カスタマーハラスメントとは?【カスハラ対策】【職場のハラスメント防止】
Recently updated on 2025-01-15
はじめに
会社はパワハラ防止措置を行う義務があります
労働者が経験している数々のハラスメントの中で最も多い類型として挙げられるのがパワハラです。
かかる背景から、政府は、職場におけるパワハラを防止し、職場環境の改善を図る観点から、労働施策総合促進法(労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律。通称「パワハラ防止法」)を改正し、事業主に対してパワハラ防止措置を講ずることを義務付けました。
パワハラ防止法について、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
カスハラは多くの従業員の悩みになっている
もっとも、実は労働者が悩みを抱えているのは、社内におけるパワハラだけではありません。
クライアントや取引先等から受けるハラスメント(いわゆるカスタマーハラスメント)についても、同様に非常に多くの労働者の方が経験し被害を受けています。
現に、令和6年3月に公表された「令和5年度 厚生労働省委託事業職場のハラスメントに関する実態調査報告書」によれば、「過去3 年間に各ハラスメントの相談があったと回答した企業の割合をみると、高い順にパワハラ(64.2%)、セクハラ(39.5%)、顧客等からの著しい迷惑行為(27.9%)、妊娠・出産・育児休業等ハラスメント(10.2%)、介護休業等ハラスメント(3.9%)、就活等セクハラ(0.7%)であった」とされており、カスハラも非常に高い割合を占めていることがわかります。
厚労省もカスハラの取り組みを呼びかけ
このような中で、厚労大臣は、パワハラ防止に関する指針(「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和2年厚生労働省告示第5号))において、事業者が、雇用する労働者の就業環境を守るために、カスハラ防止についても取り組みを行うことが望ましいと指摘しています。
カスハラについて学びましょう
さて、今回は、そんなカスタマーハラスメントについて、その具体的な内容や使用者が講ずべきカスハラ対策について解説します。
なお、本解説記事は、厚労省HPが公表しているカスハラ対策マニュアルやリーフレットなどを参照しています。
カスタマーハラスメントとは?
まず、カスタマーハラスメント(通称「カスハラ」)とは何かを確認しておきましょう。
カスハラとは
厚労省によれば、カスハラとは、「顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの」とされています。
ただし、カスハラについては、企業や業界によって、顧客や取引先などへの対応方法や基準は異なることが想定されるため、明確に定義をすることは難しいことは念頭においておく必要があります。
また、本来、顧客等からのクレームや苦情は、商品やサービス、接客態度、システムなどに対して不平・不満を訴えるものであり、それ自体は問題とはいえず、業務改善や新たな商品・サービス開発につながるものである点にも注意する必要があります。
①「顧客等」とは
カスハラの主体である「顧客等」とは、実際に商品やサービスを利用した人だけでなく、今後、利用する可能性のある潜在的な顧客も含まれるとされています。
②「当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なもの」とは
カスハラに当たる「当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なもの」とは、顧客等の要求の内容の妥当性の有無・程度を考慮した上で当該クレーム・言動の手段・態様が「社会通念上不相当」であるかどうかを判断すべきであるという趣旨であるとされています。
仮に、顧客等の要求の内容が妥当性を欠く場合には、その実現のための手段・態様がどのようなものであれ、社会通念上不相当とされる可能性が高くなると考えられています。
また、顧客等の要求の内容に妥当性がある場合であっても、その実現のための手段・態様の悪質性が高い場合には、社会通念上不相当とされることがあるとも考えられています。
③「労働者の就業環境が害される」とは
カスハラとなる「労働者の就業環境が害される」とは、人格や尊厳を侵害する言動により、労働者が、身体的・精神的に苦痛を与えられ、就業環境が不快なものとなったために能力の発揮に重大な悪影響が生じる等の当該労働者が就業上、看過できない程度の支障が生じることを意味しています。
具体的には
厚労省は、具体的な例として次のようなものを挙げています。
「顧客等の要求の内容が妥当性を欠く場合」の具体例
- 企業の提供する商品・サービスに瑕疵・過失が認められない場合
- 要求の内容が、企業の提供する商品・サービスの内容とは関係がない場合
「要求を実現するための手段・態様が社会通念不相当な言動」の具体例
≪要求内容の妥当性にかかわらず不相当とされる可能性が高いもの≫
- 身体的な攻撃(暴行、傷害)
- 精神的な攻撃(脅迫、中傷、名誉毀損、侮辱、暴言)
- 土下座の要求
- 継続的(繰り返し)、執拗(しつこい)な言動
- 拘束的(不退去、居座り、監禁)な行動
- 性的な言動 など
≪要求内容の妥当性に照らして不相当とされる場合があるもの≫
- 商品交換の要求
- 金銭補償の要求 など
カスハラの判断基準とは
それぞれの会社で判断基準を明確に
先ほども述べたとおり、カスハラについては、企業や業界によって、顧客や取引先などへの対応方法や基準は異なることが想定されるため、明確に定義をすることは難しいとされています。
そのため、それぞれの会社(トップ)が、業種や業態、企業文化などを踏まえて、カスハラの判断基準を明確にした上で、社内での考え方、対応方針を統一し、現場(の従業員の方々など)と共有しておくことが求められています。
尺度としての例
このようにカスハラの判断基準は様々であるところ、厚労省は、一つの尺度として、次のような観点から判断することが考えられるとしています。
- 顧客等の要求内容に妥当性はあるか
- 要求を実現するための手段・態様が社会通念に照らして相当か
①「顧客等の要求内容に妥当性はあるか」とは
まず、顧客等の主張について、事実関係、因果関係を確認し、自社に過失がないか、根拠のある要求がなされているかを確認し、顧客等の主張が妥当か否かを判断します。
たとえば、顧客が購入した商品に瑕疵(問題)がある場合、謝罪とともに商品の交換・返金に応じることは妥当ですが、自社の過失、商品の瑕疵(問題)などがない場合は、顧客の要求には正当な理由がないと考えられます。
②「要求を実現するための手段・態様が社会通念に照らして相当か」とは
また、顧客等の要求内容の妥当性の確認とあわせて、その要求を実現するための手段・態様が社会通念に照らして相当な範囲であるか否かを確認します。
たとえば、長時間に及ぶクレームは、業務の遂行に支障が生じるという点から、社会通念上相当性を欠く場合が多いと考えられています。
また、顧客等の要求内容に妥当性がない場合に限らず、妥当性がある場合であっても、その言動が暴力的・威圧的・継続的・拘束的・差別的、あるいは性的である場合には、社会通念上不相当であると考えられ、カスハラに該当し得るものとなります。
他方で、顧客等の要求内容に妥当性がないと考えられる場合であっても、企業が顧客の要求を拒否した際にすぐに顧客等が要求を取り下げたなどの場合には、従業員の就業環境を害されたとはいえず、カスハラには該当しない場合もあり得ます。
注意点
なお、注意点として、「殴る・蹴るといった暴力行為は、直ちにカスハラに該当すると判断できることはもとより、犯罪に該当しうるもの」です。
また、会社として、当該行為をカスハラとして取り扱うか否かに関わらず、顧客等からの行為で従業員の就業環境が不快なものとなり、就業に支障が生じるような場合には、会社として従業員からの相談に応じる、複数名で対応するといった措置を講ずる必要があります。
具体的なカスハラ対策とは
カスハラ対策が必要と言われても、なかなか何をして良いのかわからない、という方も多いのではないでしょうか。
そのような場合に備えて、厚労省は、カスハラ対策の基本的な枠組みを構築するために、カスハラを想定した事前の準備や実際にカスハラが起こってしまった場合に備えた対応として、次のような取り組みを実施することがよいとしています。
カスハラを想定した事前の準備
まず、カスハラを想定した事前の準備としては、以下の①から④の取組が挙げられています。
①事業主の基本方針・基本姿勢の明確化、従業員への周知啓発
・組織のトップが、カスハラ対策への取組の基本方針・基本姿勢を明確に示すこと
・カスハラから、組織として従業員を守るという基本方針・基本姿勢、従業員の対応の在り方を従業員に周知・啓発し、教育すること
②従業員(被害者)のための相談対応体制の整備
・カスハラを受けた従業員が相談できるように、相談対応者を決めておく、あるいは相談窓口を設置して、従業員へ広く周知すること
・相談対応者が相談の内容や状況に応じて適切に対応できるようにすること
③対応方法、手順の策定
・カスハラ行為への対応体制、方法などをあらかじめ決めておくこと
④社内対応ルールの従業員等への教育・研修
・顧客等から迷惑行為、悪質なクレームへの社内における具体的な対応について、従業員を教育すること
カスハラが起こった際の対応
また、カスハラが起こってしまった際の対応としては、以下の⑤から⑧までの取組が挙げられています。
⑤事実関係の正確な確認と事案への対応
・カスハラに該当するか否かを判断するため、顧客、従業員等からの情報を基に、その行為が事実であるかを確かな証拠・証言に基づいて確認すること
・確認した事実に基づき、商品に瑕疵がある、またはサービスに過失がある場合は謝罪し、商品の交換・返品に応じる、瑕疵や過失がない場合は要求等に応じないこと
⑥従業員への配慮の措置
・被害を受けた従業員に対する配慮の措置を適正に行うこと
(例えば、一人で対応させず、複数名で、組織的に対応する、メンタルヘルス不調への対応など)
⑦再発防止のための取組
・同様の問題が発生することを防ぐ(再発防止の措置)ため、定期的な取組の見直しや改善を行い、継続的に取組を行うこと
⑧その他①〜⑦とあわせて講ずべき措置
・相談者のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、従業員に周知すること
・相談したことなどを理由として不利益な取り扱いを行なってはならない旨を定め、従業員に対して周知すること
カスハラに発展させないために
カスハラについては、企業や業界によって、顧客や取引先などへの対応方法や基準は異なることが想定されるため、明確に定義をすることは難しい上に、本来、顧客等からのクレームや苦情は、商品やサービス、接客態度、システムなどに対して不平・不満を訴えるものであり、それ自体は問題とはいえず、業務改善や新たな商品・サービス開発につながるものであるという複雑性があります。
カスハラ対策で重要なこと
厚労省は、カスハラに発展させないための重要な視点として、以下のような事項を挙げています。
カスハラに発展させないためのステップ
カスハラに発展させないためのステップとしては、以下の①〜③に留意することが大切です。
①対象を明確にして謝罪する
まず、対象を明確にした上で限定的に謝罪をします。
例えば、「この度は不快な思いをさせてしまい、誠に申し訳ありません。」などのように不快感を抱かせたことについて謝ります。
正確に状況が把握できていない段階では、企業として非を認めたような発言は控え、事実確認をして社内で判断をしたときに、過失の程度に応じた謝罪をします。
②状況を正確に把握する
その上で、顧客等が主張する内容を正確に把握します。
顧客等から話を聞く際には、途中で発言を遮ることや反論はせず、まずは一通り事情を確認します。
一通り事情を確認した後、顧客等が話す内容に不明確なものがあれば確認をし、不足する情報があれば、追加で意見をもらい、顧客等の勘違いがあれば正しい情報を提供します。
③現場監督者(一次相談対応者)または相談窓口に情報共有する
顧客等から確認した情報は、現場監督者または相談窓口対応者に共有します。
相談対応者が正確かつ迅速に状況を把握するため、現場対応者は顧客等の要望のみならず、できるだけ事実関係を時系列で整理して報告します。
それぞれのシーンに合わせた対応
顧客等からのクレームの初期対応は、対応者が現場対応者か、または電話の受付対応者かによっても、その対応の内容が異なります。
また、顧客等の求めに応じて訪問するケースも想定されます。
そのため、現場での対応の時、電話での対応の時、顧客訪問での対応の時、といったそれぞれのシーンに合わせた対応の留意ポイントをまとめておくことが良いとされています。
以下、厚労省が挙げる各シーンごとの対応上の留意点を紹介します。
現場での対応
- 店舗で対応せず、応接室等の個室に招いて、2人以上で対応(時間・人・場所を変えて対応)する。
- 相手が感情的なっても、丁寧な話し方で冷静に対応し、よく話を聞く。
- 言葉遣いに注意し、専門用語などは使わないようにする。
- 質問を交えながら、詳細に情報を確認し、メモを取って要点を確認する。
- 極力議論は避け、問題を解決しようとする前向きの姿勢を感じさせる。
- その場しのぎの回答はせず、対応できないことははっきり断る。
- 相手を落ち着かせたい場合は。後で確認して回答するなど冷却時間を設ける。 …etc
電話での対応
- 苦情を専門に受け付けるため、専用電話を設置して録音ができるようにしておく。
- 基本的には、第一受信者が責任を持ち、問い合わせ案件のたらい回しをしない。
- 丁寧な言葉遣いで、相手がゆっくりと理解できるように説明する。
- 顧客等の発言内容と齟齬が出ないよう、メモを取りながら話を聞き、復唱して確認する。
- 対応できることと対応できないことをはっきりとさせ、相手に過大な期待を抱かせない。
- 即時回答できない内容については。事実を確認してから追って返事をする。 …etc
顧客訪問による対応
- 冷静になりにくい時間帯(夜間や早朝)の訪問は避ける。
- 喫茶店など周囲から聞かれる場所や決められた場所以外には行かない。
- あらかじめ訪問先や問題点について情報を集め、問い合わせ内容への対応方針を決めておく。
- まずは相手の言い分を聞くだけにする。
- できるだけ2人で行く(1人では対応させない。ただし多数人での訪問も控える。) …etc
カスハラは会社の取り組みが大切です
さて、ここまでカスハラ対策について概観してきました。
厚労省は、カスハラについて、「顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの」という定義を示しています。
もっとも、冒頭でもご説明したとおり、カスハラは、他のハラスメントとは異なり、明確に定義することが難しいハラスメント類型です。
そのため、特にそれぞれの会社(トップ)が、業種や業態、企業文化などを踏まえて、カスハラの判断基準を明確にした上で、社内での考え方、対応方針を統一し、現場(の従業員の方々など)と共有しておくことが強く求められます。
相談窓口の設置と周知や、ハラスメントの内容、職場におけるハラスメントをなくす旨の方針の明確化と周知・啓発については、実際に多くの会社で実施されており、他のハラスメント対策にもつながることが有用な手段であるともいえます。
厚労省は、任意でイラストを追加できるようなカスハラ対策啓発ポスターのひな形も公表しているので、このようなポスターを利用したり、カスハラ対策のマニュアルを参照したりしながら、継続的な対策と見直し、改善を進めていくことが大切です。
弁護士にもご相談ください
カスハラ(顧客等からの迷惑行為)に悩む従業員の方はたくさんいます。
会社がカスハラ対策に真摯に取り組むことは、従業員を守ることにつながり、職場環境の改善や離職防止にもつながります。
カスハラをはじめとする職場のハラスメントについてについてお悩みがある場合には、ぜひ弁護士にもご相談ください。
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