労働問題

請負工事の個人作業者は労組法上の労働者にあたるのか?【国・中労委(ワットラインサービス)事件】

当社は、電気メーターの物流などを行う会社です。一般のお宅に訪問して電気メーターの設置などを行うのですが、この作業は当社と業務委託契約をした作業員にお願いしています。このたび、作業員がユニオンに加入し、当社に対して団体交渉を申し入れてきました。この作業員は、当社の従業員ではなく労働組合に加入する権利がないと思うので団体交渉を拒否しようと考えているのですが、問題ありませんか?
労働組合法上の「労働者」とは、「職業の種類を問わず、賃金、給料、その他これに準ずる収入によって生活する者」と定義されています。労働基準法上の労働者が、「(事業に)使用される者で、賃金を支払われる者」とされていることとの対比で、必ずしも第三者に「使用される」必要はありません。
この作業員の方が労働組合法上の労働者にあたるかどうかは、〈1〉事業組織への組入れ、〈2〉契約内容の一方的、定型的決定、〈3〉報酬の労務対価性、〈4〉業務の依頼に応ずべき関係、〈5〉広い意味での指揮監督下の労務提供、一定の時間的場所的拘束、〈6〉顕著な事業者性などを総合的に考慮して判断されます。
この判断基準により、労働組合法上の「労働者」に当たると判断された場合は、団体交渉を拒絶することが不当労働行為になってしまいますので、注意が必要です。
詳しくは弁護士に相談しましょう。

弁護士法人ASKの弁護士相談・顧問契約をご希望の方はこちらまで

日本国憲法28条では、団結権、団体交渉権・団体行動権と呼ばれる労働三権が保障されています。

団結権労働者が労働組合を結成する権利
団体交渉権労働者が使用者(会社)と団体交渉する権利
団体行動権(争議権)労働者が要求実現のために団体で行動する権利

そして、労働三権をより具体的に保障するために、一般法として労働組合法が定められています。
労働組合法では、労働組合に対して、使用者との間で労働協約を締結する権利を認めるとともに、使用者が労働組合及び労働組合員に対して不利益な取り扱いをすることなど(不当労働行為)を禁止しています(厚生労働省HP:「労働組合」参照)。

労働組合法(労組法)において、「労働者」とは、「職業の種類を問わず、賃金、給料、その他これに準ずる収入によって生活する者をいう」と定められています(労組法3条)。
この「労働者」性をめぐっては、労組法の文言が抽象的であること、労働基準法における労働者性とは定義が異なることなどから、労働者に該当するか否かが争われることがあります。

そこで、今回は、請負工事の個人作業者が労組法上の「労働者」にあたるのか否か?が争われた裁判例をご紹介したいと思います。

裁判例のご紹介(国・中労委(ワットラインサービス)事件・東京高裁令和6年11月6日判決)

どんな事案?

本件は、X社と請負契約を締結して電気メーターの取付・据置及び交換工事に従事する個人の作業者が加盟等する労働組合が、X社に対して団体交渉の申し入れをしたところ、X社が団体交渉を拒否したことから、これがX社の不当労働行為に当たるかどうかが争われた事案です。

何が起きたか?

X社について

X社は、電気メーターの物流とそれに関わる各種事業等を営む会社であり、計器工事部は、B1社から受注する計器工事を主な業務としていました。
そして、X社は、B1社の支社や営業所に対応させて工事所を設けていました。

工事作業者について

X社がB1社から受注した計器工事に従事する計器工事作業者は、個人作業者と法人作業者に分類されていました。

個人作業者とはX社と直接に請負契約を締結した作業者のこと
法人作業者とはX社と委託法人が請負契約を締結し、委託法人と雇用契約または請負契約を締結した作業者のこと

労働組合について

全労連・全国一般労働組合東京地方本部(東京地本)は昭和26年3月結成の、業種を問わず、また多様な雇用形態で働く東京都の労働者を対象に組織された団体(労組法11条1校に基づく登記をした法人)であり、主に東京都に所在する単位労働組合によって構成されていました。
また、同全労連・全国一般労働組合東京地方本部一般合同労働組合(合同労組)は、平成13年10月に結成された個人加盟の団体であり、東京地本に組織加盟をしていました。
そして、個人作業者らは、平成30年11月頃、同全労連・全国一般労働組合東京地方本部一般合同労働組合計器工事関連分会(分会)を結成しました。

X社への申し入れ1

東京地本、合同労組、分会(以下「Aら」といいます)は、平成30年12月7日付で連名によりX社に対し、個人作業者の労働組合への加盟と分会の結成等を通知するとともに、本件申し入れ1をしました。
本件申し入れ1は、平成31年度の計器工事に関する要求、分会のDに対する請負契約解除の撤回、罰則規定に関する要求、工事所の機構改変等に関する事前協議の要求、組合活動に関する要求を内容とするものでした。
しかし、X社は同月11日付で、個人作業者はX社が労働契約を締結している従業員ではない、として団体交渉を行う予定はない旨の回答をし、その後も同様の返答を繰り返しました。

救済命令の申立て

そこで、Aらは、東京都労働委員会(都労委)に対し、本件申し入れ1に対するX社の対応について、不当労働行為救済命令申立てをしました。

請負契約終了の通知

X社は、個人作業者に対して、平成30年12月20日付で、本件請負契約は平成31年3月20日付をもって終了する旨を通知しました。
そして、契約期間を同年1月21日から令和2年3月20日までとする平成30年12月27日付請負契約書(未署名のもの)を交付し、同日までに署名することを求めました(分会Dを除く)。

X社への申し入れ2

Aらは、平成30年12月26日付で連名によりX社に対し、契約内容の不利益変更の中止と契約更新手続期限の延期等を要求し、関連する事項を交渉議題とする本件申し入れ2を行いました。
しかし、X社は同月11日付回答と同様の個人作業者はX社が労働契約を締結している従業員ではない、として団体交渉を行う予定はない旨の回答をし、その後も同様の返答を繰り返しました。

救済命令の申立て

そこで、Aらは、東京都労働委員会(都労委)に対し、本件申し入れ2に対するX社の対応についても、追加の不当労働行為救済命令申立てをしました。

東京都労働委員会(都労委)の命令

東京都労働委員会(都労委)は、X社が本件各申し入れに応じなかったことは、労組法7条2号、3号の不当労働行為に該当するとして初審命令を発しました。
そして、中央労働委員会も再審査を棄却する旨の命令を発しました(本件命令)。

本件訴えの提起

そこで、X社は、Y(国)に対して、本件命令の取り消しを求める訴えを提起しました。

何が問題になったか(争点)

本件では、X社と請負契約を締結している個人作業者が労組法上の「労働者」に当たるかどうか?が問題になりました。

※なお、このほかにも争われた点がありますが、本解説記事では省略します。

裁判所の判断

裁判所は、個人作業者は、X社との関係において、労組法上の「労働者」に当たると判断しました。

以下、なぜこのような結論に至ったのか、判決のポイントを見ていきます。

判決のポイント

労組法上の労働者とは

まず、裁判所は、労組法3条は「法3条は、労働者を「職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によって生活する者」と定義しており、使用者に使用されることを要件としていない」ことを指摘した上、同法の目的及び同法が種々の制度を設けていることに鑑みれば、「労組法にいう「労働者」は、厳密な意味で使用者の指揮監督下で労務を提供して賃金を得る者に限らず、労働契約に類する契約によって労務を提供して収入を得る者で、労働契約下にあるものと同等に使用者との交渉上の対等性を確保するために法の保護を及ぼすことが必要かつ適切と認められる者をも含むと解するのが相当である。」と示しました。

労働者性の判断要素とは

そして、裁判所は、「個人作業者とX社との契約は、少なくとも法形式上は請負契約であるので、個人作業者は、直ちに労働契約によって労務を提供する者とはいえないが、本件請負契約によってX社に労務を提供して収入を得ている者であることは明らかである」ことから、「個人作業者が労働契約下にあるものと同等に使用者と交渉上の対等性を確保するために労働法の保護を及ぼすことが必要かつ適切であると認められるかどうかについて、個人作業者の就労実態に即して、〈1〉事業組織への組入れ、〈2〉契約内容の一方的、定型的決定、〈3〉報酬の労務対価性、〈4〉業務の依頼に応ずべき関係、〈5〉広い意味での指揮監督下の労務提供、一定の時間的場所的拘束、〈6〉顕著な事業者性などの諸要素を総合的に考慮して判断すべきである。」との判断要素を示しました。

個人作業者は「労働者」に当たる

その上で、裁判所は、それぞれの要素について具体的に検討し、これらを総合的に考慮すれば、「個人作業者は、X社との関係において、労組法上の労働者であると認められる」と判断しました。

要素裁判所の判断
①事業組織への組入れ◯(X社は、個人作業者をX社の事業遂行に不可欠かつ枢要な労働力を恒常的に提供する者として事業組織に組み入れていたと評価することができる)
②契約内容の一方的、定型的決定◯(X社は、個人作業者との契約内容を一方的定型的に決定していたというべきである)
③報酬の労務対価性◯(X社が計器工事作業者に支払っている報酬は、労務対価性があると評価できる)
④業務の依頼に応ずべき関係◯(個人作業者は、X社の個々の業務の依頼に対して、基本的に応ずべき関係にあったということができる)
⑤広い意味での指揮監督下の労務提供、一定の時間的場所的拘束◯(個人作業者は、X社の具体的な指示に沿って労務を提供しており、広い意味でのの指揮監督の下にあったことが認められるとともに、労務提供について一定の時間的場所的な拘束を受けていたといえる)
⑥顕著な事業者性×(個人作業者には、顕著な事業者性があるとは認められない)

労組法上の「労働者」は法の保護を及ぼすことが必要かつ適切と認められる者も広く含む概念です

さて、今回ご紹介した裁判例では、請負契約を締結する個人作業者について、労組法上の「労働者」に当たるかどうかが争われていました。

労働基準法において、「労働者」とは、「職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。」と定められており(労基法9条)、「使用される」ことが要件の一つとなっています。
他方で、労働組合法において、「労働者」とは、「職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によって生活する者」と定められており(労組法3条)、労基法と異なって、厳密な意味での使用者の指揮監督下における労務の提供という性質が求められているものではありません。
そのため、労組法における「労働者」に当たるかどうかを判断するに際しては、「労働契約下にあるものと同等に使用者との交渉上の対等性を確保するために法の保護を及ぼすことが必要かつ適切と認められる者」であるかどうか、が重要なポイントになります。

したがって、団体交渉などを申し入れられた場合に、「請負契約だから、労組法にいう労働者には当たらないはずだ」と直ちに決めつけないように注意が必要です。

弁護士にもご相談ください

労働組合からの団体交渉の申入れなどが突然なされた場合、驚いて拒絶したくなるかもしれません。
しかし、一方的に拒絶することは不当労働行為に該当してしまいます。
不当労働行為は労組法において禁止される行為であるため、救済命令などに発展していくリスクがあります。
団体交渉の申入れを受けたときはまず冷静になって、弁護士に相談してみることがおすすめです。

なお、コンビニのフランチャイズオーナーが労働組合法上の「労働者」にあたるかが争われた事案は次をご覧ください。

労働組合・ユニオンへの対応についてお悩みがある場合には、弁護士法人ASKにご相談ください。

弁護士法人ASKの弁護士相談・顧問契約をご希望の方はこちらまで