、主に“Y2弁護士について不法行為が成立するかどうか?”が主な問題となりました。
裁判所の判断
裁判所は、Y2弁護士は、訴訟代理人としてXさんの本人尋問期日や判決の存在とその内容について報告する義務があったにもかかわらず、これを怠ったとして、Y2弁護士について不法行為責任が成立する、と判断しました。
なお、裁判所は、弁護士法人 Y1については、債務不履行責任及び弁護士法30条の30第1項が準用する会社法600条に基づく責任を認めています。
本判決のポイント
なぜ裁判所はこのような判断をしたのでしょうか。
以下、本判決の要旨をご紹介します。
Y2弁護士は尋問期日の報告(訴訟経過報告)を怠った
まず、裁判所は、別件民事訴訟(前訴)について、Y2弁護士がXさんに対する尋問期日の報告義務があったにもかかわらず、これを怠ったと判断しました。
「(…)前訴の経過につき、後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば、(…)A弁護士は、上記陳述書や証拠申出書を提出した平成27年2月27日頃までは、頻度は多いとはいえないものの、Xさんに対し、前訴Xさんからの和解金の提案があったことなどの訴訟経過を随時連絡し、また、陳述書作成等の立証についても協議していたものということができる。
他方、(…)Xさんは、同年7月24日の尋問期日に出頭せず、同不出頭を受けて再度の機会として設けられた同年10月1日の尋問期日にも出頭しなかった。本件証拠上、この間、A弁護士、Y2弁護士及び弁護士法人Y1のいずれにおいても、Xさんに対して同年7月24日の尋問期日を知らせる手段をとったことを客観的に裏付けるものはなく、また、上記不出頭を受けて設けられた同年10月1日の尋問期日につき、Xさんの日程の確認や出頭の促しなどXさん本人尋問の実現に向けて働きかけたこともうかがわれない。そうすると、本件証拠上、Y2弁護士らにおいて、Xさんに対し、上記各尋問期日を知らせたことは認め難い。
上記各尋問期日は、明らかにXさんの立証にとって重要な事項であり、訴訟代理人は、これをXさんに報告すべき義務を負う。(…)前訴の訴訟遂行には主にA弁護士が単独で携わっていたものといえるが、上記のとおり、被告Yも、Xさんにより前訴の訴訟代理人として選任された以上、上記義務を負うものというべきである。
したがって、Y2弁護士は、前訴の訴訟代理人として負う上記義務を怠ったといわざるを得ない(…)。」
Y2弁護士は判決の報告を怠った
次に、裁判所は、別件民事訴訟(前訴)について、Y2弁護士がXさんに対する判決言渡しに関する報告義務があったにもかかわらず、これを怠ったと判断しました。
「Y2弁護士は、Xさんによって前訴の訴訟代理人に選任されており(…)、委任事項には控訴の申立ての代理権も含まれること(…)、控訴期間経過により前訴判決が確定すれば前訴判決に対する不服申立てが原則として不可能となることを併せ鑑みれば、Y2弁護士は、遅くとも前訴判決の控訴期間満了日である平成27年12月4日までに、Xさんに対して前訴判決の言渡しを報告する法的義務を負っていたというべきである。
(…)訴訟経過及び前訴判決の内容に鑑みると、Xさんにおいて前訴判決の内容を認識していれば、前訴判決に対する控訴を提起しないことは考え難い(…)。
加えて、本件証拠上、Y2弁護士、A弁護士及び弁護士法人Y1のいずれにおいても、Xさんに対して前訴判決の言渡しにつき報告した客観的形跡はうかがわれない。
以上に鑑みると、Y2弁護士、A弁護士及び弁護士法人Y1のいずれにおいても、Xさんに対して前訴判決の存在及び内容を報告しなかったものと推認される。」
Y2弁護士について不法行為が成立する
したがって、裁判所は、「Y2弁護士は、Xさんに対してXさん本人尋問の期日及び前訴判決の言渡しの事実を報告する義務を怠ったと認められるから、同義務違反に係る不法行為が成立する。」と判断しました。
弁護士にもご相談ください
訴訟経過や判決の存在、その内容について依頼者に対して報告することは基本的なことです。ただ、その頻度は厳密に定められているわけではないので、個々の弁護士によって様々です。
依頼した弁護士から報告をしてもらえない場合には、直接尋ねてみることも一つです。
また、不安を感じたときには、別の弁護士事務所に対してセカンドオピニオンを求めてみることも考えられます。
弁護士のセカンドオピニオンをご検討されている場合には弁護士法人ASKにご相談ください。