契約のいろは

契約書を作成するときに気を付けるべきこと【契約書作成の留意点】【弁護士が解説】

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契約書とは

契約とは、複数の当事者の意思表示が合致することにより成立する法律行為です。一方の当事者が他方の当事者に「申込み」、他方の当事者がこれを「承諾」した場合に成立します。

民法第522条 
契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。)に対して相手方が承諾をしたときに成立する。
2 契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない。

民法

たとえば、
売買契約であれば、「この商品を買って下さい」というお店側の申込み、「買いますよ」というお客さんの承諾

賃貸借契約であれば「この部屋を貸してください」というお客さんの申込み、「貸しますよ」という大家さんの承諾

で成立しています。

普段、誰かとの間で無意識に行っているはほとんどが契約なんですね。

契約をわざわざ書面にする意味

契約は、あくまでも両者の意思表示が合致すれば成立するため、原則として口約束であっても契約は成立します

確かにいちいち店でモノを買ったり、(最近はありませんが)切符を買ったりするときに、契約書を作らないのが通常ですよね。

では、ビジネスにおいて契約書を作らないとどうなるか。「あそこの取引先は何十年も付き合ってるので、いちいち書面にしなくても大丈夫だよ」と思っているケースも非常に多く残っています。

ビジネスの現場で、「売りましょう」「買いましょう」という双方の意思表示だけを行った場合、どんな困ることが考えられるでしょうか。

  • あれ?頼んだものと違うぞ。個数も違うぞ。
  • まだ届かないけどいつまでに届けてくれるんだっけ?
  • そもそも商品は送ってくれるんだっけ?取りに行かなきゃいけないんだっけ?
  • お金をまだもらってないけど、いつ請求したらいいんだ?
  • あれ?先方さん、倒産だって?聞いてないよ!
  • 商品に不備があって、うちのお客さんに迷惑をかけてしまった!
  • そもそもそんな契約したっけ?
  • 裁判したいけどどこに訴えればいいんだ?

こうした事態が発生したときにどうするかまで、お互いに考えが一致しているとは限りません。
本当は、事前にこうしたことまで細かく「合意」をしておかなければ、「こうだったはずだ」「いや、そんなはずがない」とのちのち揉めることになるのです。

契約を始めたときは円満でも、揉めたときは円満であるはずがありません。そうすると、冷静な話し合いも難しくなってしまうケースもあります。揉めてから決めるのでは遅いのです。

あらゆることを想定して、「こうなったらこうしましょう」と事前に取り決めをして、後日その取り決めを分かるようにしておくのが契約書の役割です。裁判になったときでも、「契約時点でこういう合意をしていました」と裁判所に分かってもらうためにも、契約書は必要不可欠です。

細かいことは法律に書いてあるから契約書はいらないのでは?

法律にくわしい人ならこう思うかも知れません。

「あれ?そういう細かいことは民法などの法律にキチンと書いてあるから、わざわざ合意をする必要はないのでは?」

よくご存じで。裁判の管轄、損害賠償の範囲(民法416条)、売買契約であれば契約不適合責任(民法562条、563条)、危険の移転(民法567条)など、一般的な場合の原則については、既に法律に記載があります。

しかしながら、だからといって契約書が不要になるというものでもありません。
民法等の原則は、当事者間の特別な定めがない場合に適用されるもの(一部例外はあります)であって、当事者間で「特別の定め」をしたかどうかは争いになり得ます。
また、民法等の規定はあらゆる場面を想定した一般的抽象的なものにならざるを得ないので、この事例において適用になるか、また適用になるとしてその適用の仕方などが争いとして残ることもあります。

そうか、「違う取り決めをしたか」どうかや、「この条項が適用になる場面か」どうかも意見が食い違うことがあるのか。

このように、あくまでもこの契約においてどのように合意したかを書面に残しておくことは極めて重要なのです。

契約書作成の流れ

では、契約書の作成に至るまでにはどのようなプロセスがあるのでしょうか。
すでに解説したとおり、契約は、契約当事者の意思が合致することで成立するものであり、契約書は、その内容を書面に記して明らかにするものです。
したがって、契約書を作成するためには、そもそも当事者の間で契約の内容が明らかになっていなければなりません。
そこで、契約書を作成して契約を実際に締結するまでには、時間をかけて次のようなプロセスを踏んでいく必要があります。

契約書に記載すべき事項

契約書の体裁

契約書の書き方それ自体に決まりはありません。
したがって、契約書は原則として自由に記載することができます。
しかし、実務上で使われる契約書の形式を覚えておくと全体としてもわかりやすい構成となり、当事者間で解釈の疑義が生じるリスクを減らすことができます。

表題

表題とは、契約書のタイトルにあたるものです。
たとえば売買契約なら「売買契約書」、賃貸借契約なら「賃貸借契約書」、業務委託契約なら「業務委託契約書」、請負契約なら「請負契約書」と記載されることになります。

表題を記載しておくことで、一見して契約書がどんな内容の契約を記すものであるかを理解することができるようになります。

もっとも、契約の評価は本文で決まります。表題と本文に矛盾がある場合、混乱を招くことになりますので、表題は慎重につけるようにしましょう。

前文

前文とは、契約の当事者を表示する部分です。
「株式会社A(以下「甲」という。)と株式会社B(以下「乙」という。)は・・・」というように当事者を表記することで、以下の条項において「甲」や「乙」が示す対象がいずれの当事者であるかを明らかにすることができます。

本文

本文とは、契約の具体的な内容を示す部分です。
契約書作成のプロセスにより当事者間で具体的に定めた契約の内容が示されます。
この部分は契約の中枢を成す最も重要な部分でもあります。

後文

後文とは、契約書を何通作成し、それをいずれの当事者が所持しているかを表すものです。
一般的には、契約の当事者の人数分を作成し、それぞれの当事者が所持することになります。

電子契約による場合、電子契約によって電子署名を施した旨を記載することになります。

作成年月日および署名押印

契約書の最後には日付欄と署名押印欄を設けます。

日付を記載することで契約の効力発生日を明らかにすることができ、いつの時点で当事者間の契約が成立したといえるかを明確にすることができます。

電子契約の場合、電子署名を行った日が「タイムスタンプ」として自動的に記録されます。

印紙税について

印紙税法により、一定の契約の場合、収入印紙を貼付する必要があります。契約書で記載された契約金額によって貼るべき印紙額が変わってきます。
すべての契約に必要であるというわけではありません。

また、電子契約の場合、印紙税は不要とされています。

本文に記載すべき事項

契約書の本文に記載すべき事項は多岐にわたります。
まず、目的物や目的物の引渡し方法、引渡しの時期、仕事の内容、対価、支払い方法などの契約書の本質的な事項の記載は必須です。
たとえば、売買契約であれば売買の対象となる目的物、その引渡方法や時期、所有権の移転時期、代金、代金の支払い方法や時期、業務委託契約であれば委託する業務の内容や報酬額、その支払い方法や時期といったように、それぞれの契約類型ごとに欠かすことのできない要素があります。

また、契約が履行されなかった場合に備えて、損害賠償に関する規定や契約解除の規定など契約違反に関する事項も必要です。
そのほかにも、紛争が生じた場合の裁判所の管轄の規定、秘密保持の規定など考慮すべき規定は多数存在します。

契約書作成の際に気をつけるべきポイント

内容が明確で簡潔か?

契約書は、当事者にとって重要な権利や義務について定めることで、後日の紛争を回避するためのものになります。したがって、その意味内容は明確で、かつ簡潔でなければなりません。次のような点を意識してチェック、作成する必要があります。

文言が明確で一義的か

契約当事者が疑義を生じないよう、条項の文言は一義的なものであること(複数の解釈ができないこと)が求められます。

主語が明確か、主語と述語が対応しているか、使う用語に他の意味がないか、別の意味にとれる表現になっていないか、などに注意して下さい。

条文相互間に矛盾がないか

契約書の分量が多くなると、条文相互間で矛盾する内容になることがあります。また、どこかで手に入れた契約のテンプレートを使って加除修正をしていくと、このような矛盾が生じることがままあります。

このように条文相互間で矛盾が生じてしまうと、どちらの条文が優先して適用されるのかが争いになります。

もちろん、あえてこれまでの取り決めと異なる取り決めをすることもあります。その場合、どちらが優先するかを明記しておく必要があるでしょう(例:取引基本契約と個別契約に矛盾がある場合、個別契約を優先する、という規定)。

必要な条文が抜けていないか。不要な条項はないか。

本来必要な条文が入っていないことで、できたはずの権利行使ができなかったり、本来回避できた責任を負ったりする可能性があります。条文に「抜け」がないかをよく確認する必要があります。

また、意味のない条項が残っていることで、当事者間で余計な解釈の争いになったり、他の条項と矛盾が生じたりすることがあります。不要な条項は記載しないようにしましょう。

もっとも、例えば、直接的に権利義務を規定するわけでもない「目的」の記載などは、他の条文の解釈指針になりますので、むしろこれは明確に記載しておく必要があります。

なお、人間は、「書いてあるもの」の間違いを探すのは得意ですが、「書いてないもの」を発見することは非常に苦手です。複数人でチェックをしたり、AIによるチェックを利用するのも解決手段の1つです。

バランスに気を配れているか

経済的利益とリスクに見合った契約書

これから契約をしようとする経済的規模やリスクの大きさに応じて、適切な契約書を作成することが必要になります。100円の取引なのか、10億円の取引なのかで、その意味やリスクの重みが大きく異なるのはご理解いただけるでしょう。100円の取引に何時間もかけて契約書を作っても、実現できる権利や回避できるリスクはたかが知れています。

ただ、経済的な金額自体はゼロまたは少額でも、リスクが大きければしっかりと契約書を作成する必要があります(秘密保持契約等)。

適切なバランス感覚で契約書を作成しましょう。

過剰に有利になっていないか

契約書を作成するに当たっては「自社に不利になっていないか」という視点で確認することがほとんどだとおもいます。

しかし、忘れていただきたくないのが「過剰に有利になっていないか」という点です。契約当事者関係というのは完全にイーブンということはありえず、大なり小なりパワーバランスがつきものです。契約を断るに断れない立場の会社や消費者もいます。

強い立場の当事者が過剰に有利な契約をしてしまうと、下請法や不正競争防止法、消費者契約法などに違反すること(ペナルティーまでありえます)になったり、個別の条項が無効とされてしまったりすることがあり、本来実現しようと思っていた利益を得られないどころか、かえって不利益が生じることもあり得ます。

そこまでいかなくとも、一方的に有利な取引というのは長く続かないものです。相手の利益にも配慮した契約を心がけましょう。

契約書作成を弁護士に依頼するメリット

売買契約や賃貸借契約のような定型的な契約については、契約のテンプレートを無料でダウンロードすることができる場合もあります。

しかし、いわゆるサンプルとして市場に出回っているテンプレートを使ってしまうと、本来ケースバイケースであるべき個別具体的な契約に対応し難い契約書になってしまいます。
契約書は、「オーダーメイド」での作成が、契約当事者がその契約において本当に実現しようとしている利益が最大化できるのです。

また、契約書は、万が一契約の当事者間でトラブルが生じ、裁判となった場合には重要な証拠ともなることから、一義的な契約書を作成することで契約当事者に予測可能性を与え、紛争を未然に防止することにつなげることができます。

このように、契約書は、予防法務的機能と紛争が生じた場合の重要な証拠という一面とを有する重要書類です。
したがって、安易にテンプレートなどを用いるのではなく、法律の専門家として、訴訟対応はもちろん、訴訟などに至るまでの段階をも熟知している弁護士に契約書の作成を依頼することがおすすめです。

契約書作成は是非弁護士法人ASK川崎に

当事務所は、さまざまな契約類型の契約書の作成について実績と経験があります。
契約書を作成される際には、ぜひ弁護士法人ASK川崎までご相談、ご用命ください。

また、当事務所は契約書のレビューも承っております。
「取引先からこんな契約書を渡されたけど、自社に不利益な点はない?」「この契約書をそのまま受け入れて大丈夫?」などのご相談もぜひ当事務所までお寄せください。

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