労働問題

【判例解説】営業成績を理由とした解雇は許されるか

令和元年末から始まった新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行により、我が国初の緊急事態宣言が発令されるなど、私たちの生活は大きな制限を余儀なくされました。

飲食店をはじめとする多くの企業が経営難に苦しめられた時期でもあります。

ようやく海外からの旅行客も戻りつつあり、コロナ禍からの脱却に向けた希望の光が見えてきてはいますが、ポストコロナの世界・日本経済の展望は明るいとはいえません。

そんなコロナ禍における成績不良を理由に営業職の従業員を解雇することが許されるかが争われた事件がありました。

デンタルシステムズ事件・大阪地裁令4.1. 28判決

事案の概要

Aさん(原告)は、令和元年12月27日にソフトウェア製品の開発・販売などを手掛けるB社(被告)と雇用契約を締結しました。

そして、令和2年2月1日、Aさんは、歯科医院で使用するレセプト作成補助用ソフトフェアの販売に関する営業職として勤務を開始しました。

Aさんは、上司と連絡を取り合いながら、営業活動を続けていたものの、令和2年6月は、上司から指示されていた2件の新規契約の受注というノルマが達成できませんでした。

しかし、Aさんは、上司からの「7月は最低5本(2+3)の受注を狙いましょう!」という言葉を受けて、令和2年7月中には累積3件の受注を獲得しました。

ところが、令和2年7月31日、B社はAさんに対して、「当社の上半期の業績が前年比50%減で1億6000万の赤字であり、貴殿に対し営業活動の指導を行ったにもかかわらず、行動の変化が見られなかったため当社就業規則第47条(解雇)第1項①に基づき2020年(令和2年)7月31日をもって解雇いたします。」と記載された解雇通知書を交付し、Aさんを解雇しました。

Aさんは、この解雇は無効であると主張し、B社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認と本件解雇後の賃金等の支払いを求める訴えを提起しました。

争点

本件の争点は、B社によるAさんの解雇の有効性です。

判決の要旨

Aさんが取り扱っていた商品は、歯科医院で使用するレセプト作成補助用のソフトウェアであり、その性質上、顧客側のニーズは限定的で、B社の営業担当職員が顧客に対して営業をかけても、容易く契約を受注することができるものではなかった。

また、令和2年4月10日から月年5月6日までの期間においては、新型コロナ感染症拡大の影響により、B社においても対面での商談が禁止されていたところであり、Aさんは、同時期において未だ試用期間中または試用期間が終了して間がなく、B社における業務の経験も少なくなかったから、同時期及びその直後頃においてAさんが的確な営業活動を行うことは困難であった。

そうだとすれば、たしかに、採用当初のAさんの営業成績は振るわないものであったとはいえ、本件解雇がされた令和2年7月末頃には、Aさんの勤務成績又は業務効率には改善の兆しが見え始めていたのであって、Aさんの勤務成績又は業務能率が著しく不良である状況が将来的にも継続する可能性が高かったものと証拠上認めることはできない。

また、仮に解雇事由が認められる余地があったとしても、Aさんを解雇せざるを得ないほどの事情があるものと証拠上認めることもできない。

したがって、本件解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められず、解雇権を濫用したものとして無効(労働契約法16条)であるため、Aさんの請求は認められると判断しました。

解説

深刻な人手不足の中では、会社に適正のある人財の獲得は、非常に難しい課題です。

面接の段階では、一定程度のキャリアやスキルがあると聞いて採用したつもりが、実際に勤務が開始してみると、当初期待していたような成績が上がってこないばかりか、面接で聞いていたようなスキルすら持っておらず、従業員に辞めてもらいたいということも多々あるようです。

本判決は、コロナ禍という特殊背景の下で起きた事件であり、少なくとも近い将来、パンデミックのような未曾有の事態が再び起こることはないとは思われますので、ある種の事例判決とはいえるかもしれません。

しかし、本判決は、新型コロナ感染症拡大の影響という事由以外にも、業務に関するAさんと上司のコミュニケーションの内容、上司のアドバイスに対するAさんの反応の様子などにも目を向け、Aさんの勤務態度等にも鑑みれば、Aさんの勤務成績又は業務能率について向上の見込みがなかったとはいえないとしています。

本判決の判断に照らして考えれば、会社が、従業員を「勤務成績又は業務能率が著しく不良で、向上の見込みが無く、他の職務にも転換できない等就業に適さないとき」に該当するとして、解雇する場合には、単に勤務成績だけではなく、上司を含む周囲とのコミュニケーションの状況、アドバイスを受けた際の対応といった勤務態度など、当該従業員に関する様々な事情を多角的に検討する必要があるといえるでしょう。

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