家事使用人の雇用ガイドラインとは?【弁護士が解説】
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令和6(2024)年2月8日、厚生労働省は「家事使用人の雇用ガイドライン」を公表しました。
家事使用人とは、簡単に言えば、家政婦(夫)紹介所から紹介を受けて、雇用主(家庭)との間で直接雇用契約を結ぶ家政婦(夫)のことです。
家事使用人は、家庭と労働契約を締結して家事一般に従事していることから、労働契約法の適用は受けていますが、一方で、労働基準法の適用除外となっています。
独立行政法人労働政策研究・研修機構が令和5(2023)年に実施した「家事使用人の実態把握のためのアンケート調査」によると、家事労働の場面では、契約の範囲外の業務を求められたり、ハラスメントを受けていたり、就業中の受傷に対する十分な補償がなされなかったりなど、さまざまなトラブルや問題が生じていることが明らかになりました。
そこで、厚生労働省は、家事使用人の就業環境の改善に向けて、「家事使用人ガイドライン」を作成することになったのです。
このページでは、今回新しく策定された「家事使用人の雇用ガイドライン」について、その概要を解説していきます。
基本的な考え方
ガイドラインの目的
家事労働の場面では、例えば、
・業務中のケガをしたのに十分な補償が受けられない・・・
・泊まり込みの契約なのに寝る場所を与えてもらえない・・・
・トイレの利用が制限されている・・・
・契約で決められた時間に終わらず残業をさせられている・・・
・突然契約を打ち切られた・・・
・ハラスメントを受けた・・・
・求められるレベルが高すぎる・・・
などといった悩みやトラブルを抱えている家事使用人の方がいらっしゃいます。
そこで、家事使用人ガイドラインは、家事使用人の労働条件の明確化や適正化、適正な就業環境の確保など基本的な事項を示すことで、各雇用主(家庭)が家事使用人と雇用契約を締結する際や家事使用人を業務に従事させる際に、労働契約の内容について家事使用人との間で十分な話し合いをすることや同ガイドラインに示す留意事項を遵守すべきことを目的として策定されています。
ガイドラインの対象者
本ガイドラインの対象となるのは、
・雇用主
・家政婦(夫)紹介所
・家事使用人
です。
雇用主とは
雇用主とは、家事使用人を雇用する方やこれから雇用しようとする方のことです。
家政婦(夫)紹介所とは
家政婦(夫)紹介所とは、事業者として、家事使用人と雇用主との間の労働契約成立をあっせんする機関のことです。
家事使用人とは
家事使用人とは、雇用主である各家庭との間で直接労働契約を締結し、その雇用主との雇用関係の下において、家事一般に従事する方のことです。
家事サービスの提供の場面では、①雇用主である各家庭との間で直接労働契約を締結する家事使用人、②家事代行サービス会社に雇用され、各家庭に派遣される方、③マッチングアプリなどを活用する個人事業主などさまざまな形態があります。
しかし、本ガイドラインにおいて対象となっている家事使用人は、労働基準法の適用除外となっている①の家事使用人です。
家事使用人に適用される労働関係等法令
雇用主と家事使用人には、一般の労働者の場合と同様に労働契約法や職業安定法、労働者災害補償保険法の一部(労災保険の特別加入に関する部分)、民法などが適用されます。
たとえば、雇用主が家事使用人との間で雇用契約を締結する場合には、労働契約法を遵守する必要があり、雇用主は使用者として、一般の労働契約における会社と同じく家事使用人への安全配慮義務を尽くすことなど、適切な雇用管理を行うことが求められます。
具体的な内容としては、
①家事使用人の就労時間が長時間とならないように労働時間を適切に管理すること、
②家事使用人に過度なストレスを与えないように業務量や業務の指示の方法を調整すること、
③階段や浴槽における転倒防止などの措置を講じること、
④機器や設備の安全な使い方を家事使用人に対して十分に説明すること
などです。
他方で、冒頭でも述べたとおり、家事使用人には、一般の労働者には適用されている労働基準法や最低賃金法、労働安全衛生法などが適用されていません。
もっとも、家事使用人が働きやすい就労環境を整えるためには、雇用主として、これらの法律に対しても意識を向け、これらの法律の水準を下回らないようにすることが大切です。
家事使用人を雇用する際の留意事項
本ガイドラインでは、雇用主が家事使用人を雇用する際に留意すべき事項として、次の5つの点を挙げています。
①労働契約の条件を明確にしましょう
②労働契約の条件を適正にしましょう
③就業環境を整えましょう
④労働契約の更新・終了の後には適切に対応しましょう
⑤保険の加入やケガなどの発生状況について確認しましょう
以下、具体的な内容について詳しく見ていきます。
労働契約の条件の明確にしましょう
まず、雇用主が家事使用人との間で労働契約を締結する場合には、家事使用人と雇用契約の内容について十分に話し合ったうえで、これを明らかにする必要があります。
たとえば、次のような内容を明らかにしておくことが求められます。
家事労働では、業務指示者が複数いる場合や、実際に家事使用人に家事労働に従事してもらう家庭とは生計を異にする家族が依頼する場合などがあります。
このような場合には、家事使用人との間で、誰からの指示を尊重して業務に従事すべきかをあらかじめ決めておくことが望ましいとされています。
このほかにも、
・雇用主が業務において求める水準を示し、家事使用人との間の認識のすり合わせを図っておくこと
・就業時間内に終えることができる業務量を設定すること
・業務で使用する物品等に関する事項について家事使用人との間で事前に決めておくこと
などが重要であるとされています。
なお、労働条件については、後の紛争を避けるためにも、書面や電子メールなど記録に残る形で伝えることが大切です。
労働契約の条件を適正にしましょう
家事労働における雇用契約においては、特に労働契約の条件をめぐりトラブルが生じます。
そのため、雇用主においては、適正な労働契約の条件を定めることが求められます。
報酬について
報酬の額
報酬額の額は、「同じような業務に従事する家事使用人の報酬や、仕事の難易度、家事使用人の能力など」を考慮して決定するようにすることが期待されています。
先ほども述べたとおり、家事使用人には最低賃金法は適用されていませんが、最低賃金を下回るような低い水準になることがないよう、適正な報酬の額を設定することが求められます。
報酬の支払方法
報酬は、家事使用人に対して、直接支払うことが原則です。
なお、支払方法について、家政婦(夫)紹介所とも相談して定めることも可能です。
また、報酬の支払日についても、「毎月1回以上、一定の期日を定めて支払いましょう」とされています。
就業時間などについて
就業時間
先ほど述べたとおり、家事使用人には、労働基準法は適用されませんが、雇用主は、家事使用人の終業時間を定めるにあたり、「1日あたり8時間、1週あたり40時間を上限とすることが望ましい」とされています。
休憩・睡眠・休憩時間、休日
家事使用人の健康管理上も、雇用主は、
・就業時間が6時間を超える場合には45分以上、8時間を超える場合には1時間以上の休憩時間を就業時間の中に設けること
・連日就業する場合の休日は、なるべく週休2日とすること
・深夜勤がある場合には、8時間以上の睡眠時間を確保できるようにするとともに、深夜勤が続いていないか、必要な休憩時間をとれているかを確認すること
を心がける必要があります。
泊まり込みの場合
泊まり込みの家事労働の場合には、雇用主は家事使用人との間で、休憩や食事の時間、入浴や睡眠の時間をいつとるかをタイムスケジュールとしてあらかじめ決めておくことが大切です。
たとえ24時間の対応を依頼するような場合であっても、就業時間は12時間程度までとして、仮に夜間に何度も対応を要する場合には、昼間の時間帯に仮眠時間を設けたり、複数交代制を設けたりするなど、過重労働を避ける工夫をする必要があります。
残業
雇用主は、就業時間内に終えることができる業務量を設定するように心がけるべきですが、場合によっては、残業が発生してしまうこともあります。
そのため、やむを得ず残業をしてもらう可能性も想定して、事前に雇用契約書の中で「残業の有無及び残業が想定される場合の時間数」を明確に示しておく必要があります。
また、雇用契約書の中で残業に関する定めがあったとしても、実際に残業をしてもらう場合には、家事使用人に対して残業の可否(都合)を確認し、きちんと同意を得た上で残業してもらうなど適切な対応方法を決めておくことも大切です。
加えて、1週あたりの就労時間が40時間を超える家事使用人(フルタイムで働く家事使用人)については、残業時間が月45時間以内になるように配慮してください。
介護保険との併用の場合
同じ方に「家事使用人」としての業務と「介護保険サービス」の双方を行なってもらう場合には、過重労働防止の観点から、雇用主はできる限り、介護保険サービスにより対応を依頼する時間を含めて、就業時間が「1日あたり8時間、1週あたり40時間」の範囲におさまるようにすることや、休憩時間を設定することなどが望ましいとされています。
労働契約の期間
労働契約書の期間を定める場合には、長くとも3年以内(満60歳以上の家事使用人の場合には5年以内)とすることが望ましいとされています。
労働契約の条件の変更
労働契約は雇用主と家事使用人との間で合意した場合、当該契約の内容になるため、労働契約の条件を変更する場合には、家事使用人との間で再度合意をする必要があります。
そのため、雇用主が労働契約の条件を変更しようとする場合には、変更の内容とその必要性について十分に説明し、家事使用人ときちんと話し合いをすることが重要です。
また、家事使用人が労働条件の変更に合理的な理由がないと考え、これに応じないとした場合であっても、雇用主は、変更に応じないことを理由として家事使用人に対して不利益な取り扱いを行わないようにしなければなりません。
家事使用人が行うことのできる業務
家事使用人は家事一般業務に従事する者であるため、業務の水準は、原則として「一般的な日常生活の範囲内で求められる家事の水準」です。
たとえば医療行為など法令上の資格がなければできない業務は、有資格者である場合を除き依頼してはなりません。
法令上有資格者でなければできない業務等 | 具体例・留意点 |
医療行為 | ・糖尿病患者のためのインスリン注射 ・注射、点滴 ・床ずれの処置 ・摘便 |
介護サービスとしての訪問看護 | ・介護福祉、実務者研修修了者、介護職員初任者研修修了者などではない方に、介護保険サービスとしての訪問看護(入浴、排泄、食事などの介護その他日常生活上の世話)を提供してもらうことはできない ・同じ方に介護保険サービスとしての訪問看護と家事使用人としてのサービスを組み合わせて行なってもらう場合には、これらを明確に区分し、別の時間帯に別のサービスとして行われる必要がある |
また、プロレベルの業務水準を強いるといった高度な家事業務や、高所作業を求めると行った危険を伴う作業などは、一律に要求することが適切ではありません。
一律に要求することが適切でない業務 | 具体例 |
高度な家事業務 | ・プロレベルの料理の提供(高度な知識や技術を必要とする業務) ・専門業者が行うレベルのエアコン、洗濯機、換気扇などの掃除、クリーニング会社が行うレベルの洗濯・アイロンがけ(高度な掃除用具などを使用する業務) |
危険を伴う作業 | ・大型家具の移動を伴う部屋の模様替え(重量物の運搬) ・炎天下での長時間にわたる草むしり、積雪時の長時間にわたる雪かき(高温・手温環境下での作業) ・高木の剪定、高層マンションの外側の窓拭き、屋根の修理、外壁の塗装(高所での作業) |
金品や財務を取り扱う業務 | 銀行口座などからの預貯金の出し入れ、現金や有価証券などの管理(金品を取り扱う業務) ・美術品・高額な家財の管理(財産を取り扱う業務) |
就業環境を整えましょう
雇用主の協力と情報提供
雇用主は、家事使用人が業務を行う上で不安を覚えることがないよう、雇用契約締結前及び雇用契約締結後も話し合いの場を設けると良いとされています。
特に業務で求める水準や雇用契約の内容に関する事項については、最もトラブルが生じやすい事柄でもることから、日頃からコミュニケーションを図り、よく話し合っておくことが求められます。
就業時間の管理
雇用主は、家事使用人との関係において「使用者」であることから、家事使用人の就業日ごとの始業・終業時刻を確認・記録し、就業時間を適正に管理することが望ましいとされています。
また、トラブルを未然に防ぐ観点からは、記録した就業時間について、家事使用人との間でも認識の共有を図っておくことが大切です。
就業場所の管理
雇用主にとって慣れている家庭内であっても、家事使用人にとっては「職場」であり、どんなところに危険が潜んでいるかわかりません。
そのため、雇用主は、どのような業務を依頼した時に転倒やケガが生じやすいかを考え、家事使用人に対して注意を呼びかけるようにする必要があります。
この他にも、
・明らかに危険な作業はさせないこと
・空調の温度や湿度は適切に設定すること
・家事使用人がいつでもトイレを利用できるようにすること
・泊まり込みや住み込みの場合には寝具などを提供し、十分な広さの就寝場所を確保すること
・プライバシーに配慮しつつ、更衣室や浴室、シャワーなどの設備を家事使用人が使うことができるようにすること
などにも留意しなければなりません。
適切な業務内容と業務量
雇用主は、あらかじめ定めた雇用契約の内容を守らなければなりません。
そのため、家事使用人に対して業務を依頼する場合には、雇用契約で定めた業務内容の範囲を超えないようにしなければなりません。
仮に、新たに依頼したい業務が出てきた場合には、雇用契約の条件の変更に該当するため、前述のとおり、家事使用人に対してその内容と必要性について十分に説明し、雇用契約の条件を変更してもらってから対応を依頼することが重要です。
また、新たに依頼する業務が、雇用契約において定めた就業時間の範囲内でおさまるものであるか否かを確認し、残業が生じた場合には、家事使用人の同意を得た上で、その対応に見合った適正な報酬を支払うなどする必要があります。
介護保険サービスとしての訪問介護を組み合わせて利用する場合
介護保険サービスと介護保険給付の対象ではないサービスを組み合わせて利用する場合には、「介護保険サービス」と、家事使用人として行なってもらう業務を含む「保険外サービス」の違いを明確化した上、それぞれのサービスについてケアプラン上において明確に位置付けられていなければなりません。
また、それぞれの業務の時間数にどれくらいの時間がかかるかについても把握しておくことが望ましいとされています。
介護保険サービスとしての訪問介護の詳細については、こちらをご覧下さい。
家事使用人からの相談や苦情を受ける担当者の明確化と解決
雇用主は、日頃から家事使用人が業務に関して相談などをしやすい就業環境を整えるとともに、家事使用人から相談や苦情を受けた場合には、話し合って自主的に解決を図るように心がける必要があります。
また、相談窓口となる担当者を決めて、事前に雇用契約の中に記載しておくことや家事使用人が家政婦(夫)紹介所に対して苦情を申し入れた際に、協力して解決を図ることなども求められます。
その他の留意事項
家事使用人の方からは、「ハラスメントを受けた」との声も聴かれています。
当然ながら家事使用人に対するハラスメントは絶対に許されないものです。
この他にも、
・金品や貴重品など触れてはならないものがある場合には、事前にその旨を伝え、雇用主でこれを管理するなどの工夫をすること
・就業場所などにおいて家事ケガをした場合には、家事使用人との間でその原因と補償について話し合うこと
・家事使用人から複数の家庭で勤務しているとの申し出があった場合には、勤務状況や健康状態などを考慮し、柔軟な対応をとること
なども大切です。
労働契約の更新・終了の際には適切に対応しましょう
雇用契約の更新
家事使用人との雇用契約に期間の定めを設けている場合(有期雇用契約の場合)には、自動更新の条項が入っていない限りは、契約期間の満了日に契約が終了するのが原則です。
しかし、有期雇用契約が5年を超えて更新された場合、家事使用人からの申込みにより期間の定めのない雇用契約(無期雇用契約)に転換されるルール(無期転換ルール)があります。
家事使用人が雇用主に対して無期転換の申込みをした場合には、無期雇用契約が成立し、雇用主はこれを拒絶することができません。
したがって、家事使用人から無期転換の希望があった場合には適切に対応できるよう、無期転換ルールについて確認しておくことが大切です。
雇用契約の終了
雇用主として、家事使用人の業務水準や能力に不満があるときなどには、家事使用人に辞めてもらいたいと考えることもあるかもしれません。
しかし、雇用主は家事使用人の「使用者」であるため、雇用契約を一方的に終了させることは、一般の労働者と同じく「解雇」に当たります。
また、有期雇用契約の場合に、契約を更新せず契約期間の満了日にこれを打ち切ることは、「雇止め」に当たります。
無期雇用契約の解雇は、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると認められない限りは有効と判断されません。
また、有期雇用契約の雇止めについても、実質的に無期雇用契約と変わらない状態に至っている雇用契約である場合や、反復的に雇用契約が更新されている実態、雇用契約を締結する際の経緯などから家事使用人に雇用継続に対する合理的な期待が認められる場合には、雇止めが無効と判断されることがあります。
そのため、まずは家事使用人との間で十分な話し合いをしたうえで、円満に解決できるように努めることが大切です。
やむを得ず解雇や雇止めをする場合であっても、家事使用人が突然仕事を失い生活に困ることがないよう、
・家事使用人との雇用契約を終了させようと考えているときは速やかに(目安としては30日前までに)その旨を家事使用人に対して伝えるか、30日分以上の予告手当を支払う
・家事使用人が解雇や雇止めの理由の開示を求めたときは、その理由を説明する
といった真摯な対応が求められます。
保険の加入やケガなどの発生状況について確認しましょう
保険の加入状況について
家事使用人に関係する保険には、①損害保険と②災害補償保険の2種類があります。
雇用主は、家事使用人または家政婦(夫)紹介所に対して、事前にどのような保険に加入しているかを確認し、万一のケガなどの場合に備えておくことが重要です。
保険の問い合わせ先について
家事使用人は、労災保険(特別加入)や民間保険などについて、家政婦(夫)紹介所を経由して加入している場合が多いことから、保険の内容や費用などの詳細情報について確認したい場合には、まず家政婦(夫)紹介所に確認するのがよいとされています。
また、楼台保険の特別加入については、家政婦(夫)紹介所などが特別加入団体となっている場合に、家政婦(夫)紹介所を通じて行うことができるため、加入手続については、まずは家政婦(夫)紹介所に対して、特別加入団体となっているかなどを含めて問い合わせてみてください。
ケガなどの発生状況の確認について
家事使用人が実際に家事労働の就業場所においてケガをしてしまったなどの場合には、ケガの原因や発生状況について、雇用主が家事使用人と具体的に確認することが大切です。
特に家事使用人が労災保険の特別加入をしている場合には、当該災害の原因や発生状況を証明する書類を詳細に記載する必要があります。
また、その他の場合であっても、家事使用人に対して十分な補償を行う観点や今後の事故発生を未然に防ぐ観点から、ケガの原因や発生状況について詳しく確認することは非常に重要です。
家政婦(夫)紹介所の留意事項
家事使用人の直接の雇用主体は各家庭になりますが、家事使用人の就業環境を整える観点からは、雇用主と家事使用人との間の契約成立をあっせんする家政婦(夫)紹介所の理解と協力も不可欠です。
そのため、家政婦(夫)紹介所では、以下の事項について留意し、積極的な支援を行うことが期待されます。
募集(契約前)段階について
家政婦(夫)紹介所は、職業安定法第5条の3に基づき、雇用主と家事使用人との間の労働契約の成立をあっせんする場合には、労働条件を明示しなければなりません。
また、家事使用人の募集を行う場合には、募集情報を的確に表示する必要もあります(同第5条の4)。
職業安定法
第5条の3(労働条件等の明示)
① 公共職業安定所、特定地方公共団体及び職業紹介事業者、労働者の募集を行う者及び募集受託者並びに労働者供給事業者は、それぞれ、職業紹介、労働者の募集又は労働者供給に当たり、求職者、募集に応じて労働者になろうとする者又は供給される労働者に対し、その者が従事すべき業務の内容及び賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。
② 求人者は求人の申込みに当たり公共職業安定所、特定地方公共団体又は職業紹介事業者に対し、労働者供給を受けようとする者はあらかじめ労働者供給事業者に対し、それぞれ、求職者又は供給される労働者が従事すべき業務の内容及び賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。
③ 求人者、労働者の募集を行う者及び労働者供給を受けようとする者(供給される労働者を雇用する場合に限る。)は、それぞれ、求人の申込みをした公共職業安定所、特定地方公共団体若しくは職業紹介事業者の紹介による求職者、募集に応じて労働者になろうとする者又は供給される労働者と労働契約を締結しようとする場合であつて、これらの者に対して第一項の規定により明示された従事すべき業務の内容及び賃金、労働時間その他の労働条件(以下この項において「従事すべき業務の内容等」という。)を変更する場合その他厚生労働省令で定める場合は、当該契約の相手方となろうとする者に対し、当該変更する従事すべき業務の内容等その他厚生労働省令で定める事項を明示しなければならない。
④ 前三項の規定による明示は、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により行わなければならない。第5条の4(求人等に関する情報の的確な表示)
① 公共職業安定所、特定地方公共団体及び職業紹介事業者、労働者の募集を行う者及び募集受託者、募集情報等提供事業を行う者並びに労働者供給事業者は、この法律に基づく業務に関して新聞、雑誌その他の刊行物に掲載する広告、文書の掲出又は頒布その他厚生労働省令で定める方法(以下この条において「広告等」という。)により求人若しくは労働者の募集に関する情報又は求職者若しくは労働者になろうとする者に関する情報その他厚生労働省令で定める情報(第三項において「求人等に関する情報」という。)を提供するときは、当該情報について虚偽の表示又は誤解を生じさせる表示をしてはならない。
② 労働者の募集を行う者及び募集受託者は、この法律に基づく業務に関して広告等により労働者の募集に関する情報その他厚生労働省令で定める情報を提供するときは、正確かつ最新の内容に保たなければならない。
③ 公共職業安定所、特定地方公共団体及び職業紹介事業者、募集情報等提供事業を行う者並びに労働者供給事業者は、この法律に基づく業務に関して広告等により求人等に関する情報を提供するときは、厚生労働省令で定めるところにより正確かつ最新の内容に保つための措置を講じなければならない。
職業安定法
このほかにも、家政婦(夫)紹介所は、
・初めて家事使用人を雇用する家庭に対しては、家事使用人を募集する段階で、家事使用人の標準的な水準(最低賃金を下回らない適切な水準)を示し、報酬水準を理解してもらうこと
・家政婦(夫)紹介所はあくまでも契約成立のあっせんをする機関であることを説明し、各家庭に雇用主としての自覚をもってもらうこと
が大切です。
契約段階について
家政婦(夫)紹介所は、雇用主となろうとする者(各家庭)と家事使用人が雇用契約を締結する際には、
・雇用契約書作成の参考になるよう、本ガイドラインの主な記載事項を盛り込んだ厚生労働省HP掲載の労働契約書の様式や労働契約書の記載例(18-19頁)を紹介すること
・家事使用人に対して、一般的に家庭の中で働く場合のケガをしやすい場所や業務に就いて事前に共有し、注意を促すこと
・労災保険(特別加入)や加入可能な民間保険について紹介するようにすること
・雇用主と家事使用人の相性(雇用主が求める業務内容と、家事使用人のスキルや経験、家事使用人が希望する業務内容などが相互に適切に対応しているかなど)を確認し、相互にミスマッチが生じないような配慮をすること
などが求められます。
その他の留意事項
また、家政婦(夫)紹介所は、職業安定法など法令に定める事項以外についても、雇用主が本ガイドラインに示す事項について留意するように支援したり、家事使用人から相談や苦情を受けた際には、家事使用人から十分に話をきいたうえで早期解決を図るように努めたりすることも大切です。
まとめ
家事使用人の方は家事労働の現場でさまざまなトラブルや悩みを抱えています。
しかし、直接の雇用主に対しては、なかなか不満や相談をすることが難しく、抱え込んでしまうこともあります。
雇用主としては、家事使用人の「使用者」であるとの自覚をもって、本ガイドラインで示されている
などの留意事項に注意するとともに、日頃から家事使用人が相談しやすい環境や働きやすい環境を整えていくことが求められます。
弁護士にもご相談ください
本ガイドラインでは、家事使用人から相談や苦情を受けた場合に、雇用主として十分な話し合いをしたうえで、自ら解決することが望ましいとされています。
しかし、なかなか不満や悩みを抱えている家事使用人に対して、どのように話をしたらよいのか、話し合いの際にどのような点に注意すべきかなどについては分からないことも多いのではないでしょうか。
このようなときには、家政婦(夫)紹介所に対して協力を求めるだけでなく、弁護士にも相談してみることがおすすめです。