約款とは?契約と約款の関係や定型約款についての解説【改正民法】
普段、私たちは社会生活の中で、常に誰かと契約をし、その履行を受けています。
電車を利用したり、物の配送をお願いしたり、保険に加入したりすることももちろん契約ですが、これらの事業者といちいち交渉をして条件を決めて、などということはしていません。利用者はサービスを利用することで、事業者が決めたルールに従うという同意をしたとみなすことで、円滑な取引を快適に行うことができているわけです。
今回は、このように大量で円滑な取引の実現のためのルールである「約款」について説明します。
約款とは
大量に同じ取引を、迅速かつ効率的に行うため、定型的な内容の取引条項をあらかじめまとめたものが「約款」(普通取引約款)です。
利用する人によって取引条件が変わることがなく、一元的な処理をすることで合理化・効率化を図っていくことになります。
約款の主な例としては次のようなものがあります。
- 旅行業約款
- 運送約款
- 宿泊約款
- 旅客運送約款
- 宅配運送約款
- 保険約款
- 建築請負約款
- 預金規定
約款による契約では、契約条件について個別に交渉することを予定しておらず、利用者としては、これを利用するかどうかの選択肢しかありません。
定型約款とは
これまで、「約款」に関する法律上の規定はなく、裁判例の積み重ねでルールの解釈が蓄積されていく状況でした。今回、2020年4月に施行された民法の改正によって、約款の一部が「定型約款」として規定されることになりました。
定型約款とは、定型取引(ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なもの)において、「契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体」をいいます。約款の中でこの定義に当てはまるものが「定型約款」ですので、定型約款ではない約款もあります。
第548条の2
定型取引(ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なものをいう。以下同じ。)を行うことの合意(次条において「定型取引合意」という。)をした者は、次に掲げる場合には、定型約款(定型取引において、契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体をいう。以下同じ。)の個別の条項についても合意をしたものとみなす。
一 定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたとき。
二 定型約款を準備した者(以下「定型約款準備者」という。)があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していたとき。2 前項の規定にかかわらず、同項の条項のうち、相手方の権利を制限し、又は相手方の義務を加重する条項であって、その定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして第一条第二項に規定する基本原則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるものについては、合意をしなかったものとみなす。
民法
これを分解すると次のとおりになります。
定型約款 | 定型取引 | ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引(不特定多数取引要件) |
その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なもの(双方合理的画一性要件) | ||
契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体 |
定型約款の個別の条項に合意したとみなされるとき
この定型約款は、次の場合に、個別の条項についても合意したものとみなされます。
定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたとき(組入要件)
- 契約書の「約款の定めによる」などの規定があるとき
- ECサイトなどで「利用規約へ同意する」ボタンをクリックするとき
などがこれにあたります。
サイトで「利用規約を読んだ上、先に進みます」などにチェックを入れて進むと、規約の条項が契約の内容になります
定型約款を準備した者(「定型約款準備者」)があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していたとき
- 約款と一緒に申込書を交付していたとき
- ECサイトなどで「利用規約」が表示されていたとき
などがこれにあたります。
定型約款準備者があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を公表していたとき
公共性の高い取引で、あらかじめ「表示」することすら難しいケースです。
- 鉄道・バス等旅客運送取引(鉄道営業法18条の2)
- 高速道路の通行に関する取引(道路運送法87条)
- 航空運送事業による旅客運送取引(航空法134条の4)
などがこれにあたります。
不当な条項はどうなる?
定型約款は、上のような要件を満たせばそれに合意したものとみなされてしまうため、利用者にとって思いもかけない不当な内容であったとしても、文句が言えないことになりかねません。
そもそも定型約款は、大量の同種取引のスムーズに行うことで社会経済全体の円滑化を実現するためのものですから、利用者を不当に不利益に、あるいは事業者を不当に利益に作用させることはかえって取引の安定を阻害することにつながります。
そこで、民法は定型約款であったとしても、「相手方の権利を制限し、又は相手方の義務を加重する条項であって、その定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして第一条第二項に規定する基本原則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるもの」については、「合意をしなかったものとみなす」として、そもそもみなし合意から除外するとしています。「無効」ではなく、そもそも合意の対象にならないという建て付けです。
具体例としては、
- 理由を問わず事業者(定型約款準備者)の責任を免除する規定
- 事業者がその役務の提供を任意にしてしまう条項
などがこれに該当します。
その他、定型取引の態様や実情、社会通念に照らして判断されますので、状況や時代によっても判断が変わる可能性があります。
また、利用者が望まない契約を抱き合わせで契約することを強制するなど、利用者の不意打ちになる条項も、このみなし合意から除外されるとされています(不意打ち条項)。
定型約款の内容を確認したいときは
定型約款の内容を確認したいときは、事業者(定型約款準備者)に対して、定型取引合意の前又は定型取引合意の後相当の期間内に、定型約款の開示を求める必要があります。定型取引合意前に、定型約款を記載した書面を交付し、またはこれを記録した電磁的記録を提供していたときは、事業者は取引時や取引後に開示をしなくてもよいことになっています。契約書とともに定型約款の冊子を同封していたり、PDFなどにより送信していたときがこれにあたります。
こうした開示を求めることなく定型取引の合意をしたときには、定型約款は契約内容になります。
定型約款の内容を確認したいときは、遅くとも合意の後速やかに開示を求めましょう
なお、通信障害など正当な事由がある場合を除いて、事業者が定型取引前の開示を拒んだときは、定型約款は契約内容となりません。
第548条の3 定型取引を行い、又は行おうとする定型約款準備者は、定型取引合意の前又は定型取引合意の後相当の期間内に相手方から請求があった場合には、遅滞なく、相当な方法でその定型約款の内容を示さなければならない。ただし、定型約款準備者が既に相手方に対して定型約款を記載した書面を交付し、又はこれを記録した電磁的記録を提供していたときは、この限りでない。
2 定型約款準備者が定型取引合意の前において前項の請求を拒んだときは、前条の規定は、適用しない。ただし、一時的な通信障害が発生した場合その他正当な事由がある場合は、この限りでない。
民法
定型約款を変更するときはどうする?
定型約款は多数の取引を行うことを目的としています。定型約款を用いて多数の契約をした後でその定型約款を変更したいとき、過去に契約した人それぞれに対して個別に合意を取っていくことは現実的ではありません。その反面、自由に変更ができるとなるとそれはそれで取引の相手方の権利をないがしろにしかねず、これも適当ではありません。
そこで、民法は、次の一定の要件を満たせば、変更後の定型約款の条項についても合意したものとみなし、個別に相手方と合意をすることなく変更が認められるとしました。
- 定型約款の変更が、相手方の一般の利益に適合するとき。
- 定型約款の変更が、契約をした目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、この条の規定により定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無及びその内容その他の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき。
定型約款を変更するときは、その効力発生時期を定め、かつ、定型約款を変更する旨及び変更後の定型約款の内容並びにその効力発生時期をインターネットの利用その他の適切な方法により周知しなければならない、とされています。この周知をしない場合は、変更の効力は生じません。
民法548条の4
定型約款準備者は、次に掲げる場合には、定型約款の変更をすることにより、変更後の定型約款の条項について合意があったものとみなし、個別に相手方と合意をすることなく契約の内容を変更することができる。
一 定型約款の変更が、相手方の一般の利益に適合するとき。
二 定型約款の変更が、契約をした目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、この条の規定により定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無及びその内容その他の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき。
2 定型約款準備者は、前項の規定による定型約款の変更をするときは、その効力発生時期を定め、かつ、定型約款を変更する旨及び変更後の定型約款の内容並びにその効力発生時期をインターネットの利用その他の適切な方法により周知しなければならない。
3 第一項第二号の規定による定型約款の変更は、前項の効力発生時期が到来するまでに同項の規定による周知をしなければ、その効力を生じない。
4 第五百四十八条の二第二項の規定は、第一項の規定による定型約款の変更については、適用しない。
民法
定型約款ではない約款
上記の定型約款の定義に当てはまらない合意ももちろんあります。
労働契約などは、その対象者の個性に着目して行う契約ですので、不特定多数の者を相手方として行う取引とはいえず、定型約款にはあたりません。「ひな型」と呼ばれるものについても、個別の交渉によって修正が予定されるのであれば定型約款の定義には当てはまりません。
定型約款に当たらない条項については、民法上の定型約款の規定が適用になるものではありません。個別の条項に従って法解釈がなされることになるでしょう。
弁護士に確認を
普段なかなか利用規約などの約款を確認している人は少ないのではないでしょうか。
約款の内容が気になるときは、契約開始時よりも、止めたいときやトラブルになったときのほうが圧倒的に多いといえます。
しかしながら、法律上は、後から定型約款を見せてくれといっても開示を受けられない可能性があります。
定型約款は実際に内容を確認していようがしていまいが、組み入れられたら合意したものとみなされてしまいます。もし約款の内容に不安があれば弁護士に相談してみることをオススメいたします。