業務委託契約とは(前編)利用場面や関係法令など【弁護士が解説】
これまで契約に関するいわゆる総論のお話からはじめ、契約条項の一般的な留意点を解説してきました(契約に関する記事一覧はこちら)。
今回のテーマは、現代の経営において切っても切り離せない業務委託契約について。
業務委託契約と一言でいっても、実はその契約の内容は多種多様です。
そこで、今回は、そもそも業務委託契約とは(前編)として、法律のみならず経営の観点も含めて詳しく解説していきます。
業務委託契約の重要性
日本企業では、従前、市場調査、研究開発、原材料調達や製造、販売やアフターサービスなど、ほぼすべてを自社やそのグループ企業内で行っていました。
しかし、景気の変動による人件費の負担増に加え、IoTやAIなど技術の急速な進歩や産業構造が変化したことにより、自社の経営資源はコア業務に集中させ、それ以外の自社の機能の一部をアウトソーシングすることが経営上の合理性を持つようになりました。
また、最近は働き方の多様性として、雇用の代わりに業務委託が利用されることがあります。
このように、業務委託契約は、現代の経営において切っても切り離せない重要な契約なのです。
業務委託契約の利用場面
業務委託契約とは
業務委託契約とは、自社の業務を外部に委託するための契約のことを言います。
業務の全部または一部を外部に委託することを「アウトソーシング」と総称することもあります。
アウトソーシングは、コストの削減や、外部の専門性の活用、限られた経営資源をコア業務に集中させる目的で行われることが一般的です。
これに加えて最近では、企業が自社のリソースを最適化し、競争力を高めるための調達・委託方法として戦略的ソーシングとして利用されることがあります。
単なるコスト削減だけでなく、企業の戦略目標に沿った形で、外部の専門家や企業に業務を委託することで、業務効率や品質を向上させることを目的としています。
業務委託契約の例
業務委託契約に分類される契約類型としては次のようなものが挙げられます。
なお、業務委託契約は極めて範囲が広く多様ですので、これらはほんの一例に過ぎません。
- 製造委託契約
- OEM契約
- BPO(Business Process Outsourcing(ビジネス・プロセス・アウトソージング))契約
- 運搬委託契約
- プロパティマネジメント契約
- 調査業務委託契約
- コールセンター委託契約
- システム開発委託契約
- システム運用・保守契約
- コンサルタント契約
- 研究開発委託契約
業務委託の法的性質
業務委託契約の類型
このように、業務委託契約は多種多様な性質のものを含みますが、民法に「業務委託契約」という類型は載っていません。
したがって、業務委託契約は、その具体的な内容にしたがって契約の法的性質を判断することになります。
業務委託契約は、大きく分類して、請負型と委任(準委任)型の2つに分けられます。
- モノの完成を目的とする契約であれば「請負型」
- 事務の履行を目的とする契約であれば「委任(準委任)型」(法律行為を依頼する場合は委任型、事実行為を依頼する場合は準委任型)
とすることが一般的な考え方です。
請負型と委任(準委任)型の比較
請負型と委任(準委任)型の法的性質を比較すると次のとおりとなります。
請負 | 委任・準委任 | |
契約の目的 | 受託者が委託された仕事を完成すること | 受託者が委託された(法律上・事実上の)事務を処理すること |
受託者の義務 | 受託者は仕事を完成させる義務を負う。 | 受託者は善管注意義務を負う。 |
報酬請求権 | 受託者は仕事を完成した後に報酬を請求できる。 | 受託者は委任事務を履行した後に報酬を請求できる。 |
契約解除権 | 委託者は、原則として仕事が完成するまでいつでも損害を賠償して解除できる。 受託者は、契約を解除することはできない。 | 両当事者はいつでも解除できる。 ただし、相手方に不利な時期に委任を解除したとき、又は委任者が受任者の利益(専ら報酬を得ることによるものを除く。)をも目的とする委任を解除したときはその損害を賠償しなければならない。 |
担保責任 | 受託者は、仕事の目的物が契約の内容に適合しなければ、担保責任を負う。 | 定めなし。 |
報告義務 | 受託者は報告義務を負わない。 | 受託者は、委託者の請求があれば、いつでも事務処理状況を報告し、委任事務の終了後は顛末の報告義務を負う。 |
印紙税 | 課税文書 | 不課税文書 |
契約の法的性質は契約全体から判断
なお、業務委託契約を請負型に分類するのか、(準)委任型に分類するのかは必ずしも容易ではありません。
法的性質については、契約の名称だけでなく契約全体から判断することになります。
例えば調査業務に関する委託契約の場合、「調査」という事務を委託するとみれば(準)委任型と解釈するのが自然と思われますが、調査の上、詳細なレポートや提案資料を作成することが仕事になっていれば請負的な要素もあるわけです。
法的評価が訴訟上争いになることもありえますので、契約の文言はそうしたことを想定して整備しなければなりません。
具体的な契約条項については、業務委託契約とは(後編)で詳しく解説します。
その他の契約類型との比較
業務委託契約は、その内容によって他の契約類型との比較も問題になり得ます。
売買契約との関係
製作物供給契約の場合、注文に応じて製品を製作する請負的な性格と、完成した製品を売り渡す売買的な側面があります。
雇用契約との関係
単に労働力を提供するのか、仕事の完成を提供するのかで、雇用契約と請負契約の境界が曖昧になることもあり得ます。
請負契約であれば労働基準法や労働契約の適用がなく、社会保険の負担もない(執筆日現在)ため、実質的な雇用契約を「請負」や「業務委託」の名目で契約するケースがあります(偽装請負。なお、偽装請負に含まれる偽装フリーランスについてはこちらの記事をご覧ください。)。
派遣との関係
自己の雇用する労働者を委託者のもとで作業させる場合、労働者派遣との関係が問題になります。
労働者派遣とは、自己の雇用する労働者を、その雇用契約の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させることをいいます。
作業に従事する労働者が委託者に対して指揮命令を行っているような実態があれば労働者派遣(偽装請負)と評価されることがあり得ます。
業務委託契約と適用法令
このように、業務委託契約は様々な取引形態をカバーする便利な契約ですが、業務委託契約の個別の条項を作成するにあたり、各種関係法令について注意をしなければならない範囲も広くなっています。
ここからは、業務委託契約において注意しなければならない法令について解説していきます。
商法
少なくとも当事者の一方が会社である契約においては、商行為となり、商法における商行為の原則(商法501条〜521条)が適用されます。
また、契約類型によっては、運送営業に関する規定(商法569条以下)、寄託に関する規定(商法595条以下)、とりわけ倉庫営業に関する規定(商法599条以下)についても確認しておく必要があります。
独占禁止法
事業者間の物の製造の委託取引および役務の委託契約においては、独占禁止法への抵触についても配慮する必要があります。
つまり、自己の取引上の地位が相手方に対して優越していることを利用して、正常な商習慣に照らして不当な取引をすると、独占禁止法2条9項5号の「優越的地位の濫用」にあたるおそれがあります。
具体的には、公正取引委員会「優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」をご参照ください。
下請法(下請代金支払遅延等防止法)
下請法は、下請事業者の利益を保護するための法律であり、規模の大きい親事業者(元請)が規模の小さい下請事業者(下請)に対して業務委託を行う場合に適用される可能性があります。
適用の対象となる取引は、事業者が「業として行う」①製造委託、②修理委託、③情報成果物委託、④役務提供委託です(下請法2条)。
親事業者、下請事業者の定義
親事業者と下請事業者の関係は、取引の内容と両者の資本金の規模によって定義されます。
(画像は、公正取引委員会「下請法の概要」から引用)
(1)物品の製造・修理委託及び政令で定める情報成果物・役務提供委託を行う場合
(2)情報成果物作成・役務提供委託を行う場合((1)の情報成果物・役務提供委託を除く。)
親事業者の義務、禁止行為
次の行為が親事業者の義務、あるいは禁止行為として規定されています。
建設業法
建設業法は、建設業を営む者の資質の向上、建設工事の請負契約の適正化等を図ることによって、建設工事の適正な施工を確保し、発注者を保護するとともに、建設業の健全な発達を促進し、もって公共の福祉の増進に寄与することを目的とする法律です。
この目的のため、大きく分けて次の3つのルールが定められています。
- 建設業の許可制
- 建設工事の請負契約に関する規定
- 主任技術者・監理技術者の設置
建設工事の請負契約においては、建設業法19条所定の事項を定めなければならないとされています。
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工事内容
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請負代金の額
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工事着手の時期及び工事完成の時期
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工事を施工しない日又は時間帯の定めをするときは、その内容
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請負代金の全部又は一部の前金払又は出来形部分に対する支払の定めをするときは、その支払の時期及び方法
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当事者の一方から設計変更又は工事着手の延期若しくは工事の全部若しくは一部の中止の申出があつた場合における工期の変更、請負代金の額の変更又は損害の負担及びそれらの額の算定方法に関する定め
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天災その他不可抗力による工期の変更又は損害の負担及びその額の算定方法に関する定め
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価格等(物価統制令(昭和二十一年勅令第百十八号)第二条に規定する価格等をいう。)の変動若しくは変更に基づく請負代金の額又は工事内容の変更
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工事の施工により第三者が損害を受けた場合における賠償金の負担に関する定め
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注文者が工事に使用する資材を提供し、又は建設機械その他の機械を貸与するときは、その内容及び方法に関する定め
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注文者が工事の全部又は一部の完成を確認するための検査の時期及び方法並びに引渡しの時期
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工事完成後における請負代金の支払の時期及び方法
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工事の目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない場合におけるその不適合を担保すべき責任又は当該責任の履行に関して講ずべき保証保険契約の締結その他の措置に関する定めをするときは、その内容
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各当事者の履行の遅滞その他債務の不履行の場合における遅延利息、違約金その他の損害金
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契約に関する紛争の解決方法
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その他国土交通省令で定める事項
労働関係法
先に述べたとおり、業務委託契約によって委託先の従業員が委託元の指揮命令下で業務に従事する場合は、「派遣」に該当し、いわゆる偽装請負となって法令による規制の対象となります。
適法に労働者派遣を行うためには、労働者派遣法の規定に従う必要があります。
また、労働者の供給事業は、職業安定法に規定する場合のほかは禁止されています(職業安定法44条)。
フリーランス保護法
令和6年11月1日、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス保護法)が施行されています。
事業者が、特定受託事業者(いわゆるフリーランス)に対して、その事業のために他の事業者に物品の製造・情報成果物などの作成や役務の提供を委託する場合にフリーランス保護法が適用になります。
フリーランス保護法が適用になる取引に関しては、取引条件の明示義務、書面の交付義務、期日における報酬支払義務が生じるほか、委託事業者の遵守事項が定められています。
フリーランス保護法について、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
個人情報保護法
業務委託契約に基づいて特定の個人を識別することができる情報等を提供する場合または提供を受ける場合には、個人情報保護法の規定に従う必要があります。
個人情報保護法においては、個人情報取扱事業者は、原則として、あらかじめ本人の同意を得ないで個人データを第三者に提供することはできません(法27条1項)。
ただ、個人情報取扱事業者が利用目的の達成に必要な範囲内において個人データの取扱いの全部又は一部を委託することに伴って当該個人データが提供される場合などは、受託者は「第三者」にあたらないとされている(法27条5項1号)ため、委託の際に本人の同意は不要となります。
例えば、委託者の保有する顧客情報の集計や分析、資料作成、紙媒体で保有している個人情報のエクセルファイルへの入力作業などを委託するというような場合などがこれにあたります。
もっとも、個人データの取扱を第三者に委託した場合は、その取扱いを委託された個人データの安全管理が図られるよう、委託を受けた者に対する必要かつ適切な監督を行わなければなりません(法25条)。
したがって、業務委託契約の条項を作成するにあたっては、委託者は、こうした必要かつ適切な監督を行うことができるよう配慮する必要があります。
知的財産法
一定の業務委託契約においては、知的財産が創出されることがあります。
技術開発委託契約やシステム開発委託契約などは、知的財産の創出そのものが契約の目的となっています。製造委託契約などにおいては、委託業務の過程で何らかの知的財産(ノウハウを含む)が創出される可能性もあります。
知的財産権は原則としてそれを創出した者に帰属することになるため、それと異なる処理をしたいのであれば契約書に記載しておく必要があります。
また、受託者が第三者の知的財産を侵害した場合など、第三者が保有する知的財産権の関係についても契約書に定めておく必要があります。
知的財産権について、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
ポイント
このように業務委託契約は、現代の経営において切っても切り離せない非常に重要な契約です。
しかし、業務委託契約には、さまざまな類型があり、その法的性質も契約全体から実質的に判断することが求められます。
さらに、契約の内容によって、注意しなければならない法律もそれぞれ変わってくるため、個々の業務委託契約の場面では、契約内容に応じてカスタマイズしたオーダーメイドの契約条項を作り込んでいく必要があります。
業務委託契約の具体的な条文解説は、業務委託契約とは(後編)で詳しく解説していきます。
ぜひ、こちらの記事もご覧ください。
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令和6(2024)年11月1日からフリーランス保護法が施行されたことに伴い、フリーランスの方との業務委託契約の内容についてのご相談も増えています。
すでに業務委託契約を締結している場合も、これから業務委託契約を締結する場合も、改めて会社の契約フォーマットを見直し、法律に照らして問題がないかどうかをチェックしておくことも大切です。
業務委託契約についてお悩みがある場合には、ぜひ弁護士にご相談ください。