法律コラム

被災借地借家法とは?【弁護士が解説】

被災借地借家法」という法律をご存知でしょうか?
借地借家法についてはよく知られているものの、実は地震や豪雨などの災害が生じた時に備えて知っておくべき「被災借地借家法」については、あまり広く知られていません。
今回は、一体どんな法律なの?ということを簡単にご紹介したいと思います。

被災借地借家法とは?

被災借地借家法が制定された背景

従来、大規模災害により建物が滅失した場合の借地・借家関係をめぐる法律関係について、罹災都市借地借家臨時処理法という法律がありました。
しかし、この法律は、昭和21年に制定されたものであり、現代の災害の現状にそぐわない点が多々ありました。
特に、近年では、地震や豪雨をはじめとする大規模災害が増加しており、大規模災害の際に復興の妨げとなるような法律は早期に見直しを図る必要がありました。
そこで、罹災都市借地借家臨時処理法が廃止され、被災借地借家法(大規模な災害の被災地における借地借家に関する特別措置法)が制定されたのです。

被災借地借家法の制度とは

被災借地借家法では、大規模災害によって借地上の建物が滅失した場合において借地人の保護などを図るために、
借地人の保護に関する制度
暫定的な土地利用に関する制度
借家人の保護に関する制度
を定めています。

借地人の保護に関する制度とは

被災借地借家法では、借地人の保護に関する制度として、大規模な災害により借地上の建物が滅失した場合について
借地人による借地契約の解約を認める制度
一定期間掲示をしなくても借地権の対抗力を認める制度
借地権の譲渡・転貸について、地主の承諾に代わる裁判所の許可の制度
を設けています。

①借地人による借地契約の解約を認める制度とは

借地借家法上、借地権の最初の最短存続期間は30年、更新後の最初の最短存続期間は20年、その後の最短存続期間は10年とされています(借地借家法3条、4条)。
そして、借地契約の更新の後に建物の滅失があった場合には、借地権者(土地を借りている人)は、解約の申し入れをすることができるとされていますが(借地借家法8条1項)、更新前においては、このような解約の申し入れに関する定めはありません。

もっとも、例えば突然の地震などによって借地上の建物が倒壊してしまった場合に、いきなり建物を建て替える余裕などあるわけがありません。
それにも関わらず、借地借家法を厳密に適用すると、更新前の契約の場合には、借地権者(土地を借りている人)は、契約を解約することができず、建物は滅失しているのに地代だけを支払い続けなければならないことになってしまいます。

そこで、被災借地借家法では、更新前の契約であっても、建物が滅失した場合に、借地権者が借地契約の解約を申し入れることができる制度が定められています。

②一定期間掲示をしなくても借地権の対抗力を認める制度

借地借家法上、借地が第三者に売却され、その土地の所有権が第三者に移転したとしても、借地権者が借地上に登記されている建物を所有していれば、当該第三者に借地権を対抗することができます(借地借家法10条1項)。
また、この場合には、建物が滅失したとしても、借地権者が、建物を特定するために必要な事項、滅失があった日及び建物を新たに築造する旨を、土地の上の見やすいところに掲示したときは、当該第三者に借地権を対抗することができます(借地借家法10条2項本文)。
ただし、建物の滅失があった日から2年を経過した後にあっては、その前に建物を新たに築造し、かつ、その建物について登記をした場合に限って、この対抗力が認められています(借地借家法10条2項ただし書)

もっとも、被災後の混乱の中で、このような掲示を速やかに行うことは困難です。
また、仮に掲示をすることができたとしても、2年以内に建物を新しく築造し、登記することができるとも限りません。

そこで、被災借地借家法では、一定期間掲示をしなくても借地権の対抗力を認める制度が定められています。
具体的には、政令の施行後6か月間は建物滅失後の掲示なく借地権を対抗することができ、また、掲示による対抗期間も3年間となります。

③借地権の譲渡・転貸について、地主の承諾に代わる裁判所の許可の制度

借地借家法上、借地権者が借地上の建物を第三者に譲渡しようとする場合、借地権設定者の承諾を得る必要があります。
しかし、借地権設定者が、承諾を故意に拒絶すると、借地権者はずっと建物を譲渡することができない状態が続いてしまいます。
そこで、仮に、当該第三者が借地権を取得しても、借地権設定者に不利になるおそれがないにも関わらず、借地権設定者がこれを承諾しない場合には、借地権者は、借地権設定者の承諾に代わる裁判所の許可を申し立てることができます(借地借家法19条1項)。

ただ、この申立てができるのは、建物が借地上にある場合に限られています。
建物が滅失している場合には、裁判所に対して、このような申立てをすることはできません。

もっとも、災害が発生した場合には、建物が借地上に存在するか否かに関わらず、借地権を第三者に譲渡する必要性と緊急性が高いケースもあります。

そこで、被災借地借家法では、借地上の建物が滅失した場合であっても、借地権の譲渡・転貸について,地主の承諾に代わる裁判所の許可の制度が定められています。

暫定的な土地利用に関する制度とは

このほかにも、被災借地借家法では、暫定的な土地利用に関する制度が定められています。
これは、仮設住宅や仮設店舗の用地に使用する場合など、被災地における暫定的な土地利用 の需要に応えるため、短期の借地権の設定を可能にする制度です。

借家人の保護に関する制度とは

また、被災借地借家法では、借家人の保護を図るため、大規模な災害により滅失した建物の家主が建物を再築して賃貸する場合、従前の借家人にその旨を通知する制度を設けています。

まとめ

このように、被災借地借家法では、大規模災害によって借地上の建物が滅失した場合において借地人の保護などを図るために、以下のような制度が設けられています。

この法律が適用されるには、
①特定大規模災害(大規模な火災、震災その他の災害であって、その被災地において借地人の保護その他の借地借家に関する配慮をすることが特に必要と認められるもの)が発生した場合であること
②当該災害に対し適用すべき措置及び
③これを適用する地区を政令で指定すること
が必要となります。

しかし、災害が発生した場合に、この法律の存在を知っているか否かによって、採ることができる対応も大きく異なってきます。

近年、地震や豪雨をはじめとする大規模災害が頻繁に生じています。
災害はいつ起こるかわかりません。
日頃から災害の発生に備えて、このような法律や制度についてもあらかじめ知っておくことが大切です。

災害時の対応についてお悩みがある場合には、弁護士にもご相談ください。