法律コラム

情報提供サービスの利用には注意を【契約終了後の利用は多額の賠償金の危険も】【弁護士が解説】

いまや多くの人がパソコンやスマホから情報を収集するのが当たり前の時代。
ネットの普及に伴って、多種多様な「情報提供サービス」が生まれています。

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特に会社の運営においては、これから取引をしようと考えている企業の信用情報や状況の把握、マーケティング調査などの観点から情報提供サービスを利用することが多々あるのではないでしょうか。

しかし、情報提供を受けるためには、提供をしてくれる会社との間で契約を結ぶ必要があります。とりあえず情報が入手したいから、といって契約書の内容も読まずに「はい、OK」とハンコを押してしまうと、後で大変なことになるかもしれません。

今回はそんな情報提供サービスの利用と情報の消去をめぐる裁判例をご紹介します。

裁判例のご紹介(情報消去等請求事件・東京地判令和6年9月2日判決)

事案の概要

本件は、Y社との間で企業情報の提供サービスに関する基本契約を締結していたX社が、Y社に対して、契約の終了に基づく情報の利用中止・消去等を求めるとともに、Y社契約終了後もX社が提供したサービスを利用しているとして、契約上の債務不履行に基づく約定の損害金の支払いを求めた事案です。

経過

X社とY社の関係

X社は、企業の信用調査、情報の提供等の事業を営む株式会社でした。
他方、Y社は、X社から提供される情報を利用しながら、Y社と契約した会員に独自の格付けを含む情報を提供するなどの事業を営んできた株式会社でした。

Y社は、平成12年に設立されてから、X社との間で、業務提携契約及び情報関連サービスに係る基本契約等の締結を繰り返していました。

本件基本契約の締結

X社は、Y社との間で、令和2年4月1日、従前の契約に代わるものとして、業務提携契約を締結するとともに、同日付け「企業情報の取扱いに関する基本契約書」と題する契約書により、情報関連サービスに係る基本契約を締結しました。

個別契約の締結と情報の提供

その上で、X社は、Y社との間で、本件基本契約に付随又は関連して個別契約を締結し、情報関連サービスを提供していました。
そして、X社から情報提供等を受けたY社は、これをさらにY社と契約した会員に対して提供していました。

契約の終了

令和3年3月、X社は、Y社に対し、本件基本契約について、延長後の期間満了の日である令和4年3月31日をもって終了させる旨通知しました。
これにより、本件基本契約及び個別契約は、同日をもって終了しました。

情報提供サービスの料金

令和3年4月1日から令和4年3月31日までの間の本件各契約によるX社の情報関連サービスの料金の総額は、少なくとも2億7932万6293円でした。

Y社の対応

しかし、Y社は、少なくとも、令和4年2月に退会した会員以外の会員に対しては、会員の保有するX社の提供情報等について、消去等の要請をしていませんでした。

訴えの提起

そこで、X社は、Y社に対して、契約の終了に基づく情報の利用中止・消去等を求めるとともに、Y社が契約終了後もX社が提供したサービスを利用していると主張して、契約上の債務不履行に基づく約定の損害金の支払いを求める訴えを提起しました。

争われたこと

X社の請求に対して、Y社は全面的にこれを争っていたことから、問題となったこと(争点)は多岐にわたりました。

中でも、

  • ①Y社には、Y社が会員に提供した情報等についての利用中止等の義務があるかどうか?
  • ②本件個別契約終了後に、Y社が、X社提供情報の利用等をしていたといえるかどうか?

が特に問題となりました。

今回の解説は、①、②の点に着目して解説します。

X社とY社のそれぞれの主張

X社とY社は、①、②の点について、それぞれ以下のように主張していました。

①Y社には、Y社が会員に提供した情報等についての利用中止等の義務があるかどうか?

≪X社の主張≫

本件基本契約の本件利用中止等条項(5項)の文理上明らかなように、Y社は、会員に提供した情報等についても、利用中止及び消去等をすべき義務を負う。

≪Y社の主張≫

X社の主張は争う。

②本件個別契約終了後に、Y社が、X社提供情報の利用等をしていたといえるかどうか?

≪X社の主張≫

Y社は、本件個別契約の終了後も、会員に提供したX社提供情報等について、本件利用中止等条項による利用中止及び消去等の義務を履行していないし、自ら保有していたX社提供情報等及び委託先に取り扱わせていたX社提供情報等についても、上記義務を履行していない。

≪Y社の主張≫

Y社は、本件個別契約の終了後、X社提供情報等を利用しておらず、自ら保有していたもの及び委託先に取り扱わせていたものは消去したので、X社の主張は認められない。

裁判所の判断

①Y社には、Y社が会員に提供した情報等についての利用中止等の義務があるかどうか?

まず、裁判所は、①Y社には、Y社が会員に提供した情報等についての利用中止等の義務があるかどうか?について、本件基本契約の本件利用中止等条項に基づいて、Y社が契約終了後にX社情報の利用周知等をすべき義務があると判断しました。

「本件利用中止等条項は、個別契約が終了した場合にY社が利用中止及び消去等をすべき情報等について、会員に利用許諾したものを含む旨を定めているから、Y社は、本件利用中止等条項により、個別契約が終了した場合は、会員に提供した情報等についても、利用中止及び消去等をすべき義務を負うものと解するのが相当である。」

②本件個別契約終了後に、Y社が、X社提供情報の利用等をしていたといえるかどうか?

また、裁判所は、②本件個別契約終了後に、Y社が、X社提供情報の利用等をしていたといえるかどうか?について、Y社が、X社提供情報を利用して事業を営んでおり、本件基本契約において、X社から提供される情報をY社の会員に提供することが利用目的となっていたことからすれば、X社提供情報をY社の会員に提供・保有させることは、Y社による「情報等の利用の重要な部分」に当たるとし、会員に対して情報の消去等の要請をしていないY社は、なおX社提供情報の利用等をしていたといえると判断しました。

「Y社は、本件利用中止等条項により、個別契約が終了した場合は、会員に提供した情報等についても、利用中止及び消去等の義務を負うものとされているし、(…)Y社は、X社から提供される情報を利用しながら、会員に独自の格付けを含む情報を提供するなどの事業を営み、本件基本契約においても、X社から提供される情報を会員に提供する目的で利用することができるものとされていたのであるから、X社から提供された情報等を会員に提供し、保有させることは、Y社による情報等の利用の重要な部分に当たるものというべきである。そして、(…)Y社は、少なくとも、令和4年2月に退会した会員以外の会員に対しては、会員の保有するX社提供情報等について、消去等の要請をしていないのであるから、少なくとも、会員の保有するX社提供情報等について、会員に消去等の要請をせず、引き続き保有させることにより、消去等をしないだけでなく、利用しているものと認めるのが相当である。」

結論

よって、裁判所は、Y社がX社に対して、令和4年4月1日から令和6年6月17日までの間、Y社がX社提供情報等を利用したことによりX社に生じた損害金を支払う義務があると判断しました。

ポイント

事案のおさらい

今回ご紹介した事案は、Y社との間で企業情報の提供サービスに関する基本契約を締結していたX社が、Y社に対して、契約の終了に基づく情報の利用中止・消去等を求めるとともに、Y社契約終了後もX社が提供したサービスを利用しているとして、契約上の債務不履行に基づく約定の損害金の支払いを求めた事案でした。

問題になっていたこと

X社とY社との間で締結されていた基本契約では、契約が終了した場合に情報等の利用を直ちに中止して消去などをすること(利用中止等条項)やY社が契約終了後も情報等を利用した場合には損害金を支払うべきこと(損害金条項)が定められていました。

そこで、本件では、

  • ①Y社には、Y社が会員に提供した情報等についての利用中止等の義務があるかどうか?
  • ②本件個別契約終了後に、Y社が、X社提供情報の利用等をしていたといえるかどうか?

が特に問題となっていました。

本判決のポイント

本判決において、Y社は、①、②いずれの点についてもX社の主張を争っていました。
しかし、裁判所は、本件利用中止等条項や本件損害金条項を含むX社・Y社間の本件基本契約の定めに着目し、①、②いずれの点についても認め、Y社に対して損害金の支払いを命じています。

このように、契約上の債務不履行に基づく損害賠償責任や契約から派生する当事者の義務については、契約に記載された内容が解釈の大前提となります。
したがって、契約を締結する場合には、基本契約・個別契約の内容を隅々までチェックし、自社にリスクがある点がないか、気を付けるべき点はないかを注意することが非常に重要です。

契約に関して注意したいポイントはこちらの記事をご覧ください

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