Youtube動画が削除された!損害賠償請求はできる?【判例解説】
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昨年(2024年)10月に発表された報告によると、18歳以上のYoutubeの月間視聴者数は、同年5月時点で7370万人を超えたそうです(日本経済新聞:「YouTube国内月間視聴者7370万人 猫ミーム16億回再生」参照)。
また、近年では、ショート動画も増加し、短い動画をきっかけとして、より長い動画を視聴するという傾向もあるようです。
さて、今回はそんなYoutube動画をめぐり、投稿された動画の著作者において、当該動画によって思想や意見等を伝達する利益が、人格的利益として認められるかどうか?が問題になった裁判例をご紹介します。

裁判例のご紹介・東京地裁令和6年2月26日判決
どんな事案?
本件は、Xさんは、Y社による申告によってYoutube動画を削除されてしまったXさんが、この申告が不正競争防止法2条1項21号にいう虚偽告知行為を構成するとともに、Xさんの人格的利益を侵害すると主張して、Y 社に対して損害賠償金の支払いなどを求めた事案です。
何が起きた?
当事者
Xさんは、将棋のAI解説動画などを投稿するYoutuberです。
他方、Y社は、YoutubeやCSで囲碁や将棋を中心とするコンテンツを配信する株式会社です。
Xさんによる動画
Xさんは、Youtube上で公開されていた本件各動画の著作権を保有していました。
Y社による申告と動画の削除
Y社は、Youtubeに対して、本件各動画が著作権を侵害している旨の申告を行いました。
この申告に基づき、本件各動画は、Youtubeから削除されました。
訴えの提起
これに対して、Xさんは、Y社による申告は不正競争防止法2条1項21号にいう虚偽告知行為を構成するとともに、Xさんの人格的利益を侵害すると主張して、不正競争防止法4条及び民法709条に基づき、Y社に対して損害賠償などの支払いを求める訴えを提起しました。

争われたこと
Xさんは、Y社による申告は、Xさんの人格的利益を侵害すると主張していました。
そこで、本件では、Xさんが侵害されたと主張する利益が人格的利益として認められるかどうか?が問題になりました。
裁判所の判断
裁判所は、Xさんが侵害されたと主張する利益は人格的利益として認められない、と判断しました。
判決のポイント
では、裁判所はなぜこのような判断をしたのでしょうか?
Xさんの主張は請求を特定を欠く
まず、裁判所は、人格的利益は明文上の根拠がない権利の総称であり、単に人格的利益の侵害を主張するだけでは、請求の特定を欠くところ、Xさんは具体的な人格的利益の内容について主張していないことから、主張そのものが失当であると判断しました。
「(…)そこで検討するに、人格権ないし人格的利益とは、明文上の根拠を有するものではなく、生命又は身体的価値を保護する人格権、名誉権、プライバシー権、肖像権、名誉感情、自己決定権、平穏生活権、リプロダクティブ権、パブリシティ権その他憲法13条の法意に照らし判例法理上認められるに至った各種の権利利益を総称するものであるから、人格的利益の侵害を主張するのみでは、特定の被侵害利益に基づく請求を特定するものとはいえない。しかしながら、Xさんは、裁判所の重ねての釈明にもかかわらず、単なる総称としての人格的利益をいうにとどまることからすると、Xさんの主張は、請求の特定を欠くものとして失当というほかない。」
平成17年判例の射程も及ばない
次に、裁判所は、仮にXさんの主張する人格的利益が、平成17年に出された最高裁判例(最高裁平成16年(受)第930号同17年7月14日第一小法廷判決・民集59巻6号1569頁)で示された著作者の人格的利益と同趣旨のものであるとしても、同判例は、「著作者の思想の自由、表現の自由が憲法により保障された基本的人権であることに鑑み、公立図書館において閲覧に供された図書の著作者の思想、意見等伝達の利益を法的な利益として肯定するもの」であり、私企業であるYoutubeを通じて動画を投稿し、思想や意見などを伝達する利益について、同判例の射程は及ばないと判断しました。
平成17年判例とは、公立図書館の職員である公務員が、閲覧に供されている図書を廃棄してしまったことについて、著作者又は著作物に対する独断的な評価や個人的な好みによって、不公正な取扱いをすることは、当該図書の著作者の人格的利益を侵害するものとして国家賠償法上違法になると判断された事案です(裁判所HP参照)。
「(…)仮に、Xさん主張に係る人格的利益が、上記判例を引用する限度で特定されているものと善解したとしても、平成17年判決は、著作者の思想の自由、表現の自由が憲法により保障された基本的人権であることに鑑み、公立図書館において閲覧に供された図書の著作者の思想、意見等伝達の利益を法的な利益として肯定するものであり、その射程は、公立図書館の職員がその基本的義務に違反して独断的評価や個人的好みに基づく不公平な取扱によって蔵書を廃棄した場合に限定されるものである。そうすると、私立図書館その他の私企業における場合は、明らかにその射程外というべきものであるから、平成17年判決は、私企業であるYouTubeにおける投稿動画に係る伝達の利益が問題とされている本件には、適切なものといえない(…)。」
人格的利益を主張するときは具体的に特定が必要です
Xさんは、Yさんによる申告によってYouTubeに投稿した動画が削除されてしまったことから、人格的利益を侵害されたと主張して、損害賠償を求めていました。
もっとも、裁判所は、人格的利益とは、明文上の根拠を有するものではなく、判例法上認められるに至った各種の権利利益の総称であることから、人格的利益の侵害を主張するだけでは足りない、としてXさんの主張を排斥しています。
すなわち、人格的利益の侵害を主張する場合には、主張する側において、具体的な被侵害利益をとこれに対応する権利利益を特定する必要があることに注意が必要です。
弁護士にご相談ください
近年、Youtubeなどをはじめとして動画コンテンツを投稿し、自分の考えや思想などを公開する人が増えています。
これに伴って、著作権の侵害などの問題も増加傾向にあります。
特に自身が著作権を侵害されてしまった場合には、適時かつ適切に措置を講じる必要があります。また、損害を被ったときには、相手に対して損害賠償を求めることも考えられるでしょう。
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