労働問題

技能実習生の実習計画手続を怠るとどうなる?【佐山鉄筋工業・海外事業サポート協同組合事件】

Recently updated on 2025-01-11

これまで、日本で培われた技術や技能、知識などを開発途上国等への移転を図り、開発途上国等の経済発展を担う「人づくり」に寄与することを趣旨として、外国人技能技術制度が実施されてきました。

もっとも、この技能実習制度には、さまざまな問題点が指摘されており、令和6年6月21日、この制度を改め、「育成就労制度」を創設することなどを内容とする改正法が成立しました。

本改正法(「出入国管理及び難民認定法及び外国人の技能実習の適正な実施及び技術実習生の保護に関する法律の一部を改正する法律」(令和6年法律第60号))は、一部規定を除いて、公布日から3年を超えない範囲で政令で定める日に施行されます。
概要については、こちらのページで解説していますので、ご参照ください。

さて、今回は、技能実習制度の下における技能実習生の実習計画手続を怠った場合、会社や管理団体が不法行為責任を負うのか?が争われた事案をご紹介します。

佐山鉄筋工業・海外事業サポート協同組合事件(大阪地裁令和5年9月28日判決)

事案の概要

本件は、ベトナム人技能実習生であるXさんが、Y1社との間で雇用契約を締結し、鉄筋工として稼働していたところ、Y1社が申請した技能実習計画について在留期間中に外国人技能実習機構による認定が受けられず、または適切な説明を受けられなかったことにより在留期間を更新することができず、これにより雇用契約を契約期間の中途で解除せざるを得ず、収入を失ったなどとして、Y1社らに対して、損害賠償等の支払いを求めた事案です。

事実の経過

当事者について

Xさんは、1998年〇月生まれのベトナム国籍の男性でした。
Y1社は、鉄筋工事業等を目的とする株式会社であり、また、Y2協同組合は、外国人技能実習制度における団体管理型技能実習の管理団体(外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律2条10項所定)となる非営利の法人でした。

XさんとY1社の雇用契約

XさんとY1社は、平成29年11月25日、期間を平成30年7月6日から令和3年6月7日、賃金を時給909円等と定めた雇用契約(本件雇用契約)を締結しました。
本件雇用契約には、Y1社を実習実施者、Xさんを技能実習生とし、Xさんが技能実習第1号ロの在留資格で入国し、技能等にかかる業務に従事する活動を開始する時点をもって効力を生じ、Xさんが何らかの事由で在留資格を喪失した時点で終了する旨の条項がありました。

在留資格に基づく在留期間

Xさんの上記の在留資格に基づく在留期間は、令和元年6月8日まででした。

Y1社は、令和元年6月5日、Xさんに対し、
・在留資格変更の手続きが止まっているため、在留期間満了日までにこれが間に合わず、いったんベトナムに帰国すること、
・在留資格変更の手続が終われば日本に入国するための航空券や必要書類を送ること、
・その間は60%の休業補償をすること
を記載した書面を日本語及びベトナム語で作成して、Xさんに対して提示しました。

Xさんの所在不明

Xさんは、令和元年6月7日以降、Y1社から貸与されていた寮を離れ、Y1社やY2協同組合と連絡が取れなくなりました。

在留特別許可

Xさんは、令和2年3月30日、名古屋出入国在留管理局長から、在留特別許可(出入国管理及び難民認定法50条3項)を受け、短期滞在の在留資格が認められました。
Xさんは、同年6月30日から、別の会社を実習実施者として、技能実習2号ロの在留資格で在留するようになり、同社において就労するようになりました。

訴えの提起

Xさんは、Y1社が申請した技能実習計画について在留期間中に外国人技能実習機構による認定が受けられず、または適切な説明を受けられなかったことにより在留期間を更新することができず、これにより雇用契約を契約期間の中途で解除せざるを得ず、収入を失ったなどとして、Y1社及びY2社に対して、損害賠償の支払いを求める訴えを提起しました。

争点

本件では、
①Y1社のXさんに対する不法行為責任を負うか?
②Y2協同組合のXさんに対する不法行為責任を負うか?
などが争点となりました。

本判決の要旨

争点①Y1社のXさんに対する不法行為責任を負うか?

Y1社がXさんの在留資格変更手続について負う注意義務
技能実習計画の作成と認定を受ける義務

まず、本判決は、「本件雇用契約の目的及び内容並びに技能実習制度の仕組みに照らせば、Y1社は、Xさんに対し、Xさんが技能実習1号ロによる在留期間満了までに技能実習2号ロへの在留資格の変更ができるよう、技能実習1号ロによる在留期間満了までに技能実習計画を作成して機構による認定を受けるべき義務を負っていたというべき」として、Y1社の技能実習計画の作成と認定を受ける義務の存在を認めました。

在留資格変更が在留期間満了までに行えなかった経緯

その上で、本判決は、Y1社は確かに技能実習計画を作成して申請していたものの、「これに対する認定を、Xさんの技能実習1号ロによる在留期間満了日である令和元年6月8日までに得ることができなかったのであり、その原因は、Y1社の労働基準法等の違反に対する是正を求める(…)是正勧告にあったものと認められるから(…)、上記義務を履行することができなかったものと言わざるを得ない」と判断しました。

Y1社の説明義務

さらに、本判決は、本件雇用契約の目的及び内容並びに技能実習制度の仕組みに照らせば、「適法に本邦に在留するために在留資格変更申請を行うのはXさんであるとしても、Y1社は、Xさんに対し、本件雇用契約の目的及び内容を実現するため、本邦に在留しながら技能実習2号ロの在留資格変更手続を行うために取り得る手段の有無を調査して、これをXさんに対して説明すべき義務を負っていたと認めるのが相当である」と判断しました。

本件の検討

そして、本件では、在留資格を短期滞在に変更する手続きを申請することができたのであり、Y1社はXさんに対し、「遅くとも令和元年6月8日までに、本件方法による在留資格変更手続を行うことができる旨を説明すべきであったのに、これを説明しなかったものであり」これは不法行為に当たることから、Y1社は、Xさんに対して、損害賠償義務を負うとしました。

争点②Y2協同組合のXさんに対する不法行為責任を負うか?

Y2協同組合がXさんの在留資格変更手続について負う注意義務

本判決は、「Xさんの技能実習2号ロへの在留資格変更にむけた関与状況等に照らせば、一般に監理団体がその相当する技能実習生に対して在留資格の取得及び変更の方法について調査・説明義務を負うか否かはともかく、本件においては、Y2協同組合も、Xさんに対し、本邦に在留しながら技能実習2号の在留しかく変更手続を行うために取り得る手段の有無を調査して、これをXさんに対して説明義務を負っていたというべきである」と判断しました。

本件の検討

そして、本判決は、「Y2協同組合も、Y1社と共に、Xさんに対し、遅くとも令和元年6月8日までに、本件方法による在留資格変更手続を行うことができる旨を説明すべきであったのにこれを説明しなかったといわざるを得ず」、これは不法行為に当たることから、Y2協同組合も、Xさんに対して、損害賠償義務を負うとしました。

結論

以上より、本判決は、Y1社及びY2協同組合は、Xさんに対して、上記説明義務違反に基づいてXさんに生じた損害を賠償する義務を負うと結論付けました。

ポイント

どんな事案だったか?

本件は、ベトナム人技能実習生であるXさんが、Y1社との間で雇用契約を締結し、鉄筋工として稼働していたところ、Y1社が申請した技能実習計画について在留期間中に外国人技能実習機構による認定が受けられず、または適切な説明を受けられなかったことにより在留期間を更新することができず、これにより雇用契約を契約期間の中途で解除せざるを得ず、収入を失ったなどとして、使用者であるY1社及び監理団体であるY2協同組合に対して、損害賠償等の支払いを求めた事案でした。

何が問題となったか?

本件では、Y1社とY2協同組合が、Xさんに対して不法行為責任を負うか否かが問題となりました。

判決のポイント

本判決は、使用者であるY1社及び監理組合であるY2協同組合が、技能実習生であるXさんに対して、日本に在留しながら技能実習2号ロの在留資格変更手続を行うために採り得る手段の有無を調査し、これをXさんに対して説明するべき義務があり、これを怠ったとして、共同不法行為責任を認めている点が大きなポイントです。

今後も同様に問題となり得る?

冒頭でも少し述べたように、令和6年6月14日に「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律」が改正され、技能実習制度にかえて、新しく育成就労制度が創設されました。
この法改正は、これまでの技能実習制度において、技能実習生の保護に欠ける面など多くの課題が指摘されていたことを踏まえて行われています。
したがって、本判決において認められた使用者や監理団体の在留資格等に関する説明義務は、新制度の下においても同様に問題になると考えられます。

弁護士にもご相談ください

育成就労制度については、これから具体的な要件が定まる部分も多く存在します。
現時点でのよくあるQ&Aについては、法務省がこちらに公開していますので、詳しく知りたい!という方は、「育成就労制度・特定技能制度Q&A | 出入国在留管理庁 – 法務省」を参照してみてください。

外国人労働者は多くの企業にとって欠かせない人財となっています。
これまで外国人労働者の受け入れを考えていなかったという経営者の方も、改めて本改正に伴う育成就労制度について目を向けてみてはいかがでしょうか。

外国人の雇用についてお悩みがある場合には、ぜひ弁護士にご相談ください。

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