労働問題

ユニオンから団体交渉の申し入れがきたら 〜労働組合対応〜

中小企業の多くは自社に労働組合がないことが多いと思われます。自社に労働組合がないからといって労働条件などに関し、団体交渉がなされないわけではありません。近年、合同労組(いわゆるユニオンといわれるもの)が盛んであり、合同労組から団体交渉を申し込まれることがあります。

合同労組(一般にユニオンの名称が知られていますので以下では「ユニオン」という名称を用います)とは、一定地域内に組織される労働組合をいい、誰でもが個人で加入できる労働組合です。ユニオンも労働組合法2条の要件を満たしていれば労働組合として団体交渉権を有しています。

ユニオンから団体交渉の申入れがなされた場合には、その申入れを正当な理由なく拒否すると不当労働行為(労働組合法7条2号)となりますので誠実に対応する必要があります。

以下では団体交渉を申し込まれた場合の心得について解説いたします。

団体交渉にあたっての初期対応

上記で述べたとおり、団体交渉の申入れに対しては正当な理由なく拒否できません。したがってその申入れを放置する、反射的に拒否するなどということがあれば事態は悪い方向へ向かいます。通常は団体交渉の申入書という書面で交渉の申入れがあります。

まずは団体交渉の申入書にかかれている主張、要求は何かを正しく理解し、かかる主張されている事実の確認を行う必要があります。そのうえで、会社側としての回答・反論とその根拠の準備を行います。

また申入書に書かれている交渉の日時、場所について会社として対応できない場合には、ユニオンと事前に折衝し、実のある団体交渉となるようにすべきです。あまりにも提示された日程が迫っており準備ができない場合には、必要な準備期間を明示して日程調整を行う必要があります。

日時・場所・人数などを決める

申入書に提示されている日時・場所で必ず応じなければならないものではありません。会社としても準備に必要な期間もあるため、事前交渉で日程を調整します。時間についても、就業時間に行うと組合員本人の賃金が発生しますので就業時間外で行うことが望ましいでしょう。

場所についても特に決まりはありませんが、会社やユニオンの事務所で交渉しますと時間が長くなりがちで、その日の交渉時間について目処もつきにくくなりますので、外部の会議室などを借りるのが適当だと思われます。

また交渉の人数ですが、お互い必要以上に多数の人員が押しかけ、冷静な討議ができなくなるのは不毛な交渉といわざるを得ません。事前にある程度交渉の人数のルールを決めておくことが望ましいでしょう。

交渉に臨む

交渉当日は、会社側としては発言者を決めておくことがいいでしょう。興奮して他の者が横槍をいれたりしないよう注意が必要です。ユニオン側から罵声などが浴びせられることもありますが、そこは我慢をしてむしろ冷静になって対処する必要があります。売り言葉に買い言葉にならないよう心がけましょう。

また交渉にあたっては録音をして交渉内容を記録し、議事録を作成することが望まれます。議事録については、ユニオン側が作成していたとしても、会社側も作成すべきです。会社に不利な事項が記載され、既成事実化することを防ぐことができます。

交渉を積み重ねる。

初回の交渉で協議がまとまればいいですが、初回でまとまることは少ないと思われます。労働組合からの要求に対しては、会社側としては誠実に交渉すべき義務(以下「誠実交渉義務」といいます)がありますが、労働組合の要求を飲まなければならない義務まではありません。労働組合の要求や主張に対し、即答・即断できなければ持ち帰って検討すべきです。

会社としては説明を尽くし、根拠を示して労働組合との妥結点を探り、妥結できる場合には、労働協約を締結することになります(労働基準法14条)。

団体交渉が決裂する場合

交渉を積み重ねても、妥結点を見いだせずに決裂することもあります。ただ注意しなければならないのが、会社側には前述したとおり、誠実交渉義務がありますので、労働組合側が主張する要求について合意に至る見込みが乏しくても、会社側としては会社の主張の論拠を説明し、資料の提示をするなどして説明をつくさなければなりません。誠実交渉義務を尽くさずに交渉を打ち切ると不当労働行為にあたるとして労働委員会から救済命令がだされることもあります。

最高裁判例令和4年3月22日判決も、「使用者が誠実交渉義務に違反する不当労働行為をした場合には,当該団体交渉に係る事項に関して合意の成立する見込みがないときであっても,労働委員会は,誠実交渉命令を発することができると解するのが相当である。」と判断しています。

中小企業の多くが団体交渉を行う経験がないことが多いと思います。団体交渉を申し込まれた場合には、拙速な対応をすると傷口を広げることにもなりかねません。団体交渉を持ち込まれたら、まずは弁護士に対応について相談することをおすすめします。