労働問題

飲食店の非混雑時間帯は休憩時間になる?【月光フーズ事件】

川崎市内で飲食店を経営しています。当店はランチ営業が11時から14時、ディナー営業が17時から23時までとなっており、ランチのお客さまが帰ったあとの14時30分からディナー営業の仕込みが始まる16時くらいまでは比較的ヒマな時間(アイドルタイム)です。従業員には、この時間については自由にしてもらっていいとおもっていますが、チラシの作成やクチコミサイトへの返事など、この時間にしかできないことをお願いすることもあります。また、仕入れ業者などが来るのもこの時間ですので、だれかに留守番をお願いしないといけません。「休憩時間」として何か問題はありますか?
労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間のことをいいます。休憩時間と認められるためには、使用者の指揮命令下から完全に解放されていないといけません。アイドルタイムの過ごし方や使用者の指示内容など、客観的に使用者の指揮命令下から完全に解放されていないと評価されると休憩時間とは認められず、その時間の給与を支払わなければならないかも知れません。詳しくは弁護士にご相談ください。

休憩時間とは

労働基準法34条では、労働時間が、6時間を超え、8時間以下の場合には、少なくとも45分の休憩を、8時間を超える場合には、少なくとも1時間の休憩を与えなければならないことが定められています。

労働時間休憩時間
6時間を超え、8時間以下の場合少なくとも45分
8時間を超える場合少なくとも1時間
労働基準法34条で定める休憩時間の義務

休憩時間については、就業規則において必ず記載しておかなければならない絶対的記載事項です(労働基準法89条)。

また、休憩は、原則として事業場全ての労働者に一斉に与えなければなりません(法34条2項)。
仮に交替勤務を採用する場合など、一斉に休憩を与えることが難しい場合には、労働者代表の書面による協定(労使協定)を結ぶことによって、交替で休憩を与えることができます。
ただし、この場合には、一斉に休憩を与えない労働者の範囲とその労働者に対する休憩の与え方についても、労使協定で定めておく必要があります。

休憩時間は、労働者が自由に過ごすことができるようにしなければなりません。
仮に、労働者が、使用者から指示を受けた場合には直ちに業務に従事しなければならない状態に置かれていたり、何らかの事態が発生した場合には即時に業務に戻らなければならない状態に置かれていたりするような場合には、休憩時間を与えたとは認められないため注意が必要です。

さて、今回は、飲食店における非混雑時間帯の休憩時間の該当性が問題となった事案をご紹介します。

月光フーズ事件・東京地裁令和3年3月4日判決

事案の概要

本件は、Y社が経営する飲食店でアルバイトとして勤務していたXさんらが、Y社に対し、未払賃金等の支払いを求めた事案です。

事実の概要

XさんらとY社の関係

Y社の飲食店の運営

Y社は、食品の製造、加工、販売及び輸出入、広島風お好み焼きの飲食店等、各種店舗の経営の事業などを行う会社でした。
Y社は、広島風お好み焼きなどを提供する「A」という名称の飲食店として、平成25年12月頃B1店を開店し、平成29年4月頃B2店を開店しました。

X1さんの労務提供

X1さんは、平成25年10月1日から平成30年10月5日まで、Y社との間で労働契約を締結し、B1店及びB2店などにおいてY社に対し、労務を提供していました。

X2さんの労務提供

X2さんは、Y社との間で、平成29年1月11日から同年2月末日までの間は時間給制の有期労働契約、同年3月1日から平成30年12月末日までは月給制の無期雇用契約、平成31年1月1日から同年5月31日までは時間給制の有期労働契約を締結し、B1店及びB2店において、お好み焼きなどの調理、接客、店舗の片付けなどの業務に従事し、Y社に対して労務を提供していました。

各店舗における休憩時間

店舗の営業時間と非混雑時間帯

Y社の各店舗において、ランチタイムの営業時間は14時まで、ディナータイムの営業時間は17時からとされていました。
もっとも、14時直前に来店した客に対しては、食事が終わるまで接客を続けており、その後片づけを行うなどしており、ランチタイムの客が完全にいなくなるのは、おおむね14時15分ころから14時30分ころでした。
また、Y社の各店舗においては、17時からのディナー営業に備え、16時20分ころには、鉄板の火入れを行うことが業務として定められていました。
さらに、ランチタイムの営業時間とディナータイムの営業時間の間に、月に1回程度、全正社員を集めたミーティングが行われることもありました。

〜14:00ランチタイムの営業時間
14:15〜14:30客が完全にいなくなる
 月1回程度は全社員MTG
16:20ころ鉄板の火入れを行う
17:00〜ディナータイムの営業時間
非混雑時間帯のX1さんの過ごし方

X1は、ランチタイムの営業時間とディナータイムの営業時間の間の時間帯に、ディナーの仕込み、配送される食材の受け取り、不足食材の買い出し、予約の受付、営業時間の問合せ及び他社とのやり取り等の電話対応、シフト表の作成、業者との打ち合わせ等の業務を行っていました。
特に、出勤した日は毎日、ディナーの仕込み、配送される食材の受け取り、電話対応を行っていました。
食事をとる際は店舗のバックヤードに置かれている電話のすぐ横で食事しており、待機していているような状況でした。
また、同時間帯はアルバイトは退勤となり、勤務するアルバイトがいないため、正社員が対応していたものの、F店で全社員ミーティングがある際は、E店ではアルバイトが電話対応等の業務を行っていました。

非混雑時間帯のX2さんの過ごし方

X2は、ランチタイムの営業時間とディナータイムの営業時間の間の時間帯も、ランチの片づけ、おつりを用意するための銀行での両替、ディナーの仕込み、配送される食材の受け取り、不足食材の買い出し、予約の受付や営業時間の問合せ及び他社とのやり取り等の電話対応等の業務を行っていました。
特に、出勤した日は毎日、ランチの片づけ、ディナーの仕込み、配送される食材の受け取り、電話対応を行っていました。
また、同時間帯はアルバイトは退勤となり、勤務するアルバイトがいないため、正社員が対応していました。
X2さんは昼食の際に店舗外へ出ることもありませんでした。

訴えの提起

そこで、Xさんらは、各店舗のランチタイムの営業時間とディナータイムの営業時間の間の時間についても、ランチの片付け、急な来客や電話の対応、食材などの配送の受領、ディナーの仕込み、買い出しや両替えなどの業務に従事せざるを得ず、自由に店舗外に出ることができない状態であったから、勤務実績報告書などに休憩時間と記載された時間があっても、これらの時間は客観的にY社の指揮命令下に置かれていた時間であり、労働時間に当たるなどと主張し、Y社に対し、未払賃金等の支払いを求める訴えを提起しました。

争点

本件では、Xさんらの実労働時間、特に休憩を取得することができたか否かが主要な争点となりました。
なお、このほかにも、X1さんに関して賃金減額の合意があったか否か、X2さんに関し、住宅手当が基礎賃金に含まれるか否か、X1さんに関して管理監督者に該当するか否か、X1さん及びX2さんに関して、変形労働時間制が有効か否か、固定残業代の合意が有効か否かなども争点となりましたが、本解説では省略します。

本判決の要旨

労働時間とは?

労基法32条の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、同労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるべきものではないと解するのが相当である。

各店舗における非混雑時間帯が労働時間に当たるか

本件においては、前記認定事実(…)のとおり、ランチタイムの営業時間とディナータイムの営業時間の間においても、原告らが業務に当たっており、業務以外の理由で店舗を離れることはできなかったことからすると、当該時間は原告らが被告の指揮命令下にあった時間帯というべきであり、労働時間に該当すると解するのが相当である。

タイムカードや勤務実績報告書の記載に基づくことはできない

なお、Xさんらのタイムカードや勤務実績報告書には休憩時間に相当する時間数が記載されており、Y社代表者本人は4時から17時までのうち2時間半は休憩を取得することができたはずである旨述べているが、Y社代表者本人は、この時間帯に残っているランチ客への対応、ランチの片づけ、ディナーの仕込み、仕入れの配達、電話への対応、ディナー前の火入れ等の業務が発生すること、全社員のミーティングが行われることもあることを認めており(…)、この時間帯に社員が業務命令の指揮下にない状態となるようなんらか対応を行っていたといった事情も見当たらない。
また、X1さんが、Y社代表者の怒りを買わないように、実際には休憩を取得していなくても休憩時間を記載していた旨述べていること(…)等からすると、本件においてはXさんらのタイムカード及び勤務実績報告書の記載に基づいて休憩時間を認定することは相当でないと考えられる(…)。

結論

よって、裁判所は、本件においては、Y社の各店舗において、Xさんらは営業時間以外の非混雑時間帯においてもY社の指揮命令下にあったとして、労働時間に該当すると判断しました。

ポイント

労働時間とは

労働基準法上の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令(監督)下におかれている時間であるとされています。
「指揮命令(監督)下」という言葉は抽象的かもしれませんが、これは、実際に使用者が、労働者に対して「業務Aをしてください」という直接的な指示をした場合だけでなく、業務を遂行するために不可欠または不可分な行為をする時間も含まれているものと理解されています。

労働時間に当たるか否かの判断の基準は

労働時間、すなわち使用者の指揮命令下におかれているか否かは、労働契約や就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるものではなく、
・業務性
・待機性(指揮監督性)
・義務性
などの要素に着目して判断されます。

使用者として注意したいこと

冒頭でも述べたように、休憩時間は、労働者が完全に自由に利用できるようにしておかなければなりません
仮に、労働者が、使用者から指示を受けた場合には直ちに業務に従事しなければならない状態に置かれていたり、何らかの事態が発生した場合には即時に業務に戻らなければならない状態に置かれていたりするような場合には、休憩時間を与えたとは認められません。
休憩時間には、労働から離れることが保障されているかどうか、改めて注意が必要です。

弁護士にご相談ください

本件は、いわゆる飲食店における非混雑時間帯の休憩時間該当性が問題となった事案でした。
近年では、このほかにも、不活動仮眠時間や待機時間などの労働者が実作業に従事していない時間帯が、労働基準法32条にいう「労働時間」に該当するか否かが争われるケースも増えています。

労働時間の該当性については、使用者側と労働者側で見え方がかなり違うことも多々あります。
労働時間に当たるか否かは、労働者が真に労働から解放されていたといえるかどうか、という観点から実質的に判断されます。
労働時間の該当性などについてお悩みがある場合には、ぜひ弁護士にご相談ください。