労働問題

【判例解説】コンビニFC加盟者は労組法上の「労働者」に当たるのか【セブンイレブンジャパン事件】

日本最初のコンビニは、1969年に大阪府に開店した「マミー」だそうです。それから50年以上経った今では、飲食料品だけでなく、日用雑貨やATM、マルチメディア端末なども設置されており、社会・生活インフラとしての役割がますます拡大し、私たちの日常とは切っても切り離せない存在に。

他方で深刻なのが、やはり人手不足。2018年に経済産業省がコンビニの加盟店オーナーに対して実施した調査によれば、従業員不足であると回答したオーナーは、全体の約61%にも及んでおり、コンビニの利便性の向上に伴う業務の複雑化などに対し、従業員が減少しているという理由が挙げられています。近年では、セルフレジの導入なども行われているものの、人手不足の解消とまではいかず、オーナー自らが長時間労働を余儀なくされているケースも多いと言います。

また、コンビニチェーンは基本的に全国どこの店舗でもほぼ同じサービスを受けられるというメリットの反面、フランチャイザーの拘束が強く加盟店の裁量は極めて限られているとも思われます。

さて、そんなコンビニをめぐり、フランチャイズ・チェーンの加盟者が「私たちもフランチャイザーとの関係では労働者と同じではないか」と労働組合を結成し、労働組合法にいう「労働者」としての権利が認められるべきと声を上げた事件がありました。

セブンイレブンジャパン事件(東京高裁判決令和4.12.21)

事案の概要

 A組合は、コンビニエンスストアのフランチャイズ・チェーンを運営するB社Uとの間で加盟店基本契約を締結して店舗を経営する加盟者らによって結成された団体です。

A組合は、B社に対して3回の団体交渉申入れをしました。ところが、B社は、A組合の組合員である加盟者は独立した事業主であり、B社と労使関係にはないと認識しているなどとして、A組合の各申入れに応じませんでした(本件団交拒否)。

A組合は、この団交拒否が不当労働行為に当たるとして、労働委員会に救済の申入れを行い、同労働委員会は救済命令を発しましたが、B社がこれを不服として再審査を申し立てると、中央労働委員会は、同救済命令を取り消し、救済申立てを棄却する命令を発しました(本件命令)。

そこで、A組合は、本件命令の取消を求めて訴えを提起したという事案です。

争点

本件の争点は、本件団交拒否が労働組合法(労組法)7条2号所定の不当労働行為に当たるか否かですが、その前提として、A組合の組合員が労働組合法上の労働者に該当するか否かが問題となりました。

労働組合法7条
 使用者は、次の各号に掲げる行為をしてはならない。
二 使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由がなくて拒むこと。

本判決の要旨

判断枠組み

➤労働者とは

労組法の趣旨や目的、同法3条の文言に照らせば、労組法の適用を受ける労働者は、労働契約によって労務を供給する者に加え、その他の契約によって労務を供給して収入を得る者で、使用者との交渉上の対等性を確保するために労組法の保護を及ぼすことが必要かつ適切と認められる者をも含むと解するのが相当である。

➤考慮要素

 加盟者が労組法上の労働者に該当するか否かを判断するに当たっては、

①加盟者が相手方の事業遂行に不可欠ないし枢要な労働力として組織に組み入れられているか

②契約の締結の態様から、加盟者の労働条件や労務の内容を相手方が一方的・定型的に決定しているか

③加盟者の報酬が労務供給に対する対価又はそれに類するものとしての性格を有するか

④加盟者が、相手方からの個々の業務の依頼に対して、基本的に応ずべき関係があるか

⑤加盟者が、一定の時間的、場所的拘束を受け、会社の指揮命令の下において労務を提供していたか

⑥加盟者が独立した事業者としての実態を備えているか

といった事情を総合的に考慮して、使用者との交渉上の対等性を確保するために労組法の保護を及ぼすことが必要かつ適切と認められるかという観点から判断するのが相当である。

①事業組織への組入れ、④業務の依頼に応ずべき関係について

B社と加盟者はフランチャイズ関係においては、ともに独立した事業者であり、加盟店の経営は、加盟者の独自の責任と手腕により行われ、その判断で必要な従業員を雇用する等、使用主として全ての権利を有し、義務を負う旨などが規定されているから、本件フランチャイズ契約上、加盟者は独立した事業者として位置付けられており、B社の事業の遂行に不可欠な労働力としてB社の事業組織に組み入れられていないことは明らかである。

また、実態としても、加盟者は、B社と独立した立場で、従業員の採否・労働条件等を決定し、他人労働力を使用するとともに、商品の販売・サービスの提供について独立の事業者と評価するに相応しい裁量を有し、店舗の立地・契約種別・共同フランチャイジー・複数出店の選択についても自ら判断・決定している。

さらに、加盟者は、自身が担当する店舗運営業務の内容や程度についても、加盟者自身の判断により決定している。

したがって、加盟者は、B社から個別具体的な労務の提供を依頼され、事実上これに応じなければならないという関係に立つものでもなく、会社の事業の遂行に不可欠な労働力として組織に組み入れられていると認めることもできない。

③報酬の労務対価性について

加盟者は、オープンアカウントを通じてB社から月次引出金等の支払を受けるが、これは、加盟者が加盟店における商品の販売やサービスの提供の対価として顧客から得た収益を獲得しているものであって、加盟者が本件フランチャイズ契約上の何らかの義務の履行をしたことに対する報酬であると評価することはできない。

したがって、報酬の労務対価性を認めることはできない。

②契約内容の一方的・定型的決定について

 本件フランチャイズ契約は、B社が統一的な内容を定型化したものであり、加盟希望者がその内容を決定することはできず、B社との個別交渉や加盟者の個別事情等により契約内容が変更されることもないから、一方的・定型的に定められたものということができる。

 しかし、本件フランチャイズ契約は、加盟店の事業活動について規定したものであり、その経営の在り方に一定の制約を課すものということはできるものの、加盟者が、加盟店の経営を、自己の労働力と他人の労働力のそれぞれを、どのような割合で、どのような態様で供給することによって行うかや、加盟者自身の具体的な労務提供の内容については、加盟者の判断に委ねられている。

 したがって、本件フランチャイズ契約において、加盟者の労務提供の在り方が一方的・定型的に定められているものと評価することはできない。

⑤時間的場所的拘束、指揮命令関係について

➤時間的拘束

 加盟者は、営業日・営業時間の選択という点において、加盟店の事業活動に一定の制約を受けているということができる。

 しかし、かかる制約は、加盟店の事業活動に関するものであって、加盟者が、自身が担当する店舗運営業務の内容や程度について、自身の判断により決定している以上、加盟店の営業日・営業時間に制約があるからといって、加盟者の労務提供が時間的に拘束されているとはいえない。

➤場所的拘束

 加盟者は、加盟店の立地を自ら選択しているから、加盟者が何らかの場所的拘束を受けていると評価することはできない。

➤指揮命令関係

 加盟者は、自身が担当する店舗運営業務の内容や程度について、加盟者自身の判断により決定しているのであって、B社の指揮命令を受けて労務提供をしているものではない。

結論

B社との交渉上の対等性を確保するために労組法の保護を及ぼすことが必要かつ適切と認められるかという観点からみて、B社との本件フランチャイズ契約を締結する加盟者は、労組法上の「労働者」に該当しないと判断されました。

解説

フランチャイズ加盟店が「労働者」にあたるということ自体がピンとこないかも知れません。実は労働基準法上の「労働者」と労働組合法上の「労働者」は少し定義が異なっていて、この件は、加盟店が「労働組合法上の労働者」であると主張していることがポイントです。

労働基準法上の労働者   「使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる者」(労働基準法2条1項)
労働組合法上の労働者 「職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によって生活する者」(労働組合法3条)

本件では、コンビニエンスストアのフランチャイズ・チェーンを運営するB社との間で加盟店基本契約を締結して店舗を経営する加盟者が、労働組合法上の労働者に該当するか否かが争われました。

これまで、フランチャイザーとフランチャイズ契約を締結して、コンビニエンスストアを経営する加盟者の労組法上の労働者性をめぐり、労働委員会命令のレベルでは判断が示されており、都道府県労働委員会と中央労働委員会で結論が分かれていました。

本件は、中央労働委員会の命令に対して取消訴訟が提起された初めての例であり、世間の注目を集めていました。

本判決は、A組合に加入している組合員としての加盟者の労組法上の労働者性を個別的に判断するのではなく、B社との間でフランチャイズ契約を締結した加盟者一般についての労組法上の労働者性を判断し、その上でA組合に加入している組合員についても当てはまるかを検討するという判断手法を用いて、結論としてA組合の組合員(加盟者)は労組法上の労働者に当たらないと判断しています。

A組合は、本判決を不服として最高裁判所に上告申立てをしていましたが、令和5年7月12日、最高裁は上告不受理決定をしたため、本判決は確定しています。

なお、その後、同種の事案として「ファミリーマート事件」の判決が出ています。セブンイレブンジャパン事件とはやや異なる枠組みで判断していますので、ご確認ください。

セブンイレブンジャパン判決は、今後もコンビニオーナーのみならずフランチャイズ契約における加盟店の労組法上の労働者性に関して判断する上で参考になる判決といえます。フランチャイズ契約次第で別の結論になることもありえますので、まずは弁護士にご相談を。