医療法人の社員による総会招集の可否【最高裁令和6年3月27日決定】
「法人」と聞くと、会社を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。
より厳密に言えば、会社は、事業の遂行によって得られた利益を剰余金の配当や残余財産の分配等の方法によって構成に分配することを目的としている法人であり、「営利法人」に分類されます。
しかし、法人といっても、営利を目的とする法人だけではありません。
営利を目的としない法人は「非営利法人」と呼ばれおり、一般的な非営利法人としては、社団形態の法人(一般社団法人)と財団形態の法人(一般財団法人)とがあります。
営利法人は「会社法」によって定められているに対し、非営利法人は民法のほかに、「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」(一般法人法)によって定められています。
一般社団法人や一般財団法人は、登記をすることにより成立し、法人格を取得することができます。
このように法律の定める要件さえ満たせば、設立の申請や行政庁による審査等を要すること法人格が与えられる設立の方法は「準則主義」といいます。
これに対して、設立のために主務官庁等の認可を要する設立の方法は「認可主義」といい、学校法人や医療法人では認可主義が採用されています。例えば、医療法人では、医療法に基づき、主務官庁が都道府県知事とされていることから、設立するためには、医療法の法定する要件を満たすか否かについて都道府県知事の審査を経なければなりません。
さて、今回はそんな医療法人の社員総会の招集をめぐり、社団である医療法人にも一般法人法37条2項が類推適用されるか否かが問題となった最高裁決定をご紹介します。
臨時社員総会招集許可申立て却下決定に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件・最高裁令和6年3月27日決定
事案の概要
本件は、医療法人であるY法人の社員であるXさんらが、当該医療法人の理事長に対して社員総会の招集を請求したが、その後招集の手続が行われないと主張して、裁判所に対し、社員総会を招集することの許可を求めた事案です。
争点
本件では、社団たる医療法人の社員が一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(一般法人法)37条2項の類推適用により裁判所の許可を得て社員総会を招集することができるか否かが争点となりました。
本決定の要旨
本決定は、以下のとおり述べて、医療法人に一般法人法37条2項は類推適用されず、医療法人の社員が同項の類推適用によって裁判所の許可を得て社員総会を招集することはできないと判断しました。
「一般法人法は、一般社団法人の適切な運営のために、37条1項において、一定の割合以上の議決権を有する社員が理事に対して社員総会の招集を請求することができる旨規定し、同条2項において、その請求の後遅滞なく招集の手続が行われない場合などには、当該社員は、裁判所の許可を得て、社員総会を招集することができる旨規定する。
これに対し、医療法46条の3の2第4項は、医療法人の理事長は、一定の割合以上の社員から臨時社員総会の招集を請求された場合にはこれを招集しなければならない旨規定するが、同法は、理事長が当該請求に応じない場合について、一般法人法37条2項を準用しておらず、また、何ら規定を設けていない。
このような医療法の規律は、社員総会を含む医療法人の機関に関する規定が平成18年法律第84号による改正をはじめとする数次の改正により整備され、その中では一般法人法の多くの規定が準用されることとなったにもかかわらず、変更されることがなかったものである。他方、医療法は、医療法人について、都道府県知事による監督(第6章第9節)を予定するなど、一般法人法にはない規律を設けて医療法人の責務を踏まえた適切な運営を図ることとしている。
以上によれば、医療法人について、一般法人法37条2項は類推適用されないと解するのが相当である。そうすると、医療法人の社員が同項の類推適用により裁判所の許可を得て社員総会を招集することはできないというべきである。」
ポイント
問題の所在
一般法人法の定め
一般法人法第1条は、「一般社団法人及び一般財団法人の設立、組織、運営及び管理については、他の法律に特別の定めがある場合を除くほか、この法律の定めるところによる。」と定めており、一般社団法人及び一般財団法人の設立や運営等について規定しています。
会社の運営において株主総会が重要であるのと同様に、一般社団法人や一般財団法人においては、「社員総会」の開催が同法人の組織、運営、管理等のうえで重要になります。
通常、社員総会は理事によって招集されますが(一般法人法第36条3項)、同法第37条1項では、「総社員の議決権の10分の1(5分の1以下の割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の議決権を有する社員は、理事に対し、社員総会の目的である事項及び招集の理由を示して、社員総会の招集を請求することができる。」として社員による社員総会の招集について規定されています。
そして、同条第2項では、「次に掲げる場合には、前項の規定による請求をした社員は、裁判所の許可を得て、社員総会を招集することができる。」とも規定されており、①社員総会招集の請求がなされた後、遅滞なく招集の手続が行われない場合、または、②社員総会招集の請求があった日から6週間(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)以内の日を社員総会の日とする社員総会の招集の通知が発せられない場合には、裁判所の許可を得たうえで、当該社員が社員総会を招集することができるとされています。
医療法の定め
これに対して、本件で社員総会の招集が問題となったのは、「医療法人」でした。
医療法人については、医療法により定められており、同法第39条1項において「病院、医師若しくは歯科医師が常時勤務する診療所、介護老人保健施設又は介護医療院を開設しようとする社団又は財団は、この法律の規定により、これを法人とすることができる。」と規定されていることから、大きく分けて、「社団医療法人」または「財団医療法人」のいずれかの形式によってのみ医療法人を設立することができます。
そして、「社団医療法人」の場合、医療法第46条の2第1項の規定により、必ず社員総会を置かなければならず(医療法46条の2第1項)、同法第46条の3の2第4項により、理事長は、総社員の5分の1(定款でこれを下回る割合を定めた場合はその割合)以上の社員から社員総会の目的である事項を示して臨時社員総会の招集を請求された場合には、その請求のあつた日から20日以内に、社員総会を招集しなければならないとされています。
もっとも、医療法においては、同項に基づき、社員が理事長に対して臨時社員総会の招集を請求したにもかかわらず、実際に招集がされなかった場合に社員が採り得る措置についての定めがありません。
なぜ本件が問題になったか
そのため、本件のXさんらは、先ほど説明した一般法人法第37条2項が社団医療法人に類推適用されると主張し、裁判所に社員が臨時社員総会を招集することの許可を申立てたのです。
そこで、本件では、一般法人法第37条2項が医療社団法人に類推適用されるか否かが問題となりました。
本決定の判断
最高裁判所は、本決定において、一般法人法37条2項は医療社団法人に類推適用されず、医療法人の社員であるXさんらが同項の類推適用により裁判所の許可を得て社員総会を招集することはできないと判断しています。
この理由としては、
- 医療法は、理事長が社員から臨時社員総会の招集請求を受け、これに応じない場合について、一般法人法37条2項を準用しておらず、また、何ら規定を設けていないこと
- かかる医療法の規律は、社員総会を含む医療法人の機関に関する規定が数次の改正により整備され、その中では一般法人法の多くの規定が準用されることとなった(医療法第46条の3の6)にもかかわらず、変更されることがなかったものであること
- 他方で、医療法は、医療法人について、都道府県知事による監督を予定するなど、一般法人法にはない規律を設けて医療法人の責務を踏まえた適切な運営を図ることとしていること
を指摘しています。
医療社団法人の社員はどうしたらよいのか?
本決定を踏まえると、社員が理事長に対して臨時社員総会の招集を請求したにもかかわらず、理事長がこれに応じない場合、社員が泣き寝入りしなければならないようにも見えます。
しかし、補足意見として、渡邉惠理子裁判官は次のように述べています。
「私は法廷意見に賛成するものであるが、以下の点を敷衍して述べておきたい。
法廷意見は、医療法人について一般法人法37条2項は類推適用されないとするものであるが、このことは、直ちに医療法人の社員(以下、単に「社員」という。)において臨時社員総会の招集を図るために採り得る法的手段が存在しないことを結論付けるものではない。すなわち、以下のとおり、社員において訴訟手続により理事長に対して臨時社員総会の招集を命ずる旨の判決を得て臨時社員総会の招集を図ることができると考えられる。
医療法が、その現行規定上、社員に社員総会の招集権限それ自体を付与していない理由には、医療法人の責務や役割に照らし、社員による当該招集権限の濫用を防止する必要があるということが挙げられる。その一方で、医療法人の規模や経営形態、社員から臨時社員総会の招集を請求された理事長がこれに応じない理由や状況等は様々であり、社員において臨時社員総会の招集を実現させる法的手段を保障することが医療法人の適切な運営に必要である場合があることも否定できない。そして、医療法は、46条の3の2第4項において、理事長は、一定の割合以上の社員から臨時社員総会の招集を請求された場合にはこれを招集しなければならない旨を規定することによって、社員による社員総会の招集権限の濫用防止との調和を図りつつも、上記のような場合には社員が医療法人の運営に直接関与することを認めることによりその適切な運営を確保する趣旨に出たものと解される。このような同項の趣旨に照らすと、同項は、社員が医療法人の運営に関与する必要性があるというべき場合には、社員において理事長に対して臨時社員総会の招集を請求することができることとしたものと解することが相当であり、社員において臨時社員総会の招集を図るために採り得る法的手段として、訴訟手続により理事長に対して臨時社員総会の招集を命ずる旨の判決を得ることが考えられる。
なお、上記の訴訟手続によるときは、医療法が本来予定している臨時社員総会の招集を図るものであって、同法の現行規定における医療法人の社員総会に関する規律に混乱を生じさせるものではない。これに加え、上記訴訟手続は、一般法人法37条2項に基づく非訟事件手続とは異なり、理事長において、当事者として臨時社員総会の招集請求に応じない理由等を含めて主張立証を尽くすことが期待され、また、社員も理事長もその判決に対する控訴をすることができることからすれば、これらの審理を通じて、より医療法人についての適正手続を確保することができ、上記医療法46条の3の2第4項の趣旨、ひいては同法の現行規定にも整合するものということができる。
社員が理事長に対して臨時社員総会の招集を命ずる旨の判決を得た場合に、その執行方法の可否等を含め、具体的に社員がどのようにして臨時社員総会の招集を実現するかについては、今後の議論に委ねられている部分が大きいところではあるが、社員が理事長に対して臨時社員総会の招集を請求することが医療法人の適正な運営の確保に資する面があることを十分に考慮した議論がされることを期待する。」
したがって、本補足意見を参考に照らすと、社員としては、理事長に対して臨時社員総会の招集を命ずる旨の訴訟を提起し、その判決を得ることで、臨時社員総会の招集を具体化することができるのではないかと考えられます。
ただし、判決を得たあと、具体的にどのように社員総会を招集するかについては、さらに議論を呼びそうです。
弁護士にもご相談ください
本決定は、医療社団法人の社員総会に関するものでしたが、会社の運営において多くの方が気になっているのは取締役会や株主総会に関することではないでしょうか。
会社法上、取締役会や株主総会については、招集手続や決議方法などが細かく規定されており、これらに違反した場合には、決議に瑕疵があるものとして、株主等から争われるおそれもあります。
取締役会や株主総会の招集等についてお悩みがある場合には、ぜひ弁護士にご相談ください。